第三十五話 王都アルティア
盗賊騒動から数時間後――。
ビルセイヤたちを乗せた馬車は、再び王都アルティアへ向けて街道を進んでいた。
◇◇◇
「本当に王都が近いんですね」
窓の外を眺めながら、セシリアが呟く。
シーサス周辺とは、景色が大きく違っていた。
広く整備された街道。
行き交う商人馬車。
旅人たちの姿。
街道そのものが、活気に満ちている。
「王国の中心部ですから」
ロイドが穏やかに答えた。
「騎士団の巡回も多く、治安は比較的安定しています」
「なるほど」
ビルセイヤは頷いた。
前世の感覚で言えば、首都圏のようなものだろう。
人口も経済も、辺境とは比べものにならないはずだ。
そんなことを考えていると――。
「見えてきました」
ロイドが窓の外を指差した。
三人は自然と視線を向ける。
◇◇◇
「おお……」
思わず、セシリアが息を呑んだ。
地平線の先。
巨大な城壁がそびえ立っていた。
さらにその奥には、白亜の城。
天へ向かって伸びる複数の塔。
周囲には、広大な街並みが広がっている。
王都アルティア。
アルティア王国の中心都市。
王国最大の人口を誇る大都市である。
「凄い……」
エミリアも目を見開いていた。
エルフの里とは全く異なる景色。
人間が築き上げた巨大な文明。
圧倒されるのも無理はなかった。
一方――。
「石積みが綺麗だな」
ビルセイヤは城壁を見ながら感心していた。
「そこですか!?」
セシリアが思わず声を上げる。
「いや、あれだけの規模の建築物を造る技術は凄いぞ」
職人としての視点だった。
ロイドも苦笑する。
「王都には優秀な職人が多いですから」
「鍛冶師もか?」
「もちろんです」
その瞬間、ビルセイヤの目が輝いた。
「楽しみだな」
「やっぱりそこなんですね……」
セシリアは苦笑するしかなかった。
◇◇◇
昼過ぎ。
馬車は王都の正門へ到着した。
巨大な門。
重厚な城壁。
数十名の兵士。
出入りする人々の列も長い。
辺境の街とは比べものにならない規模だった。
「身分確認をお願いします」
門番が近づいてくる。
しかし、ロイドが王家の紋章入り証書を提示すると、兵士たちの態度は一変した。
「失礼いたしました!」
敬礼。
そして、馬車は優先的に通された。
「凄いですね……」
セシリアが感心したように呟く。
「王家の使者ですから」
ロイドは苦笑した。
やがて、馬車は王都へ入る。
◇◇◇
「うわぁ……」
セシリアの口から自然と感嘆の声が漏れた。
広い石畳の道路。
立ち並ぶ商店。
無数の人々。
商人。
冒険者。
職人。
貴族。
様々な人々が行き交っている。
活気が違った。
まさに王都。
王国の中心に相応しい賑わいだった。
「美味しそうな匂いがします!」
セシリアの視線は、すでに屋台へ向いている。
串焼き。
焼き菓子。
果実ジュース。
辺境では見かけない食べ物も多い。
「後でな」
ビルセイヤが苦笑する。
エミリアも忙しそうに周囲を見回していた。
本屋。
薬屋。
魔道具店。
興味を引かれる店ばかりだ。
そして、ビルセイヤの視線は別の場所へ向いていた。
「鍛冶師ギルドか……」
大通りの先。
巨大な煙突を備えた建物が見える。
職人たちが出入りし、鉄を打つ音がここまで聞こえてきそうだった。
シーサスの鍛冶師ギルドとは、規模が違う。
「行きたい」
ぽつりと呟く。
「まだ駄目です」
ロイドが即答した。
「まずは王都冒険者ギルドへの挨拶が先です」
ビルセイヤは、露骨に残念そうな顔をする。
その様子に、セシリアとエミリアが笑った。
◇◇◇
やがて馬車は目的地へ到着する。
王都冒険者ギルド。
三階建ての巨大な建物。
シーサスの冒険者ギルドの数倍はある。
出入りする冒険者の数も桁違いだった。
「ここが王都冒険者ギルドです」
ロイドが告げる。
三人は馬車から降りた。
その時――。
ギルドの二階。
窓辺からこちらを見つめる少女がいた。
美しい金色の髪。
透き通るような白い肌。
上品なドレス。
第二王女アイリスだった。
「来ましたわ……」
胸の前で両手を組む。
瞳は期待に輝いていた。
ゴブリンジェネラルを討伐し。
オークロードを討伐した英雄。
その人物が今、目の前にいる。
「ビルセイヤ様……」
小さく呟く。
一方――当のビルセイヤは。
「梁の組み方が面白いな」
冒険者ギルドの建築構造を眺めていた。
完全に職人目線である。
アイリスの熱い視線にも、まったく気づいていない。
◇◇◇
こうして。
英雄候補の青年と王女。
二人の運命が、王都アルティアで交わろうとしていた。
だが本人だけは、まだ何も知らない。
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第一章 第三十五話
王都アルティア
――続く。




