第三十一話 勝利の夜と新たな依頼
オークロード討伐から数時間後――。
辺境の村は歓喜に包まれていた。
◇◇◇
「助かった……」
「本当に助かった……!」
◇◇◇
村人たちは涙を流しながら冒険者たちへ頭を下げていた。
もしビルセイヤたちが駆け付けていなければ、この村は間違いなく壊滅していただろう。
家族も家も、全てを失っていたかもしれない。
それほど危険な状況だった。
◇◇◇
「皆さんのおかげです」
◇◇◇
村長の老人が深々と頭を下げる。
その後ろには村人たちが並んでいた。
子供たちもいる。
老人たちもいる。
◇◇◇
守れた。
◇◇◇
ビルセイヤは静かに息を吐いた。
◇◇◇
「いや」
首を横に振る。
◇◇◇
「俺たちだけじゃない」
◇◇◇
周囲を見渡す。
◇◇◇
オークと戦った冒険者たち。
必死に村を守った自警団。
避難誘導を行った村人たち。
◇◇◇
誰一人欠けても勝利はなかった。
◇◇◇
「皆で守ったんだ」
◇◇◇
その言葉に村人たちの表情が柔らかくなる。
◇◇◇
近くで聞いていたバルドが苦笑した。
◇◇◇
「相変わらずだな」
◇◇◇
功績を独り占めしない。
だから人が集まる。
だから仲間が増える。
◇◇◇
それは強さとは別の才能だった。
◇◇◇
その夜。
村では急遽宴が開かれることになった。
◇◇◇
オーク肉の炭火焼き。
野菜たっぷりのスープ。
焼きたてのパン。
果実酒。
◇◇◇
本来なら村に余裕などない。
それでも命を救われた感謝を伝えたかったのだろう。
◇◇◇
「おおおっ!」
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冒険者たちが歓声を上げる。
◇◇◇
先ほどまで死闘を繰り広げていたとは思えないほど賑やかだった。
◇◇◇
ビルセイヤも久しぶりに肩の力を抜く。
◇◇◇
戦いが終わった。
その実感がようやく湧いてきていた。
◇◇◇
「ビルセイヤさん」
◇◇◇
隣へセシリアが腰を下ろす。
◇◇◇
「なんだ?」
◇◇◇
「ありがとうございました」
◇◇◇
真剣な表情だった。
◇◇◇
「またそれか?」
◇◇◇
ビルセイヤが苦笑する。
◇◇◇
「だって……」
◇◇◇
セシリアは俯いた。
◇◇◇
オークロードとの戦い。
最後の攻防。
◇◇◇
もしビルセイヤが決断を誤っていたら。
もし誰かの動きが少しでも遅れていたら。
◇◇◇
自分たちは死んでいたかもしれない。
◇◇◇
「私は助けられてばかりです」
◇◇◇
小さな声だった。
◇◇◇
しかしビルセイヤは首を振る。
◇◇◇
「違う」
◇◇◇
「え?」
◇◇◇
「俺も何度も助けられている」
◇◇◇
事実だった。
◇◇◇
ゴブリンジェネラル戦。
オークロード戦。
◇◇◇
セシリアの剣がなければ。
エミリアの魔法がなければ。
◇◇◇
勝てなかった。
◇◇◇
「一人じゃ無理だった」
◇◇◇
その言葉にセシリアの頬が少し赤くなる。
◇◇◇
「そう……ですか」
◇◇◇
胸の奥が温かくなった。
◇◇◇
エミリアはそんな二人を見ながら微笑む。
◇◇◇
(順調ですね)
◇◇◇
本人たちは気付いていない。
少なくともビルセイヤは。
◇◇◇
翌朝。
◇◇◇
三人はシーサスへ帰還した。
◇◇◇
街へ入った瞬間、周囲がざわつく。
◇◇◇
「帰ってきたぞ!」
「オークロードを倒したらしい!」
「本当か!?」
◇◇◇
噂は既に広がっていた。
◇◇◇
冒険者ギルドへ到着するとさらに騒ぎになる。
◇◇◇
「今度はオークロードか……」
「本当に新人か?」
「俺より活躍してるぞ……」
◇◇◇
羨望と驚きの視線が集まる。
◇◇◇
ビルセイヤは少し遠い目になった。
◇◇◇
「静かに鍛冶をしたいんだが」
◇◇◇
「無理ですね」
セシリアが即答する。
◇◇◇
「諦めてください」
エミリアも笑顔で追撃した。
◇◇◇
ギルドマスター室。
◇◇◇
報告書を読み終えたバルドは大きく息を吐いた。
◇◇◇
「本当にやりやがったか……」
◇◇◇
ゴブリンジェネラル。
オークロード。
◇◇◇
普通ならベテランパーティーが挑む相手だ。
新人が短期間で討伐するような魔物ではない。
◇◇◇
「お前たちのランクを上げる」
◇◇◇
三人が顔を上げる。
◇◇◇
「本来なら時間を掛ける」
「だが今回は例外だ」
◇◇◇
バルドは真剣な顔で言った。
◇◇◇
「ビルセイヤ」
「セシリア」
「エミリア」
◇◇◇
「今日からEランク冒険者だ」
◇◇◇
三人は顔を見合わせた。
◇◇◇
冒険者として認められた瞬間だった。
◇◇◇
だが。
◇◇◇
コンコン。
◇◇◇
部屋の扉が叩かれる。
◇◇◇
「入れ」
◇◇◇
扉が開いた。
◇◇◇
入ってきたのは見知らぬ男だった。
◇◇◇
上質な服。
磨き上げられた革靴。
腰には高級そうな剣。
◇◇◇
一目で分かる。
◇◇◇
貴族関係者だ。
◇◇◇
「失礼いたします」
◇◇◇
男は丁寧に一礼した。
◇◇◇
「王都アルティアより参りました」
◇◇◇
その言葉に部屋の空気が変わる。
◇◇◇
「王都だと?」
バルドが眉を上げた。
◇◇◇
男は静かに頷く。
◇◇◇
「ビルセイヤ殿へ依頼があります」
◇◇◇
全員の視線が集まる。
◇◇◇
ビルセイヤは首を傾げた。
◇◇◇
王都から自分へ?
◇◇◇
まったく心当たりがない。
◇◇◇
しかし。
◇◇◇
この依頼こそが。
◇◇◇
彼の人生を大きく変える転機となる。
◇◇◇
一方その頃――。
◇◇◇
王都アルティア。
◇◇◇
「来ますわね!」
◇◇◇
第二王女アイリスが満面の笑みを浮かべていた。
◇◇◇
「絶対に来ますわ!」
◇◇◇
なぜか確信に満ちている。
◇◇◇
その隣では専属侍女のマリアが静かに頭を抱えていた。
◇◇◇
「まだ決まっておりませんが……」
◇◇◇
恋する王女は今日も絶好調だった。
◇◇◇
そして運命の歯車は、少しずつ回り始める。
第一章 第三十二話
「勝利の夜と新たな依頼」
――続く。




