表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/154

第三十三話 王都への道

 王都アルティアへの出発当日――。


 まだ朝日が昇り切らない早朝。


 シーサスの街は薄い朝霧に包まれていた。


◇◇◇


「忘れ物はないか?」


◇◇◇


 宿の前でビルセイヤが荷物を確認する。


◇◇◇


 ロングソード。


 冒険者ギルドカード。


 着替え。


 保存食。


◇◇◇


 持ち物は最低限だ。


 旅慣れているわけではないが、余計な荷物を持つつもりもない。


◇◇◇


「大丈夫です!」


◇◇◇


 セシリアが元気よく答えた。


◇◇◇


 表情は明るい。


 初めて訪れる王都への期待を隠し切れていなかった。


◇◇◇


 王都アルティア。


◇◇◇


 王国最大の都市。


 多くの冒険者が憧れる場所。


◇◇◇


 辺境育ちのセシリアにとっては夢のような場所だった。


◇◇◇


「私は問題ありません」


◇◇◇


 エミリアも静かに頷く。


◇◇◇


 背中には弓。


 腰には短剣。


◇◇◇


 いつも通り落ち着いているように見える。


 だが長い耳が僅かに揺れていた。


◇◇◇


 彼女も楽しみにしているのだろう。


◇◇◇


「気を付けて行ってこいよ」


◇◇◇


 宿の主人が見送りに出てきた。


◇◇◇


 ビルセイヤたちは何度も世話になっている。


 もはや顔馴染みだった。


◇◇◇


「世話になった」


◇◇◇


 ビルセイヤが軽く頭を下げる。


◇◇◇


 シーサスへ来てから様々なことがあった。


◇◇◇


 冒険者登録。


 ゴブリンジェネラル討伐。


 たたら製鉄。


 オークロード討伐。


◇◇◇


 短い期間とは思えないほど濃い時間だった。


◇◇◇


 その時――。


◇◇◇


「おーい!」


◇◇◇


 聞き慣れた大声が響く。


◇◇◇


 振り返ると、バルドが大股で歩いてきていた。


◇◇◇


「見送りだ」


◇◇◇


「朝早くからか?」


◇◇◇


「お前たちが王都へ行くって聞いたからな」


◇◇◇


 そう言って笑う。


◇◇◇


 ギルドマスターらしくない、どこか親しみのある笑みだった。


◇◇◇


「向こうで暴れ過ぎるなよ」


◇◇◇


「善処する」


◇◇◇


「絶対に暴れるだろ」


◇◇◇


 即座に返された。


◇◇◇


 セシリアとエミリアが吹き出す。


◇◇◇


 確かに。


 ゴブリンジェネラルを倒し。


 オークロードまで討伐した男である。


◇◇◇


 説得力はなかった。


◇◇◇


 街門へ到着すると、一台の馬車が待機していた。


◇◇◇


 王都から派遣された迎えの馬車だ。


◇◇◇


 木製ながら装飾は美しく、普通の商人馬車より遥かに高級感がある。


◇◇◇


「こちらへどうぞ」


◇◇◇


 ロイドが扉を開いた。


◇◇◇


 三人は馬車へ乗り込む。


◇◇◇


 やがて車輪が動き始めた。


◇◇◇


 ガラガラ――。


◇◇◇


 ゆっくりとシーサスを離れていく。


◇◇◇


 窓から見える街並み。


 見慣れた景色。


◇◇◇


 少しずつ小さくなっていく。


◇◇◇


「なんだか不思議ですね」


◇◇◇


 セシリアが窓の外を眺めながら呟いた。


◇◇◇


「何がだ?」


◇◇◇


「少し前まで普通の冒険者だったのに」


◇◇◇


「今は王都から招待されているんです」


◇◇◇


 確かにそうだった。


◇◇◇


 ビルセイヤが冒険者登録したのはつい最近。


◇◇◇


 それなのに今は王都から正式な招待を受けている。


◇◇◇


 人生とは本当に分からないものだ。


◇◇◇


「俺は鍛冶がしたかっただけなんだが」


◇◇◇


 ぼそりと呟く。


◇◇◇


「またそれですか」


◇◇◇


 セシリアが苦笑する。


◇◇◇


「ビルセイヤさんらしいですね」


 エミリアも微笑んだ。


◇◇◇


 馬車は街道を進む。


◇◇◇


 シーサスと王都を結ぶ街道は綺麗に整備されていた。


◇◇◇


 途中には農村が見える。


 広大な麦畑。


 果樹園。


 放牧された家畜。


◇◇◇


 辺境とは違う豊かさがあった。


◇◇◇


「平和ですね」


◇◇◇


 エミリアが呟く。


◇◇◇


「王都に近いですから」


◇◇◇


 ロイドが説明する。


◇◇◇


「騎士団の巡回も多く、魔物被害も少ない地域です」


◇◇◇


 なるほど。


◇◇◇


 だからこそ発展しているのだろう。


◇◇◇


 昼前。


◇◇◇


 馬車は街道沿いの休憩所へ到着した。


◇◇◇


「少し休憩しましょう」


◇◇◇


 ロイドの提案で全員が馬車を降りる。


◇◇◇


 木陰で水を飲む。


 旅の疲れを癒す穏やかな時間。


◇◇◇


 だが――。


◇◇◇


「おや?」


◇◇◇


 エミリアの耳がぴくりと動いた。


◇◇◇


「どうした?」


◇◇◇


「森の方から音が……」


◇◇◇


 ビルセイヤも気配を探る。


◇◇◇


 確かに何かいる。


◇◇◇


 人間。


 複数。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 明確な殺気。


◇◇◇


「全員下がれ」


◇◇◇


 ビルセイヤが静かに剣へ手を掛ける。


◇◇◇


 セシリアも即座に剣を抜いた。


◇◇◇


 ロイドの表情が強張る。


◇◇◇


「まさか……」


◇◇◇


 次の瞬間。


◇◇◇


 ガサガサッ!


◇◇◇


 森から男たちが飛び出してきた。


◇◇◇


 粗末な革鎧。


 欠けた剣。


 斧。


 汚れた服。


◇◇◇


 一目で分かる。


◇◇◇


 盗賊だ。


◇◇◇


「へへへっ!」


◇◇◇


 先頭の男が下卑た笑みを浮かべる。


◇◇◇


「今日はツイてるぜ!」


◇◇◇


「貴族様の馬車じゃねぇか!」


◇◇◇


 十人近い盗賊たちが武器を構えた。


◇◇◇


 ロイドの顔色が青くなる。


◇◇◇


 普通なら絶望的な状況だ。


◇◇◇


 しかし――。


◇◇◇


 ビルセイヤたちは落ち着いていた。


◇◇◇


 ゴブリンジェネラル。


 オークロード。


◇◇◇


 それらと死闘を繰り広げた直後なのだ。


◇◇◇


 正直なところ。


◇◇◇


 脅威には見えなかった。


◇◇◇


「どうします?」


 セシリアが尋ねる。


◇◇◇


「捕まえる」


◇◇◇


 ビルセイヤは即答した。


◇◇◇


 盗賊たちの表情が引きつる。


◇◇◇


 その理由は単純だった。


◇◇◇


 自分たちは獲物を襲ったはずだった。


◇◇◇


 なのに。


◇◇◇


 目の前の三人は怯えていない。


◇◇◇


 それどころか――。


◇◇◇


 狩る側の目をしていた。


◇◇◇


 盗賊たちはまだ知らない。


◇◇◇


 自分たちが襲った相手が。


◇◇◇


 ゴブリンジェネラルとオークロードを討伐した英雄候補であることを。


第一章 第三十四話


「王都への道」


――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ