第二十七話 オーク襲来
夜の冒険者ギルド。
先ほどまで賑わっていた食堂兼酒場は、一瞬にして静まり返っていた。
オークの群れ。
辺境の村へ向かっている。
その報告は、あまりにも重かった。
◇◇◇
「オークが二十体以上だと……?」
ギルドマスターのバルドが険しい表情を浮かべる。
◇◇◇
オーク。
ゴブリンより遥かに危険な魔物。
成人男性を軽々と上回る筋力と体格を持ち、並の冒険者では一対一でも苦戦する。
そんな魔物が二十体以上。
村の自警団だけで対処できる相手ではない。
◇◇◇
「場所はどこだ?」
ビルセイヤが尋ねる。
◇◇◇
「東の辺境の村だ!」
報告に来た冒険者が叫ぶ。
「街道を進んで二時間ほどの場所だ!」
◇◇◇
ビルセイヤは眉をひそめた。
近い。
あまりにも近い。
◇◇◇
今すぐ動かなければ間に合わない可能性が高い。
◇◇◇
「緊急依頼だ!」
バルドが声を張り上げる。
◇◇◇
「戦える冒険者は全員出るぞ!」
◇◇◇
食堂にいた冒険者たちが次々に立ち上がった。
だが、その顔に余裕はない。
◇◇◇
オーク二十体以上。
命懸けの戦いになることは誰もが理解していた。
◇◇◇
「ビルセイヤ」
バルドが真剣な目で見つめる。
◇◇◇
「頼めるか?」
◇◇◇
その言葉の意味は分かっていた。
ゴブリンジェネラル討伐の英雄。
今やシーサスで最も注目される冒険者。
誰もが彼に期待している。
◇◇◇
しかしビルセイヤは静かに首を振った。
◇◇◇
「違う」
◇◇◇
周囲の視線が集まる。
◇◇◇
「俺たちだけじゃない」
◇◇◇
そしてギルド内を見渡した。
◇◇◇
「皆で守るんだ」
◇◇◇
静かな声だった。
だが不思議な力があった。
◇◇◇
冒険者たちの表情が変わる。
◇◇◇
「そうだな」
「俺たちの依頼だ」
「村を守るぞ!」
◇◇◇
士気が一気に高まる。
◇◇◇
バルドが満足そうに笑った。
◇◇◇
「よし!」
「全員出発だ!」
◇◇◇
その夜。
二十名近い冒険者たちがシーサスを飛び出した。
◇◇◇
月明かりだけが照らす街道。
夜風を切り裂くように駆ける。
◇◇◇
先頭を走るのはビルセイヤたち三人だった。
◇◇◇
「間に合うでしょうか……」
セシリアが不安そうに呟く。
◇◇◇
「間に合わせる」
ビルセイヤは短く答えた。
◇◇◇
その瞳に迷いはない。
◇◇◇
守る。
それだけを考えていた。
◇◇◇
やがて一時間ほど走った頃だった。
◇◇◇
風に乗って聞こえてくる。
◇◇◇
悲鳴。
◇◇◇
そして怒号。
◇◇◇
「まずい!」
◇◇◇
三人はさらに速度を上げた。
◇◇◇
森を抜ける。
視界が開ける。
◇◇◇
そして見えた。
◇◇◇
辺境の村。
◇◇◇
木製の柵に囲まれた小さな集落。
その入口で戦いが始まっていた。
◇◇◇
「グオオオオオオ!」
◇◇◇
オーク。
◇◇◇
二メートル近い巨体。
異様に発達した筋肉。
粗末だが巨大な斧や棍棒。
◇◇◇
まるで暴力そのものだった。
◇◇◇
村人たちは必死に抵抗している。
槍を持つ者。
弓を持つ者。
鍬や斧を武器にしている者までいた。
◇◇◇
だが押されている。
◇◇◇
数が違う。
力が違う。
◇◇◇
このままでは村が壊滅する。
◇◇◇
「間に合った!」
セシリアが剣を抜いた。
◇◇◇
「行くぞ!」
◇◇◇
ビルセイヤは地面を蹴る。
◇◇◇
一気に加速した。
◇◇◇
オークが村人へ斧を振り上げる。
絶望したような表情の老人。
◇◇◇
その瞬間――
◇◇◇
ギィィィィン!!
◇◇◇
激しい金属音が響いた。
◇◇◇
「なっ!?」
◇◇◇
オークが目を見開く。
◇◇◇
ビルセイヤだった。
ロングソードで巨大な斧を受け止めている。
◇◇◇
「下がれ!」
◇◇◇
老人を庇うように前へ出る。
◇◇◇
そして。
剣が閃いた。
◇◇◇
一閃。
◇◇◇
オークの胸を深々と斬り裂く。
◇◇◇
「グガァァァァ!」
◇◇◇
巨体が地面へ崩れ落ちた。
◇◇◇
しかし。
終わりではない。
◇◇◇
周囲にはまだ無数のオークがいる。
◇◇◇
「風よ!」
エミリアが詠唱する。
◇◇◇
「ウィンドカッター!」
◇◇◇
風の刃が夜空を駆ける。
オークの腕を切り裂き、武器を吹き飛ばした。
◇◇◇
「はあああっ!」
◇◇◇
セシリアも突撃する。
◇◇◇
片手剣が閃く。
狙うのは脚。
◇◇◇
オークの膝が崩れる。
◇◇◇
そこへ追撃。
◇◇◇
一気に首筋へ剣を振り抜いた。
◇◇◇
ドサリ。
◇◇◇
巨体が倒れる。
◇◇◇
だが。
ビルセイヤは違和感を覚えていた。
◇◇◇
「おかしい……」
◇◇◇
オークたちの動き。
◇◇◇
ただ暴れているだけではない。
◇◇◇
統率されている。
◇◇◇
隊列。
連携。
攻撃のタイミング。
◇◇◇
まるで誰かが指揮しているかのようだった。
◇◇◇
そして。
その予感は的中する。
◇◇◇
村の中央広場。
◇◇◇
月明かりに照らされた巨大な影。
◇◇◇
普通のオークではない。
◇◇◇
三メートル近い巨体。
岩のような筋肉。
全身を覆う傷跡。
そして巨大な戦斧。
◇◇◇
それはまるで戦場の王だった。
◇◇◇
「そんな……」
エミリアが息を呑む。
◇◇◇
セシリアの表情も固まった。
◇◇◇
ビルセイヤはその姿から目を離せない。
◇◇◇
覚えがあった。
◇◇◇
ゴブリンジェネラル。
あの時と同じだ。
◇◇◇
種族は違う。
だが放つ威圧感は同格。
◇◇◇
災害級。
◇◇◇
そう呼ぶべき存在だった。
◇◇◇
巨大な魔物がゆっくりと戦斧を持ち上げる。
◇◇◇
赤い瞳がビルセイヤを見据えた。
◇◇◇
そして――
◇◇◇
「グオオオオオオオオオッ!!」
◇◇◇
咆哮が夜空を震わせる。
◇◇◇
オークたちが歓声を上げた。
まるで王の降臨を祝うように。
◇◇◇
ビルセイヤは剣を握り直す。
◇◇◇
「オークロード……」
◇◇◇
群れを率いる王。
災害級魔物。
◇◇◇
新たな強敵との戦いが、今始まろうとしていた。
第一章 第二十八話
「オーク襲来」
――続く。




