表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第一章 冒険者への第一歩編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/172

第四十三話 王女のお茶会

 王太子ウィルとの語らいを終えた翌日――。


 ビルセイヤたちは宿で穏やかな朝を迎えていた。


 王城での謁見。

 国王ライオットとの対話。

 王太子ウィルとの交流。


 普通の冒険者なら一生に一度あるかないかの経験である。


 だが――。


「今日は鍛冶師ギルドへ行こう」


 朝食を食べながら、ビルセイヤはいつも通りのことを言っていた。


「またですか……」


 セシリアが呆れたように肩を落とす。


「昨日も行きましたよね?」


「昨日は見学だ」


 ビルセイヤは真面目な顔で答えた。


「今日は勉強だ」


「同じです!」


 セシリアの鋭いツッコミが飛ぶ。


 エミリアは紅茶を飲みながら、小さく笑った。


 すっかりいつもの調子である。


 そんな平和な時間は、不意に終わりを迎えた。


    ◇◇◇


「ビ、ビルセイヤ様!」


 宿の主人が慌てた様子で駆け寄ってくる。


「どうしました?」


「王城から使者の方がお見えです!」


 一瞬、三人の動きが止まった。


「王城から?」


 ビルセイヤが首を傾げる。


 宿の入口へ視線を向けると、そこには見覚えのある女性が立っていた。


 落ち着いた雰囲気。

 整った所作。

 上品なメイド服。


 第二王女アイリス付きの侍女――マリアである。


「お久しぶりです」


 マリアは優雅に一礼した。


「どうも」


 ビルセイヤも頭を下げる。


「本日はアイリス様からのご招待で参りました」


「招待ですか?」


「はい」


 マリアが柔らかく微笑む。


「王城でのお茶会に参加していただきたいとのことです」


 セシリアとエミリアが固まった。


 王女主催のお茶会。


 普通の冒険者には一生縁のない世界だ。


 一方――


「お茶会ですか」


 ビルセイヤは少し考える。


「お茶は好きです」


 そこではない。


 セシリアは心の中で全力で突っ込んだ。


 マリアも一瞬だけ笑いそうになるが、完璧な侍女の仮面は崩さない。


「お受けいただけますか?」


「構いません」


 即答だった。


 こうしてビルセイヤたちは、再び王城を訪れることになった。


    ◇◇◇


 昼過ぎ。


 三人は王城の庭園へ案内されていた。


 そこはまるで別世界だった。


 色鮮やかな花々。

 美しく整えられた芝生。

 静かに水を噴き上げる噴水。


 そして庭園の中心には、白い東屋が建っている。


 まるで絵画から切り取ったような光景だった。


「綺麗ですね……」


 エミリアが感嘆の声を漏らす。


 その東屋の中で、一人の少女が立ち上がった。


「お待ちしておりました」


 アイリスだった。


 今日は淡い水色のドレスを纏っている。

 陽光を受けて輝く金色の髪。

 透き通るような白い肌。


 まるで物語の中から抜け出してきた姫君そのものだった。


「こんにちは」


 ビルセイヤが挨拶する。


「こんにちは、ビルセイヤ様」


 アイリスは嬉しそうに微笑んだ。


 その笑顔だけで、このお茶会をどれほど楽しみにしていたかが分かる。


    ◇◇◇


 やがて全員が席につく。


 テーブルの上には豪華なお菓子が並んでいた。


 焼き菓子。

 果物。

 高級な紅茶。


 辺境では見かけないものばかりである。


「美味しそうです!」


 セシリアの目が輝いた。


 アイリスがくすりと笑う。


「たくさんありますから、遠慮なくどうぞ」


「ありがとうございます!」


 早速焼き菓子へ手を伸ばすセシリア。


 その様子に、全員の表情が和らいだ。


 自然と会話も弾み始める。


「王都はいかがですか?」


 アイリスが尋ねる。


「楽しいです」


 ビルセイヤが答えた。


「特に鍛冶師ギルドが素晴らしい」


 やはりそこだった。


 アイリスも思わず笑う。


「本当に鍛冶がお好きなのですね」


「はい」


 迷いのない即答。


 その姿が妙におかしかった。


 王女を前にしても変わらない。

 地位にも権力にも興味を示さない。

 ただ、自分の好きなものを真っ直ぐに語る。


 だからこそアイリスは心地良かった。


 王女としてではなく、一人の人間として接してくれる。


 それが何より嬉しい。


    ◇◇◇


「ビルセイヤ様は、どのような刀を打ちたいのですか?」


 アイリスが興味深そうに尋ねた。


 その質問に、ビルセイヤの目が少しだけ真剣になる。


「強い刀です」


「強い刀?」


「はい。ただ硬いだけじゃなく、折れず、曲がらず、よく斬れる刀です」


 淡々とした口調だった。


 だが、その言葉には確かな熱があった。


「使う人が安心して命を預けられるような刀を打ちたいんです」


 アイリスは思わず息を呑む。


 それはただの武器ではない。


 誰かを守るための刀だ。


 ビルセイヤが目指しているのは、そういうものなのだろう。


「素敵ですわ……」


 思わず零れた本音だった。


「え?」


「あ、いえ……」


 アイリスは少しだけ頬を染める。


「ビルセイヤ様らしい夢だと思いまして」


 ビルセイヤは不思議そうにしながらも、小さく笑った。


「ありがとうございます」


 その笑顔に、アイリスの胸がまた一つ高鳴る。


    ◇◇◇


 その後も穏やかな時間は続いた。


 王都の話。

 辺境の話。

 冒険者としての依頼の話。

 王城の庭園に咲く花の話。


 アイリスは楽しそうに話し、ビルセイヤも自然体で答える。


 セシリアとエミリアも会話に加わり、場は終始和やかだった。


 けれど。


 マリアは気付いていた。


 アイリスの視線が、何度もビルセイヤへ向いていることに。


 紅茶を飲む時も。

 笑う時も。

 ふと黙った時でさえも。


 視線の先には、いつも彼がいた。


    ◇◇◇


 気付けば時間はあっという間に過ぎていた。


 そして帰る時間。


 アイリスは少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。


「ビルセイヤ様」


「はい」


「またお会いできますか?」


 不安そうな声だった。


 ほんの少し勇気を振り絞ったような、そんな響きがある。


 ビルセイヤは自然に笑った。


「もちろんです」


「しばらく王都にいますから」


 その瞬間。


 アイリスの表情がぱっと明るくなった。


「ありがとうございます」


 心から嬉しそうな笑顔だった。


 その笑顔は、先ほどまでの王女としての微笑みではない。


 一人の少女として浮かべた、素直な喜びの表情だった。


    ◇◇◇


 一方。


 その様子を見ていたマリアは静かに思う。


(これはもう時間の問題ですね)


 幼い頃から仕えてきた。


 だから分かる。


 アイリスは完全に恋をしている。


 そして――


 セシリアとエミリアも、薄々気付き始めていた。


 ただ一人。


 ビルセイヤだけが、まったく気付いていない。


 未来の妻となる少女が、目の前でこれほど分かりやすく好意を向けていることに。


 鈍感な青年は、今日も平常運転だった。


---


第一章 第四十三話


王女のお茶会


――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ