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第三十六話 王女との初対面

 王都冒険者ギルド。


 王国最大の冒険者たちが集うその建物を見上げながら、ビルセイヤは感心したように頷いていた。


◇◇◇


「見事な造りだな」


◇◇◇


 太い柱。


 頑丈な梁。


 無駄のない石造りの構造。


◇◇◇


 職人として興味を惹かれる部分が多い。


◇◇◇


「ビルセイヤさん」


◇◇◇


「なんだ?」


◇◇◇


「まずは中へ入りましょう」


◇◇◇


 セシリアが半ば呆れたように言う。


◇◇◇


 王都へ来ても鍛冶や建築物ばかり見ている。


 ある意味いつも通りだった。


◇◇◇


 三人はロイドに案内され、王都冒険者ギルドの中へ入る。


◇◇◇


 その瞬間――。


◇◇◇


 ざわっ。


◇◇◇


 空気が変わった。


◇◇◇


 ギルド内にいた冒険者たちの視線が一斉に集まる。


◇◇◇


「おい……」


◇◇◇


「あいつじゃないか?」


◇◇◇


「オークロードを倒したっていう……」


◇◇◇


「辺境の英雄候補か」


◇◇◇


 ひそひそと囁き合う声。


◇◇◇


 どうやら噂は既に王都へ広まっているらしい。


◇◇◇


 ビルセイヤは少しだけ居心地の悪さを感じた。


◇◇◇


 本当は目立ちたくない。


◇◇◇


 鍛冶をして。


 冒険をして。


 普通に暮らしたいだけだ。


◇◇◇


 しかし現実はそう上手くいかないらしい。


◇◇◇


「こちらです」


◇◇◇


 ロイドに案内され、ギルドの奥へ向かう。


◇◇◇


 二階。


 一般冒険者は立ち入れない区域。


◇◇◇


 通されたのは豪華な応接室だった。


◇◇◇


 高級木材で作られた机。


 柔らかなソファ。


 壁には魔物討伐の記念品が飾られている。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


「ようこそ王都へ」


◇◇◇


 一人の壮年の男性が立ち上がった。


◇◇◇


 筋骨隆々。


 鋭い眼光。


 歴戦の戦士を思わせる風格。


◇◇◇


 王都冒険者ギルドのギルドマスターだった。


◇◇◇


「私はガルドだ」


◇◇◇


 ビルセイヤたちも順番に名乗る。


◇◇◇


「ビルセイヤです」


「セシリアです」


「エミリアです」


◇◇◇


 ガルドは満足そうに頷いた。


◇◇◇


「噂以上だな」


◇◇◇


「ゴブリンジェネラル討伐」


「オークロード討伐」


◇◇◇


「どちらも並の冒険者では成し遂げられん」


◇◇◇


 率直な称賛だった。


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


「運が良かっただけです」


◇◇◇


 ビルセイヤはそう答える。


◇◇◇


 ガルドは豪快に笑った。


◇◇◇


「はははっ!」


◇◇◇


「運だけでオークロードは倒せんよ」


◇◇◇


 その通りだった。


◇◇◇


 実力がなければ生き残ることすらできない。


◇◇◇


 部屋の空気が和らぎ始めた、その時だった。


◇◇◇


 コンコン。


◇◇◇


 扉が叩かれる。


◇◇◇


「入れ」


◇◇◇


 ガルドが答える。


◇◇◇


 ゆっくりと扉が開いた。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 部屋へ入ってきた瞬間。


 誰もが視線を奪われた。


◇◇◇


 雪のように白いドレス。


 陽光を思わせる金色の髪。


 透き通るような白い肌。


◇◇◇


 そして気品に満ちた立ち振る舞い。


◇◇◇


 一目で分かる。


◇◇◇


 高貴な身分の人物だ。


◇◇◇


「失礼いたします」


◇◇◇


 少女は優雅に一礼した。


◇◇◇


 その後ろには一人の侍女。


◇◇◇


 マリアが静かに控えている。


◇◇◇


 ガルドが苦笑を浮かべた。


◇◇◇


「お待ちかねの方が来たぞ」


◇◇◇


「お待ちかね?」


◇◇◇


 ビルセイヤが首を傾げる。


◇◇◇


 少女は一歩前へ出た。


◇◇◇


「初めまして」


◇◇◇


 鈴の音のように美しい声だった。


◇◇◇


「私はアルティア王国第二王女」


◇◇◇


「アイリス・アルティアと申します」


◇◇◇


 部屋が静まり返る。


◇◇◇


 セシリアの身体が固まった。


◇◇◇


 エミリアも目を見開く。


◇◇◇


 王女。


◇◇◇


 本物の王女だ。


◇◇◇


 普通の冒険者なら一生関わることもない存在。


◇◇◇


 一方で。


◇◇◇


「ビルセイヤです」


◇◇◇


 ビルセイヤは普通に名乗った。


◇◇◇


 アイリスが一瞬だけ目を丸くする。


◇◇◇


 予想していた反応ではなかった。


◇◇◇


 普通なら慌てる。


 緊張する。


 言葉に詰まる。


◇◇◇


 しかし目の前の青年は違う。


◇◇◇


 自然体だった。


◇◇◇


 まるで一般人と会話するような気軽さで接している。


◇◇◇


(面白い方ですわ……)


◇◇◇


 アイリスは思わず微笑んだ。


◇◇◇


 その表情を見たマリアは心の中でため息を吐く。


◇◇◇


(始まりましたね……)


◇◇◇


 幼い頃から仕えている。


◇◇◇


 だから分かる。


◇◇◇


 アイリスは完全に興味を持った。


◇◇◇


「ビルセイヤ様」


◇◇◇


 アイリスが柔らかく微笑む。


◇◇◇


「王都へようこそ」


◇◇◇


「ありがとうございます」


◇◇◇


 穏やかな返事。


◇◇◇


 その様子にアイリスの笑みはさらに深くなる。


◇◇◇


「後ほど王城へもご招待したいのですが」


◇◇◇


 さらりと告げられた言葉。


◇◇◇


 セシリアとエミリアが固まる。


◇◇◇


 王城。


◇◇◇


 普通の冒険者が足を踏み入れる場所ではない。


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


「構いませんが」


◇◇◇


 ビルセイヤはあっさり承諾した。


◇◇◇


 緊張感がない。


◇◇◇


 あまりにも自然だった。


◇◇◇


 一瞬ぽかんとした後。


◇◇◇


「ふふっ」


◇◇◇


 アイリスが笑った。


◇◇◇


 楽しそうな笑顔だった。


◇◇◇


 王女が笑ったことで部屋の空気も和らぐ。


◇◇◇


 こうして。


◇◇◇


 辺境から来た冒険者。


 ビルセイヤ。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 アルティア王国第二王女。


 アイリス。


◇◇◇


 二人は初めて言葉を交わした。


◇◇◇


 まだ誰も知らない。


◇◇◇


 この出会いが。


◇◇◇


 後に世界を救う英雄と王女。


 そして未来の夫婦となる二人の物語の始まりであることを。


◇◇◇


 運命の歯車は静かに動き始めていた。


第一章 第三十七話


「王女との初対面」


――続く。

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