表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第一章 冒険者への第一歩編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/255

第四十九話 黒き封印と旅立ちの鐘

『人の子か』


 黒い霧で形作られた人影が、不気味な赤い瞳で三人を見下ろしていた。


 その存在感は異常だった。


 呼吸が重い。

 空気そのものが圧し掛かってくるような圧迫感。


 セシリアは無意識に剣の柄を握り締める。

 エミリアも杖を構えたまま、わずかに肩を震わせていた。


 今まで出会ったどの魔物とも違う。


 本能が警鐘を鳴らしている。


 だが――。


 ビルセイヤだけは、その存在を真っ直ぐ見据えていた。


 恐怖がないわけではない。


 むしろ、今まで対峙した何者よりも危険だと理解している。


 だからこそ冷静だった。


『面白い』


 人影が低く笑う。


『恐怖に呑まれぬか』


「お前は何者だ?」


 ビルセイヤが問い掛ける。


 人影はしばらく沈黙した。


 まるで遥か遠い昔を思い出すかのように。


 そして――。


『名など忘れた』


『遥か昔に封じられた存在だ』


 その言葉に、エミリアの表情が変わる。


「封印……」


 古代遺跡。

 黒い水晶。

 異常な魔力。


 全てが一本の線で繋がった。


「フォレスト・キングも……」


『我が漏らした魔力に当てられた哀れな獣よ』


 人影は興味なさそうに答える。


『長き封印の綻び――その影響を受けただけだ』


 つまり。


 失踪事件の原因は、目の前の存在。


 漏れ出した魔力。

 森の異変。

 狂暴化した魔物。


 全ての元凶が、ここにいた。


「失踪した人たちはどうした!」


 セシリアが思わず声を上げる。


 人影は淡々と答えた。


『知らぬ』


『我に近付いた弱き者は正気を失った』


『逃げた者もいれば、命を落とした者もいるだろう』


 セシリアが唇を噛む。


 怒りが込み上げる。

 だが今は、感情に流される時ではない。


 その時だった。


 人影の身体が、大きく揺らいだ。


『……ふむ』


『まだ封印は残っているか』


 黒い霧が不安定に揺れ続ける。


 ビルセイヤは気付いた。


 完全復活ではない。


 まだ封印の中にいる。

 だからこそ姿が安定していないのだ。


『人の子』


 赤い瞳が、ビルセイヤを見据える。


『名は何と言う』


「ビルセイヤ」


 短く答える。


『ビルセイヤか』


 人影はその名を反芻するように呟いた。


『覚えておこう』


 不思議だった。


 圧倒的な危険を感じる。

 だが、敵意は薄い。


 まるで値踏みされているような。

 観察されているような感覚だった。


『いずれまた会うことになる』


 その言葉と共に、黒い霧が薄くなっていく。


『今はまだ時ではない』


『封印が我を縛る』


 そして。


 最後に赤い瞳だけが残った。


『強くなれ』


『人の子よ』


 その瞬間。


 黒い霧は完全に消滅した。


    ◇◇◇


 静寂。


 重苦しい圧力も消えている。


 まるで嵐が過ぎ去った後のようだった。


「終わった……んでしょうか?」


 セシリアが呟く。


「分からない」


 ビルセイヤは首を横に振った。


 ただ一つだけ、確かなことがある。


 今の自分たちでは勝てない。


 あの存在は、それほど強大だった。


「でも……今は失踪者の捜索が先ですね」


 エミリアが気持ちを切り替えるように言う。


「ああ」


 ビルセイヤも頷いた。


 三人は遺跡内部の調査へ向かった。


    ◇◇◇


 遺跡の中は、外観以上に広かった。


 崩れた石壁。

 長い通路。

 半ば朽ちた扉。


 その奥で、彼らは失踪していた冒険者や村人たちを発見する。


 衰弱は激しい。


 意識を失っている者もいた。

 正気を保てていない者もいた。


 だが――。


 全員、生きていた。


「よかった……!」


 セシリアが安堵の息を漏らす。


 エミリアはすぐに治癒魔法を施し、水と携行食を分け与えた。


「大丈夫です。もう安心してください」


 優しい声に、失踪者たちの強張った表情が少しずつ和らいでいく。


 ビルセイヤも周囲を警戒しながら、倒れていた者を一人ずつ運び出した。


 失踪事件は解決した。


 少なくとも表面上は。


 だが三人とも分かっていた。


 今回の一件は、ただの魔物騒ぎでは終わらない。


 森の奥に眠っていたもの。

 黒き封印。

 そして、あの人影。


 あれはきっと、もっと大きな何かへ繋がっている。


 今はまだ、その全貌が見えないだけだ。


    ◇◇◇


 夕暮れ。


 三人は生還者たちを連れ、王都へ帰還した。


 ガルドへの報告。

 騎士団への説明。

 生還者の引き渡し。


 全てが終わった頃には、すっかり夜になっていた。


 王都の灯りが石畳を照らし、夜風が熱を奪っていく。


「お疲れ様でした」


 セシリアが柔らかな笑みを浮かべる。


「本当に色々ありましたね」


 エミリアも頷いた。


 ゴブリン討伐。

 初めての依頼。

 オークとの戦い。

 オークロード討伐。

 王都への旅。

 国王との謁見。

 フォレスト・キング。

 そして古代遺跡。


 異世界へ来てから、まだ数か月しか経っていない。


 それでも、数え切れないほどの経験を積んできた。


「そうだな」


 ビルセイヤは夜空を見上げた。


 満天の星。


 どこまでも広がる異世界の空。


 脳裏に浮かぶのは、これまでの戦いだった。


 剣術の理。

 強敵との死闘。

 鍛冶の技。

 守るべき仲間。


 もっと強くなりたい。


 もっと良い刀を打ちたい。


 もっと広い世界を見てみたい。


 その想いは、異世界へ来た頃よりも遥かに強くなっていた。


    ◇◇◇


 こうして――。


 ビルセイヤの冒険者としての第一章は、幕を閉じる。


 だが。


 これは終わりではない。


 新たな出会い。

 新たな街。

 新たな仲間。

 新たな強敵。


 そして――。


 未来の創造神へと続く、運命の道。


 その全てが、これから待っている。


 青年は歩き出す。


 まだ見ぬ未来へ向かって。


 その足取りは、どこまでも力強かった。


---


第一章 第四十九話


「黒き封印と旅立ちの鐘」


――第一章 完――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ