第三話 街道の野営
王都アルティアを旅立って一日目――。
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ビルセイヤたちは西へ続く街道を進んでいた。
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目的地は伯爵領エメラルド・グリーン。
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王国第二の都市と呼ばれる大商業都市である。
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王都から馬車なら一日半ほど。
徒歩なら三日から四日。
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急ぐ必要のない旅路だった。
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三人は周囲の景色を楽しみながら歩いている。
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「良い天気ですね」
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セシリアが空を見上げた。
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どこまでも続く青空。
心地良い風。
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街道の両脇には緑の草原が広がり、遠くには森や山々の姿も見える。
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王都周辺らしい平和な光景だった。
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「本当に平和ですね」
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エミリアも周囲を見回す。
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「魔物の気配もほとんどありません」
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実際、出発してから一度も戦闘になっていない。
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王都周辺の街道は騎士団や冒険者が定期的に巡回している。
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そのため比較的安全が保たれているのだ。
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「平和なのは良いことだ」
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ビルセイヤはそう言いながら街道脇へしゃがみ込む。
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そして石を拾った。
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じっと見つめる。
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ひっくり返す。
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さらに眺める。
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「何してるんですか?」
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セシリアが不思議そうに尋ねた。
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「鉄鉱石じゃないかと思って」
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「違います」
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即答だった。
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どう見てもただの石である。
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「そうか……」
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少し残念そうに石を置くビルセイヤ。
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セシリアとエミリアは顔を見合わせた。
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本当に鍛冶が好きなのだ。
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ここまで来ると感心すらする。
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そんな他愛ない会話を交わしながら街道を進む。
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そして夕方。
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太陽が西へ傾き始めた頃。
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三人は街道沿いに設けられた野営地へ到着した。
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旅人や商人たちが利用する休憩地点である。
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井戸があり、簡易的な炊事場も整備されている。
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旅人たちにとって貴重な施設だった。
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「今日はここで野営ですね」
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エミリアが言う。
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三人は慣れた手付きで準備を始めた。
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テントを設営し。
薪を集め。
寝床を整える。
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冒険者にとって野営は基本中の基本だった。
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特にセシリアは経験豊富である。
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「できました!」
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立派なテントが完成した。
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一方のビルセイヤも大量の薪を抱えて戻ってくる。
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焚き火を起こす。
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パチパチと薪が弾ける音。
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徐々に辺りが暗くなっていく。
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やがて夕食の時間になった。
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干し肉。
パン。
野菜入りの簡単なスープ。
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決して豪華な食事ではない。
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だが旅先で仲間と囲む食卓には特別な味がある。
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「美味しいですね」
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セシリアが幸せそうに微笑む。
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「王都の料理も良かったですけど、こういうのも好きです」
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「分かる」
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ビルセイヤも頷いた。
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焚き火を囲む時間。
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仲間と他愛ない話をする時間。
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それだけで不思議と心が落ち着く。
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異世界へ来てから様々なことがあった。
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戦い。
出会い。
別れ。
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だが今は穏やかな時間が流れている。
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そんな時だった。
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ガラガラガラ――。
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遠くから馬車の音が聞こえてきた。
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一台の大型馬車が野営地へ入ってくる。
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立派な商人馬車だった。
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護衛らしい冒険者が二人。
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そして馬車から降りてきたのは、恰幅の良い中年男性だった。
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高価そうな服装。
人懐っこそうな笑顔。
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どう見ても商人である。
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「おや?」
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男がこちらを見た。
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そして目を丸くする。
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「もしかして……」
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嫌な予感がした。
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セシリアとビルセイヤは同時に思う。
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「王都で噂の冒険者ではありませんか!?」
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やはりだった。
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商人の目が輝いている。
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「オークロードを討伐したという!」
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「古代遺跡の事件を解決したという!」
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「ビルセイヤ殿ですよね!?」
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勢いが凄い。
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ビルセイヤは思わず苦笑した。
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どうやら王都での活躍は想像以上に広まっているらしい。
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「ぜひお話を聞かせてください!」
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商人は目を輝かせる。
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断れそうな雰囲気ではなかった。
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こうして。
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静かなはずだった野営の夜は、思わぬ来客によって賑やかなものへ変わっていく。
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そして三人はまだ知らない。
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この商人との出会いが、後のエメラルド・グリーンでの大きな縁へ繋がることを。
第二章 第三話
「街道の野営」
――続く。




