第四十話 王城への登城
翌朝――。
王都アルティアは快晴だった。
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宿の窓から差し込む朝日を浴びながら、ビルセイヤは静かに外を眺めていた。
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石畳の大通り。
忙しそうに働く人々。
活気に満ちた王都の朝。
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そして遠くには、白亜の王城が堂々とそびえ立っている。
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今日は国王との謁見の日だった。
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「緊張してますか?」
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朝食の席でセシリアが尋ねる。
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「いや?」
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ビルセイヤは首を傾げた。
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「そうですか……」
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セシリアは微妙な表情になる。
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自分は緊張している。
かなり緊張している。
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エミリアも同じだった。
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相手は国王。
この国の頂点に立つ人物だ。
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普通なら緊張して当然である。
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「ビルセイヤさんは本当に大物ですね」
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エミリアが苦笑した。
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「そうか?」
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「そうですよ」
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二人の声が綺麗に重なった。
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その直後。
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宿の外から馬車の音が聞こえてくる。
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迎えが来たらしい。
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三人が外へ出ると、一台の豪華な馬車が停まっていた。
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王家の紋章入り。
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誰が見ても王族関係者の馬車だと分かる。
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「お迎えに参りました」
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執事服を着た男性が恭しく頭を下げた。
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三人は馬車へ乗り込む。
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王城への道中。
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セシリアは窓の外ばかり見ていた。
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落ち着かないのだろう。
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エミリアも静かに深呼吸を繰り返している。
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一方で。
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「この城壁の継ぎ目の処理は見事だな」
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ビルセイヤは建築技術を観察していた。
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「本当にぶれませんね……」
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セシリアが呆れる。
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もはや通常運転だった。
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やがて馬車は王城へ到着する。
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巨大な白亜の城。
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青空へ向かって伸びる塔。
広大な庭園。
美しい噴水。
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まるで絵本の世界のような光景だった。
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「凄い……」
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セシリアが思わず声を漏らす。
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「綺麗ですね」
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エミリアも感嘆していた。
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ビルセイヤも素直に感心する。
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「職人たちの技術の結晶だな」
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「やっぱりそこなんですね」
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もはや誰も驚かない。
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三人は案内役に連れられ城内へ入る。
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豪華な廊下。
柔らかな赤い絨毯。
壁に飾られた芸術品。
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王都の豊かさが随所に表れていた。
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辺境育ちのセシリアにとっては別世界である。
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しばらく歩いた後。
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案内役が一枚の大きな扉の前で立ち止まった。
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「こちらでございます」
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重厚な木製の扉。
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その向こうが謁見室だった。
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セシリアの喉がごくりと鳴る。
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エミリアも緊張した表情を浮かべていた。
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しかし。
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ビルセイヤだけはいつも通りだった。
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コンコン。
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案内役が扉を叩く。
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「ビルセイヤ様御一行をお連れしました」
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「入れ」
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低く威厳ある声が響く。
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ゆっくりと扉が開かれた。
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三人は中へ足を踏み入れる。
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広い。
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それが最初の感想だった。
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赤い絨毯が真っ直ぐ伸びている。
左右には騎士たち。
高い天井。
荘厳な空気。
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そして正面。
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玉座に座る一人の男。
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ライオット・アルティア。
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アルティア王国国王である。
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堂々たる体格。
鋭い眼光。
歴戦の戦士を思わせる風格。
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王としての威厳が全身から滲み出ていた。
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その隣には第一王妃ミリア。
第二王妃シズク。
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さらに。
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王太子ウィル。
第一王女シリス。
第二王女アイリス。
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王族たちも列席している。
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アイリスは静かに微笑みながらビルセイヤを見つめていた。
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「面を上げよ」
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ライオットが告げる。
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三人は顔を上げた。
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ライオットはビルセイヤを見る。
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数秒。
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沈黙が続いた。
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そして。
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「なるほど」
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小さく呟く。
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「面白い若者だ」
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その言葉に周囲が僅かにざわめいた。
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国王が最初に発した言葉がそれだったからだ。
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だがライオットには分かっていた。
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目の前の青年は普通ではない。
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強者特有の落ち着き。
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そして何より。
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王を前にしても怯えていない。
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無礼ではない。
しかし必要以上に畏怖もしていない。
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それが興味深かった。
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「ビルセイヤよ」
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「はい」
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「そなたに聞きたいことがある」
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謁見室の空気が引き締まる。
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王の問い。
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それは単なる雑談ではない。
◇◇◇
この国の未来。
そしてビルセイヤ自身の未来にも関わる重要な話になるのだった。
第一章 第四十一話
「王城への登城」
――続く。




