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第三十四話 盗賊討伐

 王都アルティアへ向かう街道沿いの休憩所。


 穏やかだった空気は、盗賊たちの登場によって一変していた。


◇◇◇


 森から現れた十人ほどの男たち。


 粗末な革鎧。


 欠けた剣。


 使い込まれた斧。


◇◇◇


 一目で分かる。


◇◇◇


 盗賊だ。


◇◇◇


「へへへっ!」


◇◇◇


 先頭に立つ男が下卑た笑みを浮かべる。


◇◇◇


「今日は運がいいぜ!」


◇◇◇


「貴族様の馬車じゃねぇか!」


◇◇◇


 盗賊たちは馬車を取り囲むように広がった。


◇◇◇


「大人しく金目の物を置いていけば命だけは助けてやる!」


◇◇◇


 いかにも盗賊らしい台詞だった。


◇◇◇


 ロイドの顔色が青くなる。


 御者も怯えた表情を浮かべていた。


◇◇◇


 しかし――。


◇◇◇


 ビルセイヤたちは落ち着いていた。


◇◇◇


 いや。


 落ち着き過ぎていた。


◇◇◇


「どうします?」


 セシリアがいつもの調子で尋ねる。


◇◇◇


「捕まえる」


◇◇◇


 ビルセイヤは即答した。


◇◇◇


「全員ですか?」


◇◇◇


「全員だ」


◇◇◇


「了解です」


◇◇◇


 まるで依頼の確認でもしているような会話だった。


◇◇◇


 盗賊たちの眉がぴくりと動く。


◇◇◇


「おいおい……」


◇◇◇


 盗賊の一人が剣を向けた。


◇◇◇


「立場が分かってねぇみたいだな?」


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


 ビルセイヤはため息を吐くだけだった。


◇◇◇


「セシリア」


◇◇◇


「はい」


◇◇◇


「怪我はさせるな」


◇◇◇


「頑張ります!」


◇◇◇


 盗賊たちの額に青筋が浮かぶ。


◇◇◇


 完全に見下されていた。


◇◇◇


「舐めやがって!」


◇◇◇


「やれぇっ!」


◇◇◇


 盗賊たちが一斉に襲い掛かる。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 結果は最初から決まっていた。


◇◇◇


「はっ!」


◇◇◇


 セシリアが前へ飛び出す。


◇◇◇


 片手剣が閃く。


◇◇◇


 ガキン!


◇◇◇


 盗賊の剣を弾き飛ばした。


◇◇◇


「なっ!?」


◇◇◇


 驚く盗賊。


◇◇◇


 その隙に足払い。


◇◇◇


 ドサッ!


◇◇◇


「ぐえっ!」


◇◇◇


 見事に転倒した。


◇◇◇


 戦闘不能。


◇◇◇


 その横ではエミリアが静かに杖を構える。


◇◇◇


「風よ」


◇◇◇


 小さな詠唱。


◇◇◇


「ウィンドバインド」


◇◇◇


 風が渦を巻く。


◇◇◇


 二人の盗賊の足へ絡み付いた。


◇◇◇


「なんだ!?」


◇◇◇


「うわっ!」


◇◇◇


 二人同時に転倒。


◇◇◇


 そのまま地面へ押さえ付けられる。


◇◇◇


 戦闘不能。


◇◇◇


 わずか数秒だった。


◇◇◇


 三人の盗賊が無力化される。


◇◇◇


「ば、馬鹿な……」


◇◇◇


 盗賊の頭領が顔色を変えた。


◇◇◇


 ようやく理解する。


◇◇◇


 相手は普通の旅人ではない。


◇◇◇


 強い。


◇◇◇


 しかも異常なほどに。


◇◇◇


 その時だった。


◇◇◇


 ビルセイヤが動く。


◇◇◇


 一歩。


◇◇◇


 ただそれだけ。


◇◇◇


 次の瞬間には頭領の目の前へ到達していた。


◇◇◇


「なっ!?」


◇◇◇


 速い。


◇◇◇


 見えなかった。


◇◇◇


 頭領が慌てて剣を振るう。


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


 ビルセイヤは最小限の動きで躱す。


◇◇◇


 そして――。


◇◇◇


 ゴッ!


◇◇◇


 剣の柄頭を腹へ叩き込んだ。


◇◇◇


「がはっ!」


◇◇◇


 頭領が膝をつく。


◇◇◇


 呼吸が止まる。


◇◇◇


 そのまま意識を失った。


◇◇◇


「頭領ぉ!?」


◇◇◇


 盗賊たちが悲鳴を上げる。


◇◇◇


 圧倒的だった。


◇◇◇


 オークロードと死闘を繰り広げた三人にとって、盗賊団など脅威にならない。


◇◇◇


 数分後。


◇◇◇


 全てが終わった。


◇◇◇


 盗賊十名。


◇◇◇


 全員捕縛。


◇◇◇


 重傷者なし。


◇◇◇


「終わりました」


◇◇◇


 セシリアが笑顔で報告する。


◇◇◇


「終わったな」


◇◇◇


 ビルセイヤも頷いた。


◇◇◇


 ロイドは呆然としている。


◇◇◇


「凄い……」


◇◇◇


 それしか言葉が出なかった。


◇◇◇


 盗賊団を数分で制圧。


 しかも死者はゼロ。


◇◇◇


 普通ならあり得ない。


◇◇◇


「近くに騎士団の詰所はありますか?」


 エミリアが尋ねる。


◇◇◇


「え、ええ」


◇◇◇


 ロイドが我に返った。


◇◇◇


「ここから一時間ほどの場所にあります」


◇◇◇


「なら引き渡しましょう」


◇◇◇


 盗賊たちは縄で縛られていく。


◇◇◇


 その時だった。


◇◇◇


「た、助けてくれ!」


◇◇◇


 若い盗賊が叫んだ。


◇◇◇


「俺たちは好きで盗賊になったんじゃない!」


◇◇◇


 ビルセイヤが足を止める。


◇◇◇


「どういう意味だ?」


◇◇◇


「村が飢えてるんだ!」


◇◇◇


 盗賊の目には涙が浮かんでいた。


◇◇◇


「今年は不作だった……」


◇◇◇


「子供たちが腹を空かせてるんだ……!」


◇◇◇


 その場が静まり返る。


◇◇◇


 頭領は俯いたまま何も言わない。


◇◇◇


 だが否定もしなかった。


◇◇◇


 嘘ではないのだろう。


◇◇◇


 ビルセイヤは少し考えた。


◇◇◇


 盗賊は悪だ。


◇◇◇


 人を襲った。


 奪おうとした。


◇◇◇


 だから罪は罪である。


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


 事情があることも理解できた。


◇◇◇


「騎士団へ引き渡す」


◇◇◇


 若い盗賊が絶望した表情になる。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


「ただし」


◇◇◇


 ビルセイヤは続けた。


◇◇◇


「事情は説明してやる」


◇◇◇


「え……?」


◇◇◇


「本当に村が困っているなら救う方法はある」


◇◇◇


「だからまず罪を償え」


◇◇◇


「その後でやり直せばいい」


◇◇◇


 静かな声だった。


◇◇◇


 だが不思議な重みがあった。


◇◇◇


 若い盗賊は涙を流しながら頷く。


◇◇◇


「……はい」


◇◇◇


 こうして盗賊騒動は終わった。


◇◇◇


 再び馬車は王都へ向けて走り出す。


◇◇◇


 窓の外では青空が広がっていた。


◇◇◇


 そして王都アルティアでは――。


◇◇◇


「まだですの?」


◇◇◇


 第二王女アイリスが落ち着きなく部屋を歩き回っていた。


◇◇◇


「まだ到着まで数時間ございます」


◇◇◇


 侍女マリアが苦笑する。


◇◇◇


「長いですわ……」


◇◇◇


 まだ会ったこともない英雄。


◇◇◇


 それでも少女の胸は期待でいっぱいだった。


◇◇◇


 一方その頃。


◇◇◇


 当のビルセイヤは。


◇◇◇


「王都の鍛冶師ギルド、楽しみだな」


◇◇◇


 完全に鍛冶のことしか考えていなかった。


◇◇◇


 運命の出会いまで、あと少し――。


第一章 第三十五話


「盗賊討伐」


――続く。

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