第五話 商機の匂い
翌朝――。
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街道沿いの野営地は、朝日と共に活気を取り戻していた。
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商人たちは荷物の確認を行い、護衛の冒険者たちは武器の手入れをしている。
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旅人たちはそれぞれの目的地へ向けて出発の準備を進めていた。
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「それでは皆さん、良い旅を!」
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ギルバードが満面の笑みで手を振る。
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「ギルバードさんもお気を付けて」
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セシリアが笑顔で返した。
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こうして商人馬車と別れたビルセイヤたちは、再び街道を西へ向かって歩き始める。
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穏やかな旅路だった。
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空は青く。
風は心地良い。
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昼過ぎになる頃には、野営地もすっかり見えなくなっていた。
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だが――。
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ガラガラガラガラ!!
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突然、後方から激しい馬車の音が聞こえてきた。
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「ん?」
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ビルセイヤが振り返る。
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土煙を上げながら猛スピードで近付いてくる馬車があった。
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見覚えがある。
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「ギルバードさん?」
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エミリアが目を瞬く。
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間違いない。
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先ほど別れたばかりの商人馬車だった。
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しかも異常な速度でこちらへ向かって来る。
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やがて馬車が急停止した。
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ギギギギッ!!
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御者も驚くほどの急ブレーキだった。
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「ビルセイヤ殿!!」
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ギルバードが飛び降りる。
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そして全力疾走で駆け寄ってきた。
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息が荒い。
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顔も真剣そのものだ。
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「どうしたんですか?」
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セシリアが驚いて尋ねる。
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盗賊でも出たのかと思った。
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しかし違った。
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「思い出したのです!!」
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ギルバードが叫ぶ。
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「何をです?」
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「昨夜の話です!」
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意味が分からない。
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ビルセイヤたちは揃って首を傾げた。
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ギルバードは勢いよくビルセイヤの肩を掴む。
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「ビルセイヤ殿!」
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「鍛冶はできますな!?」
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「できますけど」
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「武器も作れますな!?」
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「作れます」
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「包丁は!?」
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「作れます」
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「農具は!?」
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「作れます」
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ギルバードの動きが止まった。
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数秒間の沈黙。
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そして。
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両手で頭を抱えた。
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「なぜ昨夜聞かなかったのですかぁぁぁぁ!!」
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本人に言われても困る。
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セシリアとエミリアは呆然としていた。
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どうやら大事なことに今になって気付いたらしい。
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「ビルセイヤ殿!」
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ギルバードが再び顔を上げる。
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その目は商人の目だった。
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獲物を見付けた猛獣のような輝きがある。
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「エメラルド・グリーンへ着いたら工房を貸します!」
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「工房?」
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「試作品を作りましょう!」
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勢いが凄い。
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だがギルバードは止まらない。
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「良い武器なら売れます!」
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「良い包丁ならもっと売れます!」
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「良い農具なら農家が飛び付きます!」
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次々と言葉が飛び出す。
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完全に商売人の顔だった。
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ビルセイヤは腕を組む。
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少し考える。
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確かに興味はあった。
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自分の鍛冶技術がどこまで通用するのか。
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試してみたい気持ちはある。
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「面白そうですね」
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その一言だった。
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「ですよなぁぁぁ!!」
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ギルバードが歓喜した。
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「商機ですぞ!」
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「これは大商機ですぞ!」
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セシリアが苦笑する。
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昨日知り合ったばかりなのに妙に息が合っている。
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いや。
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正しくは違う。
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二人は似た者同士なのだ。
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ビルセイヤは鍛冶馬鹿。
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ギルバードは商売馬鹿。
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だからこそ話が噛み合う。
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「そんなに売れるものなんですか?」
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セシリアが疑問を口にした。
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するとギルバードの表情が真面目になる。
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「良い商品は必ず売れます」
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断言だった。
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「わしは鍛冶師ではありません」
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「ですが人が欲しがる物は分かります」
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「それが商人です」
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長年商売の世界で生きてきた男の言葉。
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そこには確かな重みがあった。
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「もしビルセイヤ殿の作品が本物なら――」
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ギルバードは不敵に笑う。
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「王国中へ売り込みますぞ」
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その瞳は希望に満ちていた。
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まるで金鉱脈を見付けた探鉱者のように。
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この時。
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誰も知らなかった。
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この出会いが。
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後に王国の武器事情を変え。
料理人たちの常識を変え。
農業の発展にまで影響を与えることを。
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そしてギルバード自身もまだ知らない。
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王都帰りの街道で出会った一人の冒険者が。
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自らの人生を大きく変える存在になることを。
◇◇◇
運命の歯車は静かに回り始めていた。
第二章 第五話
「商機の匂い」
――続く。




