第三十七話 王城への招待
王都冒険者ギルドの応接室。
第二王女アイリスとの初対面を終えたビルセイヤたちは、そのまま歓談の時間を過ごしていた。
◇◇◇
「改めまして、オークロード討伐おめでとうございます」
アイリスが優雅な笑みを浮かべる。
「ありがとうございます」
ビルセイヤも礼を返した。
王女が相手だからといって必要以上に畏まらない。
かといって無礼でもない。
自然体。
それがビルセイヤという青年だった。
アイリスはそんな彼を興味深そうに見つめている。
噂は聞いていた。
ゴブリンジェネラル討伐。
オークロード討伐。
辺境で次々と功績を挙げる若き冒険者。
だが実際に会ってみると、印象は大きく違っていた。
強さだけではない。
功績を誇らない。
王族にも媚びない。
誰に対しても態度を変えない。
そんな人物を、アイリスは初めて見た。
「ビルセイヤ様は、王都へ来るのは初めてですか?」
「はい」
「王都はいかがでしたか?」
アイリスの問いに、ビルセイヤは少し考える。
「大きいですね」
「それから建築技術が凄い」
アイリスが小首を傾げた。
「建築技術……ですか?」
「はい」
ビルセイヤは真面目な顔で頷く。
「あの城壁の石積みは見事でした」
「冒険者ギルドの梁の組み方も参考になります」
一瞬の静寂。
そして――
「ぶふっ!」
ガルドが吹き出した。
「ははははっ! 本当に職人気質なんだな!」
セシリアも苦笑する。
「ずっとこんな感じなんです」
エミリアも小さく頷いた。
「鍛冶の話になると止まりません」
アイリスは思わず笑顔になる。
面白い。
王都へ来た冒険者なら、普通は名誉や報酬、貴族との繋がりに興味を示す。
だがビルセイヤは違う。
城壁や建築技術に目を輝かせている。
それが新鮮だった。
それに――少しだけ、嬉しくもあった。
英雄としてではなく、ひとりの職人として王都を見てくれている気がしたからだ。
◇◇◇
「それでは」
アイリスが少し姿勢を正した。
自然と部屋の空気も引き締まる。
「改めてお願いがあります」
「お願いですか?」
ビルセイヤが首を傾げる。
「はい」
アイリスは柔らかく微笑んだ。
「ぜひ、王城へお越しください」
その言葉に――
セシリアとエミリアが固まった。
王城。
国王と王族が住まう場所。
普通の冒険者が足を踏み入れる機会など、一生ない。
「父である国王陛下も、ビルセイヤ様のお話を聞きたがっています」
国王。
今度は国の頂点である。
セシリアの顔が引きつる。
エミリアも少し緊張した様子だった。
しかし――
「分かりました」
ビルセイヤはあっさり頷いた。
「えっ?」
アイリスが目を瞬く。
「よろしいのですか?」
「断る理由がありませんし」
あまりにも自然な返答だった。
ガルドが肩を震わせる。
王城への招待。
普通なら緊張する。
恐縮する。
だがビルセイヤは違う。
本当に変わった男だ。
「それでは、明日はいかがでしょうか?」
「大丈夫です」
「ありがとうございます」
アイリスの笑顔が一段と明るくなる。
その様子を見たマリアは、静かに微笑んだ。
幼少の頃からアイリスに仕えてきた。
だから分かる。
今の王女は、本当に楽しそうだった。
◇◇◇
話がまとまり、応接室を出ることになる。
廊下へ出たところで――
「ビルセイヤ様」
アイリスが呼び止めた。
「なんでしょう?」
「王都を楽しんでくださいませ」
優しい笑顔だった。
「ありがとうございます」
ビルセイヤも自然に笑みを返す。
ただそれだけ。
それだけのやり取りなのに、アイリスの胸は少しだけ高鳴っていた。
報告書の中で見た“英雄”ではない。
今、目の前にいるのは、穏やかに笑うひとりの青年だった。
(強くて、落ち着いていて……それでいて、あんなふうに自然に笑う方なのですね)
胸の奥が、くすぐったくなる。
アイリスはその感覚をまだうまく言葉にできなかった。
◇◇◇
その後、冒険者ギルドを出たビルセイヤたちだったが――
「鍛冶師ギルドへ行こう」
開口一番、それだった。
セシリアが頭を抱える。
「まず宿です!」
「そうですね」
エミリアも即座に賛成した。
「王都は広いですから、拠点を確保してから動きましょう」
「むぅ……」
ビルセイヤは少し不満そうだったが、二対一では勝てない。
結局、先に宿を探すことになった。
そんな三人のやり取りを見て、ロイドは思わず苦笑する。
王女に招待され、明日は国王との対面まで控えているというのに――この男の頭の中は鍛冶のことでいっぱいらしい。
だが、だからこそ面白いのかもしれない。
◇◇◇
一方その頃――
王城へ戻る馬車の中。
アイリスは窓の外を眺めながら、どこか楽しそうに微笑んでいた。
「マリア」
「はい、アイリス様」
「ビルセイヤ様は面白い方ですわね」
「そうでございますね」
マリアは苦笑する。
王女がここまで一人の男性に興味を示したことは、これまでなかった。
見た目ではない。
身分でもない。
人柄に惹かれているのだ。
「明日が楽しみですわ」
アイリスは嬉しそうに呟いた。
マリアはそんな主人を温かい目で見守る。
運命の出会い。
その種は確かに芽吹き始めていた。
そして明日――
ビルセイヤは、国王ライオットと対面することになる。
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第一章 第三十七話
王城への招待
――続く。




