第七話 盗賊討伐
街道を塞ぐ盗賊団。
その数、およそ十五人。
対するこちらは、ビルセイヤたち三人に護衛冒険者二人。
人数だけを見れば、盗賊側が有利だった。
だが――。
実力差は、あまりにも絶望的だった。
「やっちまえぇぇ!」
盗賊の頭が叫ぶ。
同時に、数人の盗賊が武器を振り上げながら突撃してきた。
剣。
棍棒。
斧。
装備は粗末だが、素人ではない。
これまで何度も商人や旅人を襲ってきたのだろう。
だが――。
「遅い」
ビルセイヤが静かに呟いた。
相手の動きを見切る。
呼吸。
重心。
足運び。
剣術の理は、相手を観察することから始まる。
そして――。
ビルセイヤは一歩だけ踏み込んだ。
それだけだった。
ガキィンッ!!
鋭い音が響く。
盗賊の剣が、宙を舞った。
「なっ!?」
武器を弾き飛ばされた盗賊が目を見開く。
次の瞬間。
ドゴッ!!
ビルセイヤの拳が、盗賊の腹部へめり込んだ。
「ぐはぁっ!!」
盗賊の身体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、そのまま気絶した。
一撃。
たった一撃だった。
「ば、馬鹿な……」
盗賊たちが動揺する。
そこへ――。
「私もいますよ!」
セシリアが飛び出した。
Bランク冒険者。
その実力は、街道の盗賊程度が相手になるものではない。
剣が閃く。
ガキンッ!
盗賊の剣を弾き飛ばし、そのまま足払いを叩き込む。
「うわっ!?」
バランスを崩した盗賊が地面へ倒れ込む。
そして次の瞬間には、首元へ剣が突き付けられていた。
「降参しますか?」
「ひぃっ!」
即答だった。
戦う気力など、完全に消えている。
一方――。
「風よ――」
エミリアも静かに詠唱していた。
「ウィンドバインド」
風が渦を巻く。
次の瞬間、複数の盗賊の身体へ風の縄が絡み付いた。
「なっ!?」
「動けねぇ!」
数人がまとめて拘束される。
エルフの魔法は正確だった。
まるで狩人が獲物を絡め取るかのように、無駄がない。
戦況は完全に一方的だった。
盗賊たちは徐々に恐怖を覚え始める。
おかしい。
こんなはずではなかった。
いつもの商人馬車だと思った。
護衛も少ない。
楽な獲物だと思った。
だが、現実は違う。
強い。
強すぎる。
「お、お前ら何者なんだ!?」
盗賊の頭が叫ぶ。
すると――。
なぜかギルバートが一歩前へ出た。
胸を張る。
なぜか得意げだった。
「知らないのですか?」
ギルバートが誇らしげに言い放つ。
「こちらは王都でオークロードを討伐した冒険者ですぞ!」
盗賊たちの顔色が変わった。
「オークロード……?」
「ま、まさか……」
誰もがその名を知っていた。
普通の冒険者では相手にもならない魔物。
そんな怪物を倒した冒険者たち。
今さら理解する。
自分たちは、相手を間違えたのだと。
「に、逃げろぉぉぉ!!」
盗賊の頭が叫ぶ。
真っ先に背を向けた。
仲間たちも続く。
だが――。
「逃がしません」
セシリアが前へ出た。
一瞬で加速する。
盗賊の頭の前へ、まるで風のように回り込んだ。
「なっ!?」
速い。
見えなかった。
そして――。
コツン。
剣の柄が、盗賊の後頭部へ軽く当たる。
「ぎゃふっ」
盗賊の頭が崩れ落ちた。
見事な気絶攻撃だった。
その姿を見た残りの盗賊たちも、完全に戦意を失う。
「降参だ!」
「助けてくれ!」
こうして――。
盗賊団は壊滅した。
戦闘時間、わずか数分。
圧勝だった。
ギルバートは呆然と、その光景を見つめていた。
「凄い……」
「本当に凄いですぞ……」
昨夜、話は聞いていた。
オークロード討伐。
王都での活躍。
だが、実際に目の前で見るのでは、まるで違う。
圧倒的な実力。
冷静な判断力。
そして仲間との連携。
ギルバートの商人としての勘が告げていた。
この青年は、必ず大物になる。
いや――。
すでに大物への道を歩き始めている。
そして彼は、まだ知らない。
街道で偶然出会ったこの青年が、後に世界を救う英雄となり、
さらに伝説として語り継がれる存在になることを。
運命の歯車は、確実に回り始めていた。
――続く。




