第四十一話 王の問い
謁見室には、静かな緊張感が漂っていた。
アルティア王国国王、ライオット・アルティア。
その鋭い視線が、まっすぐビルセイヤへ向けられている。
左右に整列する騎士たち。
王妃たち。
王族たち。
誰もが、若き冒険者の返答を待っていた。
セシリアは緊張で背筋を伸ばしている。
エミリアも静かに息を整えていた。
そんな中――ビルセイヤだけは普段通りだった。
◇◇◇
「そなたに聞きたいことがある」
ライオットが低く響く声で言う。
「はい」
ビルセイヤは落ち着いた様子で答えた。
「なぜ冒険者になった?」
意外な質問だった。
強さについてではない。
功績についてでもない。
冒険者になった理由。
ビルセイヤは少しだけ考える。
そして――
「生活のためです」
即答だった。
一瞬、謁見室の空気が止まる。
「生活のため?」
ライオットが片眉を上げた。
「はい」
ビルセイヤは真面目な顔で頷く。
「食べていくためには仕事が必要でした。冒険者が一番自由そうだったので選びました」
あまりにも正直だった。
騎士たちの表情が微妙になる。
もっと壮大な理由を想像していたのだ。
世界を救いたい。
強くなりたい。
名誉を得たい。
そういった答えを。
しかし――
「はははははっ!」
ライオットが豪快に笑い出した。
王妃たちが驚く。
騎士たちも目を見開く。
王太子ウィルだけは、面白そうに笑っていた。
「正直だな」
ライオットは満足そうだった。
「嫌いではない」
むしろ気に入ったらしい。
◇◇◇
すると、今度はウィルが一歩前へ出た。
「では、私からも一つ」
王太子ウィル。
整った顔立ちと穏やかな雰囲気を持つ青年だった。
「オークロードと戦った時、恐怖はありませんでしたか?」
真剣な問いだった。
ビルセイヤは少しだけ考える。
そして――
「ありました」
即答だった。
「ありましたか」
ウィルが少し驚く。
「当然です」
ビルセイヤは苦笑した。
「死にたくありませんから」
それもまた、飾らない本音だった。
だが――
「それでも戦いました」
静かな声が響く。
「逃げれば仲間が死ぬ。だから前に出ました」
簡潔な言葉。
しかし、その一言には重みがあった。
セシリアが目を伏せる。
オークロードとの戦い。
確かに恐ろしかった。
それでもビルセイヤは逃げなかった。
仲間を守るために。
自分よりも、仲間を優先したのだ。
ウィルも真剣な表情で頷く。
「なるほど」
その答えは、確かに心に響いた。
一方、アイリスの瞳はさらに輝いていた。
格好つけない。
飾らない。
嘘をつかない。
それでいて、芯がある。
そんな青年だった。
◇◇◇
「最後に一つ」
ライオットが再び口を開く。
謁見室の空気が引き締まった。
「そなたの夢は何だ?」
今度こそ大きな問いだった。
王族たちも興味深そうに見ている。
将来の目標。
何を目指して生きるのか。
英雄か。
騎士か。
大貴族か。
誰もが、そんな答えを想像した。
しかし――
ビルセイヤは少し考えた後、静かに答えた。
「良い刀を打つことです」
沈黙。
そして、再び沈黙。
騎士たちが固まる。
セシリアが額を押さえる。
エミリアが苦笑する。
アイリスは吹き出しそうになっていた。
そして――
「はははははっ!」
ライオットが再び大笑いした。
「面白い! 本当に面白い若者だ!」
謁見室の空気が一気に和らぐ。
ライオットは理解していた。
この青年は、欲に振り回されない。
名誉より技術。
地位より信念。
利益より仲間。
だからこそ信用できる。
◇◇◇
「ビルセイヤ」
「はい」
「王都を存分に楽しむといい」
「ありがとうございます」
ビルセイヤは素直に頭を下げた。
こうして、国王ライオットとの初めての謁見は終わりを迎える。
しかし――
ライオット。
王太子ウィル。
そして第二王女アイリス。
王家の人々は、すでにビルセイヤという青年へ強い興味を抱いていた。
特にウィルは思う。
(面白い人だな)
この出会いは一度きりでは終わらない。
将来、良き相談相手となる縁の始まりだった。
◇◇◇
一方。
アイリスは小さく微笑む。
「良い刀、ですか……」
王女らしからぬ夢。
いや、英雄らしからぬ夢と言うべきだろうか。
だが、それがビルセイヤらしい。
その笑顔を見たマリアは確信した。
これはもう手遅れだと。
恋する王女の物語は、静かに始まっていた。
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第一章 第四十一話
王の問い
――続く。




