第三十二話 王都からの招待
オークロード討伐から二日後――。
シーサス冒険者ギルドのギルドマスター室には、いつもとは違う緊張感が漂っていた。
◇◇◇
「王都アルティアからの依頼……ですか?」
ビルセイヤは、目の前に立つ男を見ながら問いかけた。
「はい」
男は丁寧に一礼する。
「私はアルティア王家より派遣されました文官、ロイドと申します」
王家。
その言葉だけで、普通の人間なら背筋を伸ばすだろう。
ましてや相手は王都アルティア。
この国の中心であり、王族が住まう場所だ。
しかし――
ビルセイヤは、不思議そうに首を傾げた。
「俺は王家に知り合いはいませんが?」
「その通りです」
ロイドは苦笑する。
「ですが、ビルセイヤ殿のお名前は既に王都へ届いております」
ゴブリンジェネラル討伐。
オークロード討伐。
そして異例とも言える速度でのEランク昇格。
辺境では十分すぎるほどの功績だった。
王都の耳に入るのも当然と言える。
「そこで、王都冒険者ギルドより正式な招待状が届いております」
ロイドは一通の封筒を差し出した。
厚手の高級紙。
封蝋にはアルティア王国の紋章が刻まれている。
横から覗き込んだバルドが頷いた。
「本物だな」
ギルドマスターのお墨付きである。
◇◇◇
ビルセイヤは封を切り、中の手紙へ目を通す。
簡潔だが、丁寧な文面だった。
『ビルセイヤ殿並びにパーティーメンバーを、王都アルティアへ招待する』
『功績を称えると共に、王都冒険者ギルドへの訪問を歓迎する』
『旅費及び滞在費は王都側が負担する』
かなりの好待遇だった。
「凄いですね……」
セシリアが目を丸くする。
「王都ですよ?」
シーサスとは比較にならない大都市。
多くの冒険者が一度は憧れる場所だ。
「私も行ってみたいです」
エミリアも興味深そうに頷く。
エルフの里で育った彼女にとって、人間最大の都市は未知の世界だった。
◇◇◇
一方――
ビルセイヤは腕を組んで考え込んでいた。
王都。
興味がないわけではない。
だが――
鍛冶師ギルドの工房には玉鋼がある。
刀作りもまだ途中だ。
「うーん……」
真剣に悩む。
「何を悩むんだ?」
バルドが呆れた顔をした。
「王都だぞ?」
「刀を作りたい」
即答だった。
一瞬、部屋の空気が止まる。
「お前なぁ……」
バルドが頭を抱えた。
「普通は王都へ行きたいと思うだろ!」
「刀も作りたい」
真顔である。
セシリアとエミリアが思わず吹き出した。
これがビルセイヤだ。
名誉より鍛冶。
出世より鍛冶。
王都より鍛冶。
ある意味で実に分かりやすい。
◇◇◇
「旅はどのくらいですか?」
エミリアがロイドへ尋ねる。
「馬車で半日ほどです」
ロイドが答えた。
シーサスは王都に近い。
街道も整備されているため、移動時間は短い。
「近いな」
ビルセイヤが呟く。
前世の感覚なら、隣町へ行くようなものだ。
するとロイドが、何気なく付け加えた。
「王都には国内最大規模の鍛冶師ギルドもございます」
その瞬間――
「行こう」
即答だった。
「早いですね!?」
セシリアが思わず声を上げる。
「鍛冶師ギルドがあるなら話は別だ」
ビルセイヤは真剣だった。
王都の技術。
王都の職人。
王都の鍛冶環境。
それらは非常に興味深い。
玉鋼をどう扱っているのか。
珍しい鉱石はあるのか。
魔鉄に関する資料は残っていないか。
考え始めると、興味は尽きなかった。
「決まりだな」
バルドが笑った。
「いつ出発する?」
「明後日の朝を予定しております」
ロイドが答える。
一日の準備期間。
十分だった。
◇◇◇
その日の夜。
三人は宿へ戻り、旅支度を始めていた。
「王都ですかぁ」
セシリアはどこか楽しそうだった。
「何か欲しいものでもあるのか?」
「美味しいものです!」
即答だった。
ビルセイヤは苦笑する。
「セシリアらしいな」
エミリアも微笑んだ。
「私は本屋へ行ってみたいですね」
王都には巨大な書店や魔導書店があるらしい。
知識を好むエルフらしい答えだった。
「ビルセイヤさんは?」
二人が尋ねる。
ビルセイヤは少しだけ考えた。
「鍛冶師ギルド」
「ですよね」
「予想通りです」
二人の声が綺麗に重なった。
その様子に、三人は笑う。
戦い続きだった日々の中で、こうして穏やかに笑い合える時間があることが少し嬉しかった。
◇◇◇
こうして。
ビルセイヤたちの次なる目的地が決まった。
王都アルティア。
王国最大の都市。
多くの冒険者が集う場所。
数多の貴族と商人、職人たちが行き交う中心地。
そして――
第二王女アイリスが、首を長くして待っている場所でもあった。
◇◇◇
「ビルセイヤ様……」
王城の一室。
アイリスは窓の外を見ながら、小さく呟いた。
まだ会ったこともない。
話したこともない。
それでも。
ゴブリンジェネラルを討伐し、オークロードを討伐した英雄に、心を奪われていた。
「早くお会いしたいですわ……」
その隣で、侍女のマリアが静かにため息を吐く。
「まずはお会いしてからになさってくださいませ」
恋する王女は、今日も絶好調だった。
◇◇◇
そして運命の歯車は、静かに回り始める。
まだ誰も知らない。
この王都行きが――
世界を救う英雄と王女の物語、その始まりになることを。
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第一章 第三十二話
王都からの招待
――続く。




