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第四十八話 森の奥に眠るもの

 フォレスト・キングとの激戦を終えた後――。


 森には再び静寂が戻っていた。


◇◇◇


 倒れた巨体。


 漂う血の匂い。


 戦いの痕跡。


◇◇◇


 誰が見ても討伐は完了している。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 ビルセイヤの表情は険しいままだった。


◇◇◇


「どうしたんですか?」


◇◇◇


 セシリアが不思議そうに尋ねる。


◇◇◇


 ビルセイヤは森の奥を見つめたまま答えた。


◇◇◇


「まだ終わっていない気がする」


◇◇◇


 静かな声だった。


◇◇◇


 フォレスト・キングは確かに強敵だった。


◇◇◇


 だが戦闘中に感じた違和感が消えない。


◇◇◇


 狂暴化した時に溢れ出した赤黒い魔力。


◇◇◇


 あれは自然なものではなかった。


◇◇◇


 まるで誰かに無理やり力を与えられたような、不自然な気配だった。


◇◇◇


「実は私も……」


◇◇◇


 セシリアが小さく頷く。


◇◇◇


「何だか嫌な感じがしています」


◇◇◇


 冒険者として積み重ねてきた経験。


◇◇◇


 それが警鐘を鳴らしていた。


◇◇◇


 その時だった。


◇◇◇


 エミリアが森の奥へ顔を向ける。


◇◇◇


「魔力です」


◇◇◇


「まだ流れています」


◇◇◇


 エルフ特有の鋭い感覚。


◇◇◇


 自然の魔力に敏感な彼女だからこそ分かる。


◇◇◇


「しかもフォレスト・キングより先です」


◇◇◇


 三人の表情が変わった。


◇◇◇


 つまり。


◇◇◇


 失踪事件の原因は別にある。


◇◇◇


 フォレスト・キングは真相ではない。


◇◇◇


 ただの一部に過ぎないのだ。


◇◇◇


「行くか?」


◇◇◇


 ビルセイヤが二人を見る。


◇◇◇


「もちろんです」


◇◇◇


 セシリアは即答した。


◇◇◇


「失踪者の調査が本来の依頼ですから」


◇◇◇


「私も賛成です」


◇◇◇


 エミリアも頷く。


◇◇◇


 三人は慎重に森の奥へ進み始めた。


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


 進めば進むほど景色がおかしくなっていく。


◇◇◇


 木々は枯れ果て。


 草花は消え。


 鳥も虫もいない。


◇◇◇


 生命の気配そのものが失われていた。


◇◇◇


「気味が悪いですね……」


◇◇◇


 セシリアが小声で呟く。


◇◇◇


 ビルセイヤも同意だった。


◇◇◇


 ここは森なのに森ではない。


◇◇◇


 自然が死んでいる。


◇◇◇


 何かがこの場所を蝕んでいるのだ。


◇◇◇


 さらに進むこと数十分。


◇◇◇


 やがて三人は広い空間へ辿り着いた。


◇◇◇


 森の中心部。


◇◇◇


 そこだけ木々が存在しない。


◇◇◇


 不自然な空白地帯だった。


◇◇◇


「これは……」


◇◇◇


 ビルセイヤが目を細める。


◇◇◇


 中央には石造りの建造物があった。


◇◇◇


 崩れかけた柱。


 風化した壁。


 半ば地中へ埋もれた石段。


◇◇◇


 明らかに人工物だった。


◇◇◇


「遺跡ですか?」


◇◇◇


 セシリアが驚いた声を漏らす。


◇◇◇


「こんな場所に?」


◇◇◇


 エミリアも目を見開いていた。


◇◇◇


 王都周辺の地図に遺跡など記されていない。


◇◇◇


 少なくとも一般には知られていない場所だった。


◇◇◇


 ビルセイヤはゆっくりと近付く。


◇◇◇


 古い。


◇◇◇


 非常に古い。


◇◇◇


 数百年どころではない。


◇◇◇


 もしかすると千年以上前の遺跡かもしれない。


◇◇◇


 その時だった。


◇◇◇


 ピシッ――。


◇◇◇


 乾いた音が響く。


◇◇◇


 三人は同時に振り向いた。


◇◇◇


 遺跡中央。


◇◇◇


 祭壇のような場所に置かれた黒い水晶。


◇◇◇


 そこへ一本のひびが入っていた。


◇◇◇


「まずい!」


◇◇◇


 エミリアが叫ぶ。


◇◇◇


 直感だった。


◇◇◇


 だが遅い。


◇◇◇


 パリンッ!!


◇◇◇


 黒い水晶が砕け散った。


◇◇◇


 次の瞬間。


◇◇◇


 濃密な黒い霧が噴き出す。


◇◇◇


「下がってください!」


◇◇◇


 三人は一斉に後退した。


◇◇◇


 黒い霧は空中で渦を巻く。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 徐々に形を作り始めた。


◇◇◇


 人型。


◇◇◇


 いや。


◇◇◇


 人に似た何か。


◇◇◇


 禍々しい魔力の塊だった。


◇◇◇


「まさか……」


◇◇◇


 エミリアの顔色が青ざめる。


◇◇◇


 その存在を本能が拒絶していた。


◇◇◇


 やがて霧の中心から二つの赤い光が浮かび上がる。


◇◇◇


 瞳だ。


◇◇◇


 それはゆっくりと三人を見つめた。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


『また目覚める時が来たか』


◇◇◇


 低く不気味な声が響く。


◇◇◇


 その瞬間。


◇◇◇


 森全体が震えた。


◇◇◇


 大気が重くなる。


◇◇◇


 息苦しいほどの圧力。


◇◇◇


 ビルセイヤは即座に剣を構えた。


◇◇◇


 本能が警告している。


◇◇◇


 危険だ。


◇◇◇


 フォレスト・キングなど比較にならない。


◇◇◇


 圧倒的な異質さ。


◇◇◇


 目の前の存在は魔物ですらない気がした。


◇◇◇


『人の子か』


◇◇◇


 赤い瞳が細められる。


◇◇◇


『面白い』


◇◇◇


 人影は不気味な笑みを浮かべた。


◇◇◇


 その笑みを見た瞬間。


◇◇◇


 三人の背筋を冷たいものが走る。


◇◇◇


 王都西の森で起きた失踪事件。


◇◇◇


 その真相は。


◇◇◇


 想像していたより遥かに深く。


◇◇◇


 そして遥かに危険な闇へと繋がっていた。


第一章 第四十九話


「森の奥に眠るもの」


――続く。

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