第四十二話 王太子との語らい
国王ライオットとの謁見を終えた後――。
ビルセイヤたちは、王城内の応接室へ案内されていた。
◇◇◇
「ふぅ……」
部屋へ入った瞬間、セシリアが大きく息を吐く。
「生きた心地がしませんでした……」
その言葉に、エミリアも苦笑しながら頷いた。
「私もです。さすがに緊張しました」
相手は国王。
王妃。
王太子。
王女。
王国の頂点に立つ人々だ。
普通の冒険者なら、一生関わることもない存在である。
「そんなものか?」
ビルセイヤが首を傾げた。
「そんなものです!」
セシリアが即答する。
むしろ緊張しない方がおかしい。
だが当の本人は、本当に分かっていないようだった。
◇◇◇
その時。
コンコン。
応接室の扉が叩かれる。
「失礼する」
入ってきたのは王太子ウィルだった。
整った容姿。
爽やかな笑顔。
そして自然と人を安心させる雰囲気。
将来の国王とは思えないほど、親しみやすい青年だった。
「ウィル殿下!」
セシリアとエミリアが慌てて立ち上がる。
しかしウィルは軽く手を振った。
「そんなに畏まらなくていい」
「今日は王太子としてではなく、一人の人間として話をしに来ただけだ」
柔らかな笑みを浮かべる。
どうやら本気らしい。
「どうぞ」
ビルセイヤが席を勧める。
「ありがとう」
ウィルは向かいの席へ腰を下ろした。
◇◇◇
しばらく沈黙が続く。
そして――
「ビルセイヤ」
「はい」
「君は変わっているな」
開口一番、それだった。
「そうですか?」
「そうだ」
ウィルは笑う。
「普通の冒険者なら名誉や地位を求める。だが君は違う」
「夢を聞かれて、刀を打ちたいと答えた。国王陛下の前でだぞ?」
普通なら英雄になりたい。
騎士になりたい。
領地が欲しい。
そう答える場面だった。
しかしビルセイヤは違った。
「好きなんです」
即答だった。
「鍛冶が」
迷いのない言葉。
ウィルは苦笑する。
「そこまで言い切れるのは羨ましいな」
王太子には王太子の責任がある。
将来は国王になる。
国を背負う立場だ。
好きなことだけを追い掛けることはできない。
「殿下は何がお好きなんですか?」
ビルセイヤが自然に尋ねる。
セシリアが目を見開いた。
普通なら王太子へそんな質問はしない。
だが――
ウィルはむしろ嬉しそうだった。
「そうだな……剣かな」
「剣ですか」
「幼い頃から鍛えている」
その言葉に、ビルセイヤは納得した。
確かに隙がない。
立ち方。
歩き方。
視線。
全てに鍛錬の跡が見える。
ただの王族ではない。
一人の剣士でもあるのだ。
◇◇◇
「機会があれば手合わせしてみたいな」
ウィルが笑いながら言った。
セシリアが固まる。
エミリアも驚いていた。
王太子との模擬戦。
普通なら考えられない話だ。
しかし――
「構いませんよ」
ビルセイヤはあっさり頷いた。
「本当か?」
「はい。俺も強い人との立ち合いは好きです」
その返答に、ウィルは心から嬉しそうに笑った。
「良かった。ぜひ頼む」
どうやら社交辞令ではないらしい。
◇◇◇
そこから話はさらに盛り上がった。
冒険者の話。
魔物の話。
王都の話。
そして剣術の話。
気付けば一時間以上が過ぎていた。
「なるほどな」
ウィルが感心したように頷く。
「君とは気が合いそうだ」
「俺もそう思います」
ビルセイヤも自然に笑った。
その様子を見ていたセシリアとエミリアは、少し驚いていた。
王太子相手とは思えない。
まるで昔からの友人同士のような空気だった。
しかしウィル自身が、それを望んでいるようにも見える。
◇◇◇
やがて――
「そろそろ失礼しよう」
ウィルが立ち上がった。
「今日は本当に楽しかった」
「こちらこそ」
二人は握手を交わす。
その瞬間。
未来の国王。
そして未来の英雄。
二人の間に、確かな信頼が生まれていた。
後にウィルは、ビルセイヤにとって最も信頼できる相談相手の一人となる。
だが今はまだ、その始まりに過ぎない。
◇◇◇
一方その頃――。
王城の別室では。
「お兄様ばかりずるいですわ……」
アイリスが小さく頬を膨らませていた。
窓辺に座りながら、不満そうに呟く。
「ビルセイヤ様とお話しているのでしょう?」
「恐らく」
マリアが静かに答える。
「羨ましいですわ……」
その姿を見て、マリアは内心で苦笑した。
本当に分かりやすい。
恋する王女は今日も絶好調だった。
そして――
ビルセイヤ本人だけが、その事実にまったく気付いていなかった。
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第一章 第四十二話
王太子との語らい
――続く。




