第八話 盗賊のアジト
盗賊団との戦闘が終わってから、一時間後――。
街道脇の空き地では、捕らえられた盗賊たちが縄で縛られていた。
全員無力化済み。
逃げ出す気力すら残っていない。
護衛冒険者たちが見張りを担当し、盗賊たちは地面へ座らされている。
その中で、ビルセイヤは盗賊団の頭の前に立っていた。
「聞きたいことがある」
静かな声だった。
だが、盗賊の頭は肩を震わせる。
先ほどまでの威勢は、もうどこにもなかった。
「な、何だ……」
「お前たちのアジトはどこだ?」
男の表情が固まる。
しばしの沈黙。
だが、隠し通せる状況ではない。
仲間は全員捕まり、逃げ場もない。
やがて男は観念したように肩を落とした。
「……森の奥だ。街道から少し外れた場所にある」
ビルセイヤは頷く。
予想通りだった。
盗賊は必ず拠点を持つ。
そして拠点には証拠が残る。
被害品もあるかもしれない。
「行くんですか?」
セシリアが尋ねる。
「行こう」
ビルセイヤは迷わず答えた。
「盗品が残っている可能性がある。持ち主が分かるなら返したい」
その言葉に、エミリアがふっと微笑む。
やはり、この人らしい。
強いだけではない。
困っている人を放っておけない。
それがビルセイヤという青年だった。
「素晴らしいですぞ!」
ギルバートも大きく頷く。
「商人としても大賛成です! 盗賊は商人の天敵ですからな!」
妙に説得力があった。
こうして一行は、盗賊の案内で森へ入ることになった。
しばらく進むと、景色が変わった。
木々が密集し、街道の気配が遠ざかっていく。
人の手が入っていない森特有の、ひんやりとした空気が肌にまとわりついた。
やがて小さな谷へ辿り着く。
その奥――岩場に隠れるようにして、木造の建物が建っていた。
「ここです……」
盗賊の頭が力なく呟く。
見張りの姿はない。
先ほど街道へ出ていた者たちが主力だったのだろう。
セシリアが周囲を確認する。
「人の気配はありません」
エミリアも魔力探知を行い、小さく頷いた。
「大丈夫そうです」
ビルセイヤたちは慎重に近付き、建物の中へ足を踏み入れた。
「これは……」
中へ入った瞬間、エミリアが眉をひそめる。
室内には、大量の荷物が積み上げられていた。
武器。
防具。
衣類。
食料。
薬品。
さらには、商会の刻印が入った木箱まである。
明らかに盗品だった。
「思った以上ですな……」
ギルバートの表情が曇る。
「これだけの被害を出していたとは……」
商人として見過ごせない光景なのだろう。
その時だった。
ビルセイヤの視線が、部屋の奥へ向く。
一振りの剣が、棚の上に置かれていた。
何気なく手に取る。
そして、目を細めた。
「どうしたんですか?」
セシリアが尋ねる。
「良い剣だ」
短い言葉だった。
だが、その声には確かな評価が込められていた。
刀身の造り。
重心の位置。
鍛え方。
どれも丁寧だった。
名も知らぬ鍛冶師が、真剣に打った剣だと分かる。
「職人の魂が入っている」
ビルセイヤは静かに呟いた。
鍛冶師だからこそ分かる。
武器は、ただの鉄の塊ではない。
作り手の技術。
経験。
誇り。
その全てが込められている。
「盗まれたのでしょうな」
ギルバートが言う。
「なら、持ち主へ返さないとな」
ビルセイヤは剣を丁寧に鞘へ戻した。
その時だった。
カタン――。
小さな音が響く。
一瞬で空気が変わった。
ビルセイヤが振り向く。
セシリアが剣を抜く。
エミリアも杖を構えた。
音は建物の奥から聞こえた。
誰かいる。
ビルセイヤたちは、ゆっくりと奥の部屋へ近付いていく。
そして――。
ギィィ……。
古びた扉が、静かに開いた。
そこから現れたのは、一人の少女だった。
年齢は十五歳前後。
薄汚れた服。
乱れた髪。
痩せた身体。
だが――。
その顔立ちは驚くほど整っていた。
どこか育ちの良さすら感じさせる。
そして何より、その瞳には深い恐怖が宿っていた。
「た……助けて……」
震える声だった。
小さな身体が崩れるようによろめく。
セシリアが慌てて駆け寄る。
「大丈夫です!」
「もう安心してください!」
少女はその言葉を聞いた途端、張り詰めていた糸が切れたように膝から崩れ落ちた。
盗賊団のアジトで見つかった、謎の少女。
彼女はいったい何者なのか。
なぜ、こんな場所に囚われていたのか。
新たな出会いが、ビルセイヤたちを次なる物語へ導こうとしていた。
――続く。




