第四話 ゴブリン討伐
「助けてくれぇぇぇっ!」
森の入口付近から響く悲鳴。
その声を聞いた瞬間、ビルセイヤは迷わず駆け出していた。
「ビルセイヤさん!」
セシリアも後を追う。
二人が現場へ辿り着くと、そこには一台の荷馬車と数人の商人たちがいた。
荷馬車は横転しかけている。
積み荷は散乱し、護衛らしき男たちが地面に倒れていた。
そして――。
「ギギギギ!」
「ギャギャッ!」
五匹のゴブリンが商人たちを取り囲んでいた。
手には粗末な棍棒や石斧。
今にも襲い掛かろうとしている。
「まずいですね……」
セシリアの表情が険しくなる。
昨日戦ったのは三匹。
今回は五匹だ。
数が違う。
だが。
ビルセイヤは一歩も退かなかった。
「助けられるか?」
「十分できます!」
「なら行くぞ!」
「はい!」
二人は同時に飛び出した。
◇◇◇
「ギャッ!?」
最初に反応したのはゴブリンの方だった。
突然現れた二人に驚き、動きが止まる。
その隙をビルセイヤは見逃さない。
地面を強く踏み込む。
剣道で何万回と繰り返した動作。
木の枝を握る手に力を込める。
「面ッ!!」
バキィッ!!
鋭い一撃がゴブリンの頭部を直撃した。
悲鳴を上げる間もなく吹き飛ぶ。
一匹目。
撃破。
「ギギギッ!」
残る四匹が一斉に襲い掛かってくる。
だが動きが単純だ。
剣道では相手の肩や腰の動きから攻撃を読む。
ゴブリンも同じだった。
棍棒を振り上げる。
振り下ろす。
それだけ。
半歩横へ。
回避。
返す一撃。
木の枝がゴブリンの側頭部を捉えた。
鈍い音と共に二匹目が倒れる。
◇◇◇
「はあっ!」
その横ではセシリアも戦っていた。
剣が閃く。
一匹の腕を切り裂き、返す刃で胸を貫く。
流れるような剣技。
迷いがない。
さすが冒険者だ。
三匹目が地面へ崩れ落ちた。
「やるな」
「ビルセイヤさんほどじゃありません!」
そう言いながら四匹目へ向かう。
その時だった。
最後のゴブリンが突然逃げ出した。
「ギャアアア!」
「逃げる!?」
セシリアが追い掛けようとする。
しかし。
ビルセイヤは違和感を覚えた。
森の奥。
何かいる。
そんな気がした。
「待て!」
「え?」
次の瞬間。
森の木々を押し退けるようにして現れた。
大柄なゴブリン。
普通のゴブリンより頭一つ大きい。
筋肉質な体。
錆びた剣。
そして獰猛な眼光。
「ゴブリンソルジャー!?」
セシリアが息を呑む。
「強いのか?」
「普通のゴブリンとは別格です!」
なるほど。
確かに強そうだった。
◇◇◇
「グルルルルル……」
ゴブリンソルジャーは唸り声を上げる。
その視線は真っ直ぐビルセイヤへ向けられていた。
そして。
地面を蹴る。
「速っ!」
一瞬で間合いを詰めてきた。
錆びた剣が振り下ろされる。
だが。
ビルセイヤは冷静だった。
肩を見る。
腰を見る。
重心を見る。
剣道で培った観察眼が相手の動きを捉える。
右肩が落ちる。
上段からの斬撃。
予測通りだった。
半歩だけ動く。
剣が空を切った。
「そこだ!」
踏み込み。
木の枝を全力で振り抜く。
ゴッ!!
顎へ直撃。
巨体が大きく仰け反った。
「グォッ!?」
しかし倒れない。
頑丈だ。
普通のゴブリンとは比べ物にならない。
だが。
ビルセイヤの闘志に火が付いた。
「だったら!」
さらに踏み込む。
二撃。
三撃。
四撃。
剣道で鍛え上げた連続打ち。
木の枝が次々と急所を打ち抜いていく。
そして最後。
「面ッ!!」
渾身の一撃。
ゴブリンソルジャーの額を捉えた。
巨体が大きく揺れる。
そのまま地面へ崩れ落ちた。
動かない。
完全に沈黙した。
◇◇◇
静寂。
戦場から音が消える。
やがて。
「助かったぁ……」
商人の一人が膝から崩れ落ちた。
それを合図にしたように歓声が上がる。
「ありがとう!」
「命の恩人だ!」
「本当に助かった!」
次々と感謝される。
ビルセイヤは少し照れ臭くなった。
「無事なら良かった」
そう答えると商人たちはさらに感激した顔になる。
どうやら異世界では英雄的な発言だったらしい。
◇◇◇
商人たちは礼として銀貨二枚を差し出した。
「受け取ってくれ」
「いいのか?」
「命に比べれば安いものだ」
断る理由はない。
ありがたく受け取る。
借金返済が少し近付いた。
「やりましたね」
セシリアが嬉しそうに言う。
「ああ」
ビルセイヤも頷く。
異世界へ来てまだ二日目。
それでも確かな実感があった。
自分はこの世界で生きていける。
その手応えだ。
◇◇◇
夕方。
二人はシーサスへ帰還した。
薬草十本を納品する。
報酬は銅板五枚。
さらに商人救出の件がギルドへ伝わっており、追加報酬として銀貨一枚が支払われた。
「登録二日目でゴブリンソルジャー討伐ですか……」
受付嬢が驚いた顔をする。
「珍しいのか?」
「かなりです」
断言された。
「普通のFランク冒険者ならまず逃げています」
そう言われても実感はない。
だが。
「だから言ったじゃないですか」
セシリアが誇らしげに笑う。
「ビルセイヤさんは強いって」
夕日に照らされたその笑顔は、とても綺麗だった。
そしてビルセイヤはまだ知らない。
この日の戦いが。
彼の冒険者人生における最初の武勇伝として語られることになるのを。
第一章 第三話
「ゴブリン討伐」
――続く。
初日分の投稿4話でした




