第三十九話 職人たちの工房
王都鍛冶師ギルド。
主任鍛冶師ゴードンの案内で、ビルセイヤたちは工房の奥へ足を踏み入れていた。
熱い。
炉の炎が赤々と燃えている。
職人たちが汗を流しながら鉄を打つ。
カン!
カン!
カン!
力強い金属音が、工房中へ響いていた。
◇◇◇
「凄い……」
ビルセイヤは思わず呟いた。
設備の規模が違う。
炉の数。
作業台。
保管されている鉱石や鋼材。
辺境の街シーサスでは見たこともない量だった。
「ここが王都最大の鍛冶工房だ」
ゴードンが胸を張る。
「王国騎士団の武器や防具も、ここで作っている」
「なるほど」
ビルセイヤは興味深そうに頷いた。
工房内には様々な武器が並んでいる。
ロングソード。
槍。
戦斧。
盾。
どれも高品質だ。
しかし、ビルセイヤの視線は別の場所へ向いていた。
「玉鋼はありますか?」
一瞬。
工房が静かになった。
◇◇◇
「玉鋼だと?」
ゴードンが目を細める。
「知っているのか?」
「はい。シーサスで少し作りました」
ゴードンの目が見開かれた。
「少しだと?」
「たたら製鉄か?」
「そうです」
周囲の職人たちも驚いている。
玉鋼は非常に貴重な素材だ。
扱える職人も少ない。
まして、辺境から来た若者が作ったというのだから、驚くのも無理はなかった。
「面白い小僧だな」
ゴードンは豪快に笑った。
「ますます気に入った」
◇◇◇
その後、工房見学は続いた。
鉱石保管庫。
武器庫。
研磨室。
どれも勉強になるものばかりだった。
ビルセイヤは一つ一つを真剣に見て回る。
鉱石の質。
炉の構造。
工具の形状。
職人たちの作業手順。
見るものすべてが興味深い。
その様子を見ていたセシリアが小さく笑う。
「本当に楽しそうですね」
「ああ」
ビルセイヤは迷いなく頷いた。
「ここは宝の山だ」
「普通の人は武器庫を見てそうは言いませんよ」
エミリアが苦笑する。
だが、ビルセイヤにとっては本当に宝の山だった。
◇◇◇
やがてゴードンがニヤリと笑う。
「やってみるか?」
「何をです?」
「鍛冶だ」
ビルセイヤの目が輝いた。
「いいんですか?」
「もちろんだ」
主任鍛冶師の許可である。
周囲の職人たちも興味深そうに集まってきた。
「辺境の鍛冶師らしいぞ」
「どんな腕だ?」
「見てみようぜ」
完全に見世物状態だった。
だが、ビルセイヤは気にしない。
炉の前へ立つ。
鉄を手に取る。
呼吸を整える。
そして――
カン!
一撃。
その瞬間、工房の空気が変わった。
◇◇◇
「……おい」
職人の一人が呟く。
「今の、分かるか?」
別の職人が頷く。
無駄がない。
力任せではない。
鉄の状態を理解した一撃。
カン!
カン!
カン!
ビルセイヤは黙々と鉄を打つ。
その姿は、若者とは思えなかった。
長年鍛冶を続けてきた職人のような落ち着きがある。
ゴードンも真剣な顔になっていた。
(なるほどな……)
これは見習いではない。
少なくとも、普通の職人ではない。
鉄を見る目。
火を見る目。
槌を振るう角度。
力を込めるタイミング。
すべてが洗練されている。
◇◇◇
やがて、簡単なナイフが完成した。
派手なものではない。
だが、美しい。
均整が取れている。
実用品として完成度が高い。
「ほう……」
ゴードンがナイフを手に取る。
刃を確認する。
重心を確認する。
軽く振る。
そして笑った。
「本当に面白い小僧だ」
その声には、純粋な称賛があった。
「王都へ来る気はないか?」
周囲が驚く。
主任鍛冶師からの誘い。
それは異例だった。
しかし――
「考えておきます」
ビルセイヤは苦笑した。
今は冒険者だ。
やりたいこともある。
守りたい仲間もいる。
そして何より、自分の手で刀を完成させたい。
「そうか」
ゴードンは残念そうだったが、それ以上は言わなかった。
職人には職人の事情がある。
それを理解しているからだ。
◇◇◇
夕方。
工房を出る頃には、ビルセイヤはすっかり職人たちと顔馴染みになっていた。
「また来いよ!」
「次は刀の話を聞かせろ!」
「玉鋼の製法も詳しく聞きたいな!」
職人たちが笑顔で見送る。
「また来ます」
ビルセイヤも笑顔で答えた。
王都初日。
その締めくくりは、最高の時間になった。
◇◇◇
そして明日は――王城。
国王ライオットとの謁見が待っている。
一方、王城では。
「明日が待ち遠しいですわ」
アイリスが嬉しそうに微笑んでいた。
運命の歯車は、さらに大きく動き始める。
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第一章 第三十九話
職人たちの工房
――続く。




