表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/154

第五話 商機の匂い

 翌朝――。


◇◇◇


 街道沿いの野営地は、朝日と共に活気を取り戻していた。


◇◇◇


 商人たちは荷物の確認を行い、護衛の冒険者たちは武器の手入れをしている。


◇◇◇


 旅人たちはそれぞれの目的地へ向けて出発の準備を進めていた。


◇◇◇


「それでは皆さん、良い旅を!」


◇◇◇


 ギルバードが満面の笑みで手を振る。


◇◇◇


「ギルバードさんもお気を付けて」


◇◇◇


 セシリアが笑顔で返した。


◇◇◇


 こうして商人馬車と別れたビルセイヤたちは、再び街道を西へ向かって歩き始める。


◇◇◇


 穏やかな旅路だった。


◇◇◇


 空は青く。


 風は心地良い。


◇◇◇


 昼過ぎになる頃には、野営地もすっかり見えなくなっていた。


◇◇◇


 だが――。


◇◇◇


 ガラガラガラガラ!!


◇◇◇


 突然、後方から激しい馬車の音が聞こえてきた。


◇◇◇


「ん?」


◇◇◇


 ビルセイヤが振り返る。


◇◇◇


 土煙を上げながら猛スピードで近付いてくる馬車があった。


◇◇◇


 見覚えがある。


◇◇◇


「ギルバードさん?」


◇◇◇


 エミリアが目を瞬く。


◇◇◇


 間違いない。


◇◇◇


 先ほど別れたばかりの商人馬車だった。


◇◇◇


 しかも異常な速度でこちらへ向かって来る。


◇◇◇


 やがて馬車が急停止した。


◇◇◇


 ギギギギッ!!


◇◇◇


 御者も驚くほどの急ブレーキだった。


◇◇◇


「ビルセイヤ殿!!」


◇◇◇


 ギルバードが飛び降りる。


◇◇◇


 そして全力疾走で駆け寄ってきた。


◇◇◇


 息が荒い。


◇◇◇


 顔も真剣そのものだ。


◇◇◇


「どうしたんですか?」


◇◇◇


 セシリアが驚いて尋ねる。


◇◇◇


 盗賊でも出たのかと思った。


◇◇◇


 しかし違った。


◇◇◇


「思い出したのです!!」


◇◇◇


 ギルバードが叫ぶ。


◇◇◇


「何をです?」


◇◇◇


「昨夜の話です!」


◇◇◇


 意味が分からない。


◇◇◇


 ビルセイヤたちは揃って首を傾げた。


◇◇◇


 ギルバードは勢いよくビルセイヤの肩を掴む。


◇◇◇


「ビルセイヤ殿!」


◇◇◇


「鍛冶はできますな!?」


◇◇◇


「できますけど」


◇◇◇


「武器も作れますな!?」


◇◇◇


「作れます」


◇◇◇


「包丁は!?」


◇◇◇


「作れます」


◇◇◇


「農具は!?」


◇◇◇


「作れます」


◇◇◇


 ギルバードの動きが止まった。


◇◇◇


 数秒間の沈黙。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 両手で頭を抱えた。


◇◇◇


「なぜ昨夜聞かなかったのですかぁぁぁぁ!!」


◇◇◇


 本人に言われても困る。


◇◇◇


 セシリアとエミリアは呆然としていた。


◇◇◇


 どうやら大事なことに今になって気付いたらしい。


◇◇◇


「ビルセイヤ殿!」


◇◇◇


 ギルバードが再び顔を上げる。


◇◇◇


 その目は商人の目だった。


◇◇◇


 獲物を見付けた猛獣のような輝きがある。


◇◇◇


「エメラルド・グリーンへ着いたら工房を貸します!」


◇◇◇


「工房?」


◇◇◇


「試作品を作りましょう!」


◇◇◇


 勢いが凄い。


◇◇◇


 だがギルバードは止まらない。


◇◇◇


「良い武器なら売れます!」


◇◇◇


「良い包丁ならもっと売れます!」


◇◇◇


「良い農具なら農家が飛び付きます!」


◇◇◇


 次々と言葉が飛び出す。


◇◇◇


 完全に商売人の顔だった。


◇◇◇


 ビルセイヤは腕を組む。


◇◇◇


 少し考える。


◇◇◇


 確かに興味はあった。


◇◇◇


 自分の鍛冶技術がどこまで通用するのか。


◇◇◇


 試してみたい気持ちはある。


◇◇◇


「面白そうですね」


◇◇◇


 その一言だった。


◇◇◇


「ですよなぁぁぁ!!」


◇◇◇


 ギルバードが歓喜した。


◇◇◇


「商機ですぞ!」


◇◇◇


「これは大商機ですぞ!」


◇◇◇


 セシリアが苦笑する。


◇◇◇


 昨日知り合ったばかりなのに妙に息が合っている。


◇◇◇


 いや。


◇◇◇


 正しくは違う。


◇◇◇


 二人は似た者同士なのだ。


◇◇◇


 ビルセイヤは鍛冶馬鹿。


◇◇◇


 ギルバードは商売馬鹿。


◇◇◇


 だからこそ話が噛み合う。


◇◇◇


「そんなに売れるものなんですか?」


◇◇◇


 セシリアが疑問を口にした。


◇◇◇


 するとギルバードの表情が真面目になる。


◇◇◇


「良い商品は必ず売れます」


◇◇◇


 断言だった。


◇◇◇


「わしは鍛冶師ではありません」


◇◇◇


「ですが人が欲しがる物は分かります」


◇◇◇


「それが商人です」


◇◇◇


 長年商売の世界で生きてきた男の言葉。


◇◇◇


 そこには確かな重みがあった。


◇◇◇


「もしビルセイヤ殿の作品が本物なら――」


◇◇◇


 ギルバードは不敵に笑う。


◇◇◇


「王国中へ売り込みますぞ」


◇◇◇


 その瞳は希望に満ちていた。


◇◇◇


 まるで金鉱脈を見付けた探鉱者のように。


◇◇◇


 この時。


◇◇◇


 誰も知らなかった。


◇◇◇


 この出会いが。


◇◇◇


 後に王国の武器事情を変え。


 料理人たちの常識を変え。


 農業の発展にまで影響を与えることを。


◇◇◇


 そしてギルバード自身もまだ知らない。


◇◇◇


 王都帰りの街道で出会った一人の冒険者が。


◇◇◇


 自らの人生を大きく変える存在になることを。


◇◇◇


 運命の歯車は静かに回り始めていた。


第二章 第五話


「商機の匂い」


――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ