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第四話 商人ギルバート

 野営地に夜の帳が下りる。


◇◇◇


 焚き火の炎が静かに揺れ、旅人たちはそれぞれ夕食を囲んでいた。


◇◇◇


 商人たちは翌日の行程を確認し、冒険者たちは武器の手入れを行う。


◇◇◇


 旅の途中にある、ありふれた夜の光景だった。


◇◇◇


 そんな中。


◇◇◇


「お初にお目にかかります!」


◇◇◇


 勢いよく頭を下げた男がいた。


◇◇◇


 先ほど野営地へ到着した商人である。


◇◇◇


「私はギルバートと申します!」


◇◇◇


「伯爵領エメラルド・グリーンで商会を営んでおります!」


◇◇◇


 年齢は四十代後半ほど。


◇◇◇


 丸々とした体格に、人懐っこい笑顔。


◇◇◇


 一目で商売人だと分かる人物だった。


◇◇◇


「ビルセイヤです」


◇◇◇


「セシリアです」


◇◇◇


「エミリアです」


◇◇◇


 三人も挨拶を返す。


◇◇◇


 するとギルバートの顔がさらに明るくなった。


◇◇◇


「やはり本物でしたか!」


◇◇◇


「王都で噂になっておりますぞ!」


◇◇◇


 セシリアが苦笑する。


◇◇◇


 どうやら想像以上に名前が広まっているらしい。


◇◇◇


「そんな大したことではありません」


◇◇◇


 ビルセイヤは謙遜した。


◇◇◇


 だがギルバートは大きく首を横に振る。


◇◇◇


「いえいえ!」


◇◇◇


「オークロード討伐など普通の冒険者では成し遂げられません!」


◇◇◇


「しかも王家から評価されていると聞いておりますぞ!」


◇◇◇


 どこから情報を仕入れているのか。


◇◇◇


 商人の情報網は侮れない。


◇◇◇


「それより」


◇◇◇


 ビルセイヤが話題を変える。


◇◇◇


「ギルバートさんはエメラルド・グリーンの商人なんですよね?」


◇◇◇


「ええ!」


◇◇◇


 ギルバートが胸を張った。


◇◇◇


「かれこれ三十年以上商売をしております!」


◇◇◇


 ベテラン中のベテランである。


◇◇◇


「どんな街なんですか?」


◇◇◇


 エミリアが興味深そうに尋ねる。


◇◇◇


 するとギルバートは待ってましたとばかりに語り始めた。


◇◇◇


「素晴らしい街ですよ!」


◇◇◇


「王都ほど大きくはありませんが、とても活気があります!」


◇◇◇


「商人も職人も多い!」


◇◇◇


「特に木工職人と鍛冶師は有名ですな!」


◇◇◇


 その瞬間。


◇◇◇


 ビルセイヤの耳がぴくりと動いた。


◇◇◇


「鍛冶師?」


◇◇◇


 声の調子が明らかに変わる。


◇◇◇


 セシリアが嫌な予感を覚えた。


◇◇◇


「おお!」


◇◇◇


 ギルバートが嬉しそうに頷く。


◇◇◇


「優秀な鍛冶師が数多くおります!」


◇◇◇


「武器も農具も質が高い!」


◇◇◇


「王都から直接注文が来る職人もおりますぞ!」


◇◇◇


 ビルセイヤの目が輝いた。


◇◇◇


 完全に食いついた。


◇◇◇


 セシリアとエミリアは同時にため息をつく。


◇◇◇


 予想通りだった。


◇◇◇


「鍛冶師ギルドは大きいですか?」


◇◇◇


「もちろんです!」


◇◇◇


「職人街の中心にありますぞ!」


◇◇◇


「ほう……」


◇◇◇


 完全に興味津々だった。


◇◇◇


 そこからしばらく。


◇◇◇


 話題は鍛冶一色になる。


◇◇◇


 鉄鉱石。


 鋼材。


 鍛造技術。


 武器の品質。


◇◇◇


 ギルバートも商人だけあって知識が豊富だった。


◇◇◇


 気付けば二人だけで盛り上がっている。


◇◇◇


「楽しそうですね……」


◇◇◇


 セシリアが呆れ半分で呟く。


◇◇◇


「本当に好きなんですね」


◇◇◇


 エミリアも苦笑した。


◇◇◇


 ビルセイヤが剣士であることは間違いない。


◇◇◇


 だが本質は鍛冶師なのかもしれない。


◇◇◇


 やがて話題は街の事情へ移った。


◇◇◇


 その時だった。


◇◇◇


 ギルバートの表情が少し曇る。


◇◇◇


「実は最近、少し物騒でしてな」


◇◇◇


「何かあったんですか?」


◇◇◇


 セシリアが尋ねる。


◇◇◇


「街道で盗賊が出るようになったのです」


◇◇◇


 三人の表情が変わった。


◇◇◇


 盗賊。


◇◇◇


 冒険者にとって決して無関係ではない存在だ。


◇◇◇


「強い相手なんですか?」


◇◇◇


 ビルセイヤが聞く。


◇◇◇


「そこまでではありません」


◇◇◇


「ですが数が多いのです」


◇◇◇


 ギルバートは困ったように肩を竦めた。


◇◇◇


「各地へ散って活動しておりますのでな」


◇◇◇


「捕まえても別の場所で現れる」


◇◇◇


「商人たちは大変困っております」


◇◇◇


 護衛費の高騰。


 交易量の減少。


◇◇◇


 商業都市にとって深刻な問題らしい。


◇◇◇


「冒険者ギルドは?」


◇◇◇


 エミリアが尋ねる。


◇◇◇


「討伐依頼は出ています」


◇◇◇


「ですが完全には解決できておりません」


◇◇◇


 なるほど。


◇◇◇


 厄介な相手のようだ。


◇◇◇


 ビルセイヤは静かに考える。


◇◇◇


 もし遭遇したら放置はできない。


◇◇◇


 困っている人がいるなら助けたい。


◇◇◇


 そんな性格を二人はよく知っていた。


◇◇◇


 セシリアとエミリアが顔を見合わせる。


◇◇◇


 また何かに首を突っ込みそうだ。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 それこそがビルセイヤらしい。


◇◇◇


 夜は更けていく。


◇◇◇


 焚き火の炎が小さくなり始めた頃。


◇◇◇


「では私はそろそろ休ませていただきます」


◇◇◇


 ギルバートが立ち上がった。


◇◇◇


「楽しい時間をありがとうございました」


◇◇◇


「こちらこそ」


◇◇◇


 ビルセイヤも頭を下げる。


◇◇◇


 するとギルバートは笑顔で言った。


◇◇◇


「エメラルド・グリーンへ来られた際は、ぜひ私の商会へお越しください!」


◇◇◇


「歓迎いたしますぞ!」


◇◇◇


 そう言い残し、自分の馬車へ戻っていった。


◇◇◇


 静かな夜。


◇◇◇


 焚き火を見つめながら、ビルセイヤは空を見上げる。


◇◇◇


 新しい街。


 新しい出会い。


 新しい技術。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 まだ見ぬ鍛冶師たち。


◇◇◇


 エメラルド・グリーンへの期待は、ますます大きくなっていくのだった。


第二章 第四話


「商人ギルバート」


――続く。

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