第二十九話 三人の連携
辺境の村の中央広場。
月明かりが、戦場を青白く照らしていた。
周囲では今も、冒険者たちとオークたちの激しい戦いが続いている。
剣戟の音。
怒号。
魔物の咆哮。
そして、負傷者たちの悲鳴。
だが――この場にいる誰もが理解していた。
この戦いの勝敗を決めるのは、一体の魔物だ。
オークロード。
群れを率いる王。
災害級の上位種。
あの存在を倒さなければ、この戦いは終わらない。
◇◇◇
「グルルルルル……」
オークロードが低く唸る。
赤く光る瞳が、ビルセイヤたちを睨みつけていた。
その威圧感は凄まじい。
普通の冒険者なら足が竦み、その場から動けなくなるだろう。
しかし、ビルセイヤは静かにロングソードを構えていた。
恐怖はある。
だが、支配されてはいない。
視線を逸らさない。
見ている。
呼吸。
重心。
筋肉の動き。
足運び。
視線の流れ。
剣術の理。
戦いとは、ただの力比べではない。
相手を知り。
自分を知り。
生き残るために最善を尽くすこと。
それが剣の本質だ。
◇◇◇
「セシリア」
「はい」
返事に迷いはない。
「右から回れ」
「了解です」
セシリアが即座に動き出す。
オークロードの側面へ向かって駆けた。
「エミリア」
「いつでもいけます」
後方では、エミリアがすでに魔力を練り上げている。
「俺が合図したら頼む」
「任せてください」
三人の呼吸が一致する。
もはや、細かな説明は必要ない。
ゴブリンジェネラルとの死闘。
数々の依頼。
幾度も共に戦ってきた時間。
信頼がある。
だからこそ、通じる。
「行くぞ!」
ビルセイヤが地面を蹴った。
同時に、セシリアも走る。
左右からの挟撃。
オークロードの視線が揺れる。
まず標的に選ばれたのは、ビルセイヤだった。
◇◇◇
巨大な戦斧が振り上げられる。
そして――。
ドゴォォォォン!!
大地が砕け散った。
土と石が吹き飛ぶ。
だが、当たらない。
ビルセイヤは紙一重で回避していた。
その瞬間。
「はあああっ!」
セシリアが飛び込む。
片手剣が閃いた。
狙うのは脇腹。
ザシュッ!
鮮血が飛び散る。
「グオッ!」
傷は浅い。
だが、確実に届いた。
オークロードが怒りの表情で振り向く。
しかし、その隙をビルセイヤは逃さない。
一気に踏み込む。
一閃。
狙うのは腕。
戦斧を握る右腕だった。
ザシュッ!
再び血が舞う。
「グオオオオオオッ!」
怒りの咆哮。
だが、二人は止まらない。
攻撃。
離脱。
攻撃。
離脱。
真正面から打ち合わない。
力では勝てない。
だから、技で戦う。
◇◇◇
その様子を見ていたバルドが、感心したように呟いた。
「なるほどな……」
ビルセイヤは、最初から理解している。
相手の土俵で戦えば負ける。
だから、相手の強みを潰す。
それこそが、戦いの理だった。
オークロードが再び戦斧を振るう。
今度は横薙ぎ。
空気を裂く轟音。
セシリアが飛び退く。
だが――避け切れない。
「しまっ――」
その時だった。
「今です!」
エミリアの声が響く。
「ウィンドバインド!」
風が渦を巻く。
オークロードの脚へ絡みついた。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
巨体の動きが止まった。
その隙を見逃すビルセイヤではない。
「はあああああっ!」
全力で踏み込む。
狙うのは首ではない。
脚だ。
体を支える要。
一閃。
ザシュッ!!
深く斬り裂く。
「グアアアアアアッ!」
オークロードが膝をついた。
初めてだった。
王が膝をつく。
周囲のオークたちが、明らかに動揺する。
「効いた!」
セシリアが叫ぶ。
だが、ビルセイヤの表情は険しいままだった。
終わっていない。
むしろ危険なのは、ここからだ。
オークロードの目に宿る闘志は消えていない。
それどころか――さらに強くなっている。
◇◇◇
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
怒りの咆哮。
その瞬間。
オークロードの身体から、赤黒い魔力が噴き出した。
「なっ!?」
エミリアの顔色が変わる。
「まさか……!」
長命なエルフだからこそ知っていた。
魔物が極限状態に追い込まれた時、稀に起こる現象。
「暴走です!」
理性と引き換えに、力を解放する危険な状態。
筋力。
速度。
生命力。
そのすべてが異常なまでに強化される。
オークロードの筋肉がさらに膨れ上がる。
赤い瞳が、妖しく輝いた。
戦斧から放たれる圧力も、明らかに増している。
ビルセイヤは静かに剣を握り直した。
ここからが本当の決着。
この戦い最大の山場だ。
オークロードが戦斧を構える。
ビルセイヤたちも構える。
夜風が吹き抜ける。
次の一撃が、勝敗を決める。
そう確信できるほどの緊張感が、戦場を支配していた。
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第一章 第二十九話
三人の連携
――続く。




