第三十八話 王都の鍛冶師ギルド
王都冒険者ギルドを後にしたビルセイヤたちは、まず王都での拠点となる宿を確保し、荷物を部屋へ置いた。
◇◇◇
「これで準備は終わりだな」
ビルセイヤが満足そうに頷く。
「そうですね」
セシリアも同意した。
「これで明日の王城訪問も安心です」
エミリアも微笑む。
しかし、ビルセイヤの次の言葉は、二人の予想通りだった。
「では行こう」
「どこへですか?」
セシリアが半ば諦めた表情で尋ねる。
「鍛冶師ギルドだ」
即答だった。
「やっぱり!」
セシリアが頭を抱える。
王都には様々な名所がある。
大市場。
高級レストラン。
歴史ある神殿。
王都名物の屋台街。
だが、ビルセイヤの優先順位は違う。
一位、鍛冶。
二位、鍛冶。
三位、鍛冶。
そのくらい鍛冶が好きだった。
「少し見るだけだ」
「絶対に少しじゃありませんよね?」
セシリアが呆れたように言う。
それでも止めるつもりはない。
どうせ行くのだから。
◇◇◇
三人は王都の大通りを歩き始めた。
石畳の広い道路。
両脇には多くの店が並んでいる。
武器屋。
防具屋。
魔道具店。
本屋。
王都らしい賑わいだった。
やがて、遠くに巨大な煙突が見えてくる。
さらに近づく。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
力強い金属音が響いていた。
熱気。
鉄の匂い。
炭の匂い。
そこは、職人たちの世界だった。
「おお……」
ビルセイヤの目が輝く。
完全に少年のような表情だった。
「本当に好きなんですね」
エミリアが苦笑する。
「好きだな」
迷いのない即答だった。
◇◇◇
三人は鍛冶師ギルドへ足を踏み入れる。
中は活気に満ちていた。
炉の炎。
鉄を打つ音。
飛び散る火花。
職人たちが忙しそうに働いている。
剣を鍛える者。
槍を仕上げる者。
鎧を調整する者。
まさに職人たちの城だった。
「これは凄い……」
ビルセイヤは感嘆の声を漏らす。
シーサスの鍛冶師ギルドも立派だった。
だが規模が違う。
設備。
人員。
流通する素材。
全てが王都規模だった。
◇◇◇
その時だった。
「お前さん」
低く太い声が響く。
振り向くと、一人の大柄な男が立っていた。
筋骨隆々の体。
無精髭。
太い腕。
そして腕には、無数の火傷跡がある。
一目で分かる。
熟練の鍛冶師だ。
「見ない顔だな」
「シーサスから来ました」
ビルセイヤが答える。
「ほう。辺境からか」
男が眉を上げる。
「鍛冶師か?」
「まだ勉強中です」
ビルセイヤは謙遜した。
男はニヤリと笑う。
「面白いことを言う」
視線は、ビルセイヤの両手へ向いていた。
職人の手。
剣を握るだけではできない。
何度も鉄を打ち、工具を握り続けた者の手だった。
「俺はゴードン」
男は胸を張る。
「王都鍛冶師ギルドの主任鍛冶師だ」
周囲の職人たちが反応する。
どうやら、かなりの大物らしい。
「ビルセイヤです」
二人は握手を交わした。
その時、ゴードンの視線がビルセイヤの腰にあるロングソードへ向く。
「その剣」
「はい?」
「自分で整備してるな?」
ビルセイヤが少し驚く。
「分かりますか?」
「当たり前だ」
ゴードンが笑う。
「職人を舐めるな」
鞘の擦れ具合。
柄の補修跡。
刃の研ぎ方。
全てが、職人の目には見えていた。
「面白い」
ゴードンがそう呟く。
「どうだ? 工房を見ていくか?」
その言葉に、ビルセイヤの目がさらに輝いた。
「ぜひ!」
即答だった。
セシリアとエミリアが同時にため息を吐く。
「長くなりそうですね」
「長くなりますね」
二人の意見は完全に一致していた。
◇◇◇
しかし、この出会いは偶然ではなかった。
王都最高峰の鍛冶師、ゴードン。
そして未来に伝説の刀を打つことになる青年、ビルセイヤ。
職人同士の縁が、今ここで結ばれようとしていた。
◇◇◇
一方その頃。
王城では――。
「ビルセイヤ様は今頃、何をしているかしら?」
アイリスが窓の外を眺めながら呟いていた。
「王都観光ではないでしょうか」
マリアが答える。
だが実際には――
「ほう……この炉はこう使うのか」
「分かるか、小僧!」
「面白いですね!」
ビルセイヤは鍛冶場で目を輝かせていた。
王女の予想は、盛大に外れていたのであった。
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第一章 第三十八話
王都の鍛冶師ギルド
――続く。




