第四十二話 王太子との語らい
国王ライオットとの謁見を終えた後――。
ビルセイヤたちは王城内の応接室へ案内されていた。
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「ふぅ……」
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部屋へ入った瞬間、セシリアが大きく息を吐く。
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「生きた心地がしませんでした……」
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その言葉にエミリアも苦笑しながら頷いた。
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「私もです」
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「さすがに緊張しました」
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相手は国王。
王妃。
王太子。
王女。
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王国の頂点に立つ人々だ。
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普通の冒険者なら一生関わることもない存在である。
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「そんなものか?」
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ビルセイヤが首を傾げた。
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「そんなものです!」
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セシリアが即答する。
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むしろ緊張しない方がおかしい。
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だが当の本人は、本当に分かっていないようだった。
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その時。
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コンコン。
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応接室の扉が叩かれる。
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「失礼する」
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入ってきたのは王太子ウィルだった。
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整った容姿。
爽やかな笑顔。
そして自然と人を安心させる雰囲気。
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将来の国王とは思えないほど親しみやすい青年だった。
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「ウィル殿下!」
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セシリアとエミリアが慌てて立ち上がる。
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しかしウィルは軽く手を振った。
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「そんなに畏まらなくていい」
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「今日は王太子としてではなく、一人の人間として話をしに来ただけだ」
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柔らかな笑みを浮かべる。
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どうやら本気らしい。
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「どうぞ」
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ビルセイヤが席を勧める。
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「ありがとう」
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ウィルは向かいへ腰を下ろした。
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しばらく沈黙が続く。
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そして。
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「ビルセイヤ」
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「はい」
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「君は変わっているな」
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開口一番だった。
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「そうですか?」
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「そうだ」
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ウィルは笑う。
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「普通の冒険者なら名誉や地位を求める」
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「だが君は違う」
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「夢を聞かれて刀を打ちたいと答えた」
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「国王陛下の前でだぞ?」
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普通なら英雄になりたい。
騎士になりたい。
領地が欲しい。
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そう答える場面だった。
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しかしビルセイヤは違った。
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「好きなんです」
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即答だった。
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「鍛冶が」
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迷いのない言葉。
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ウィルは苦笑する。
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「そこまで言い切れるのは羨ましいな」
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王太子には王太子の責任がある。
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将来は国王になる。
国を背負う立場だ。
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好きなことだけを追い掛けることはできない。
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「殿下は何がお好きなんですか?」
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ビルセイヤが自然に尋ねる。
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セシリアが目を見開いた。
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普通なら王太子へそんな質問はしない。
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だが。
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ウィルはむしろ嬉しそうだった。
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「そうだな」
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「剣かな」
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「剣ですか」
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「幼い頃から鍛えている」
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その言葉にビルセイヤは納得した。
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確かに隙がない。
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立ち方。
歩き方。
視線。
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全てに鍛錬の跡が見える。
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ただの王族ではない。
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一人の剣士でもあるのだ。
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「機会があれば手合わせしてみたいな」
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ウィルが笑いながら言った。
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セシリアが固まる。
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エミリアも驚いていた。
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王太子との模擬戦。
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普通なら考えられない話だ。
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しかし。
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「構いませんよ」
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ビルセイヤはあっさり頷いた。
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「本当か?」
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「はい」
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「俺も強い人との立ち合いは好きです」
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その返答にウィルは心から嬉しそうに笑った。
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「良かった」
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「ぜひ頼む」
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どうやら社交辞令ではないらしい。
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そこから話はさらに盛り上がった。
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冒険者の話。
魔物の話。
王都の話。
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そして剣術の話。
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気付けば一時間以上が過ぎていた。
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「なるほどな」
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ウィルが感心したように頷く。
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「君とは気が合いそうだ」
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「俺もそう思います」
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ビルセイヤも自然に笑った。
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その様子を見ていたセシリアとエミリアは少し驚いていた。
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王太子相手とは思えない。
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まるで昔からの友人同士のような空気だった。
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しかしウィル自身がそれを望んでいるように見える。
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やがて。
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「そろそろ失礼しよう」
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ウィルが立ち上がった。
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「今日は本当に楽しかった」
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「こちらこそ」
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二人は握手を交わす。
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その瞬間。
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未来の国王。
そして未来の英雄。
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二人の間に確かな信頼が生まれていた。
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後にウィルは、ビルセイヤにとって最も信頼できる相談相手の一人となる。
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だが今はまだ、その始まりに過ぎない。
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一方その頃――。
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王城の別室では。
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「お兄様ばかりずるいですわ……」
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アイリスが小さく頬を膨らませていた。
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窓辺に座りながら不満そうに呟く。
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「ビルセイヤ様とお話しているのでしょう?」
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「恐らく」
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マリアが静かに答える。
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「羨ましいですわ……」
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その姿を見て、マリアは内心で苦笑した。
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本当に分かりやすい。
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恋する王女は今日も絶好調だった。
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そして。
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ビルセイヤ本人だけが、その事実に全く気付いていなかった。
第一章 第四十三話
「王太子との語らい」
――続く。




