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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第二百十二話 地霊樹へ――大地を駆ける守護者

 ――パキッ。


 神代から続いていた封印に、最初の亀裂が走った。


 その音を、ビルセイヤたちが直接聞いたわけではない。


 それでも――分かった。


 大地そのものが悲鳴を上げたからだ。


 ――ドクンッ!!


「っ……!」


 足元から突き上げるような衝撃。


 ビルセイヤは咄嗟に腰を落とし、体勢を保った。


「きゃっ!」


「リシア!」


 セシリアがリシアを抱き寄せる。


 エミリアは近くの岩へ手をつき、ツバサも剣を地面へ突き立てて揺れに耐える。


「なんだよ、これ……!」


 先ほどまでとは比較にならない。


 山そのものが揺れている。


 いや――。


「違います!」


 フィリアが叫んだ。


 地脈探知杖を握る彼女の表情は青ざめている。


「山だけではありません!」


「地脈全体が震えています!」


「地脈が?」


「はい!」


 杖の先端。


 本来なら琥珀色に輝く宝石が、黒と金の間を激しく明滅していた。


「地霊樹から流れてくる大地の魔力と、黒い穢れがぶつかっています!」


「このままでは……!」


 フィリアが言葉を失う。


 その続きを口にしたのは、ガイアロードだった。


『地脈ガ……壊レル』


 解放された山の王が、ゆっくりと立ち上がる。


 その巨大な身体から岩や土が落ちた。


 先ほどまで身体中を覆っていた黒い筋は消えている。


 瞳にも、穏やかな琥珀色の光が戻っていた。


 だが、その表情には明確な焦りがある。


『急ゲ』


『地母ノ命ガ……消エル前ニ』


「地母……」


 ビルセイヤはガイアロードを見上げる。


「地霊樹のことか?」


『ソウダ』


 巨大な頭が静かに頷いた。


『地霊樹ハ、我ラ大地ニ生キル精霊ノ母』


『山ヲ支エ』


『森ヲ育テ』


『川ヲ生ミ』


『地ニ命ヲ巡ラセル』


 エミリアの側にいた小さな土精霊も、悲しそうに俯く。


『地母様……ずっと、いたいって言ってる』


「……」


 ビルセイヤは拳を握った。


 まただ。


 蒼天霊樹の時と同じ。


 本来なら世界を支え、命を育む存在が、何者かの欲望によって苦しめられている。


「蛇の牙……」


 ツバサが低く呟いた。


「本当にどこまでやれば気が済むんだ」


 怒りが滲んでいた。


 だが。


「ツバサ」


 ビルセイヤが静かに呼びかける。


「分かってる」


 ツバサは一度目を閉じた。


 そして息を吐く。


「怒りだけで剣を振るうな、だろ?」


「ああ」


「分かってるよ」


 ツバサは剣を鞘へ戻した。


「今は地霊樹を助ける方が先だ」


 ビルセイヤは頷いた。


「行こう」


 だが――。


「待ってください」


 フィリアだった。


「地霊樹まで、まだかなり距離があります」


 地脈探知杖を地面へ向ける。


 琥珀色の光が北西へ伸びた。


「通常の速度なら、ここから半日はかかります」


「半日……」


 セシリアが顔を曇らせる。


「それじゃ間に合わないかもしれない」


「はい」


 しかも。


 ドォォン……!


 遠方で爆発のような音が響いた。


 山の一角から黒煙が上がる。


 続いて地面に亀裂が走った。


「街道も崩れ始めています」


 エミリアが周囲を見る。


「普通に進むのは危険です」


「くそ……!」


 ツバサが歯噛みする。


 時間がない。


 だが道もない。


 その時だった。


『乗レ』


「……え?」


 全員がガイアロードを見る。


 巨大な山の王が、ゆっくり身体を伏せた。


『我ガ運ブ』


「ガイアロードが?」


『地母ハ、我ガ守ルベキ存在』


『ソシテ』


 琥珀色の瞳がビルセイヤを見る。


『オ前タチハ、我ヲ救ッタ』


『今度ハ我ガ、オ前タチヲ助ケル』


 ビルセイヤは少しだけ目を見開き――。


 やがて笑った。


「ありがとう」


 ◇◇◇


「た、高い……!」


 リシアが恐る恐る下を見る。


 ガイアロードの背中。


 そこはもはや背中というより、小さな丘だった。


 土があり。


 岩があり。


 さらには木まで生えている。


「まさか魔物の背中に乗って移動することになるとはな」


 ツバサが感心したように周囲を見回す。


「魔物じゃありませんよ」


 エミリアが訂正する。


「大地の守護獣です」


「ああ、そうだった」


「ガイアロード様に失礼ですよ?」


『構ワヌ』


 地響きのような声が返ってくる。


『我ヲ魔物ト呼ブ人間モ多イ』


「本人が気にしてないみたいね」


 セシリアが苦笑する。


 ビルセイヤはガイアロードの背中から前方を見た。


 遠くに見える巨大な山。


 その周囲には黒い雲のような穢れが渦巻いている。


「あそこか」


『ソウダ』


『地霊樹ハ、アノ山ノ内側ニアル』


「内側?」


 フィリアが反応した。


『古キ時代』


『地母ハ大地ヲ守ルタメ、自ラ山ヲ作ッタ』


『ソノ中心ニ、地霊樹ガアル』


「山そのものが神殿……」


 エミリアが呟く。


『神殿デハナイ』


 ガイアロードが答える。


『墓デモアル』


「……墓?」


 空気が変わった。


 ビルセイヤの表情が険しくなる。


「それが、さっき言っていた封印と関係しているのか?」


 ガイアロードはしばらく答えなかった。


 やがて。


『ソウダ』


 低い声が響く。


『神代ノ戦イ』


『地霊樹ハ、一柱ノ荒神ヲ封ジタ』


「荒神……」


 フィリアの顔色が変わった。


「まさか……」


 彼女には思い当たるものがあるらしい。


「知っているのか?」


「伝承だけです」


 フィリアは慎重に答えた。


「神代には、人や魔物だけでなく、神々同士の争いもあったとされています」


「その中には世界を守ろうとした神々もいれば……」


「力に呑まれ、災厄となった神もいた、と」


 ビルセイヤの脳裏に、一つの存在が浮かんだ。


「ヴァルグラム……」


 かつて出会った炎神。


 神と呼ばれる存在が実在することを、彼らはすでに知っている。


「地霊樹の下に眠っているのも、神なのか?」


『カツテハ』


 ガイアロードが答える。


『今ハ違ウ』


『アレハ己ノ名モ、理性モ失ッタ』


『タダ破壊ヲ求メルモノ』


『故ニ――』


 その声が重くなる。


『我ラハ《崩山神》ト呼ンダ』


「崩山神……」


 リシアが小さく呟く。


 名前だけで嫌な予感がする。


『奴ガ完全ニ目覚メレバ』


『ガイア山脈ハ崩レル』


『ソノ先ノ平原モ』


『村モ』


『街モ』


『全テ、大地ニ呑マレル』


「……!」


 セシリアが息を呑む。


「だから蛇の牙は封印を……」


「壊そうとしている」


 ビルセイヤが続けた。


 四霊樹の力を狙うだけではない。


 そこに封じられた災厄までも利用しようとしている。


 もし他の霊樹にも同じような何かが封印されているなら――。


 四霊樹を巡る異変は、想像以上に危険なものだった。


「急ごう」


 ビルセイヤが言う。


『掴マレ』


「え?」


 ガイアロードの声。


『走ル』


「ちょっと待――」


 ツバサが言い終わる前に。


 ――ドンッ!!


「うおおおおおお!?」


 ガイアロードが走り出した。


 巨体からは想像もできない速度だった。


 一歩踏み出すたびに数十メートルを進む。


 岩場を越え。


 崖を飛び。


 谷を跨ぐ。


「速い速い速い!」


 ツバサが木へ必死にしがみつく。


「ツバサ! 落ちるわよ!」


「分かってる!」


「リシア、大丈夫!?」


「た、楽しいです!」


「楽しいの!?」


 セシリアが驚く。


「わあああ!」


 リシアはすっかり目を輝かせていた。


 エミリアも木へ掴まりながら苦笑する。


「子どもは強いですね……」


 そんな仲間たちを見て。


 ビルセイヤは思わず笑った。


 こんな状況でも。


 仲間がいる。


 それだけで、不思議と心は軽かった。


 ◇◇◇


 やがて。


『見エタ』


 ガイアロードが速度を落とした。


 ビルセイヤたちは前方を見る。


「……あれが」


 誰もが言葉を失った。


 巨大な山。


 その中央。


 まるで山を内側から突き破るように――。


 一本の大樹がそびえていた。


 幹だけでも城より太い。


 枝は山肌を突き抜け。


 黄金色の葉が本来なら空を覆っていたのだろう。


 しかし。


 今は。


 半分以上が――黒く染まっている。


「地霊樹……」


 フィリアが震える声で呟く。


 蒼天霊樹とは異なる。


 圧倒的な重厚感。


 そこに存在するだけで、大地そのものに抱かれているような安心感を与えるはずの神木。


 だが今は。


 苦しんでいる。


 巨大な根には黒い杭が何本も打ち込まれ。


 そこから穢れが流れ込んでいた。


 そして。


 根元。


「人がいる」


 ツバサが目を細める。


 黒衣の者たち。


 十人。


 二十人。


 いや、それ以上。


 蛇を象った紋章。


「蛇の牙……!」


 セシリアが盾へ手を伸ばす。


 その中心には一人の男。


 他の者とは明らかに違う。


 長い黒衣。


 銀色の仮面。


 手には黒い杖。


 男の足元には巨大な魔法陣が描かれていた。


 そして魔法陣の中央。


 地面には――。


 大きな亀裂。


 そこから。


 ドクン。


 赤黒い光が漏れ出している。


「遅かったか……?」


 ツバサが呟く。


「いや」


 ビルセイヤは白枝へ手を添えた。


「まだだ」


 完全には壊れていない。


 なら。


「間に合わせる」


 その時。


 銀仮面の男がゆっくり顔を上げた。


 遠く離れているにもかかわらず。


 まるで最初からビルセイヤたちが来ることを知っていたかのように。


「ようやく来たか」


 男の声が魔法によって響き渡る。


「飛天御剣流継承者――ビルセイヤ」


「……また俺をご指名か」


 ビルセイヤが苦笑する。


「有名人は大変ね」


 セシリアが冗談めかして言う。


「嬉しくない有名税だな」


 ツバサも剣を抜く。


 銀仮面の男は両腕を広げた。


「歓迎しよう」


「我が名は――《蛇の牙》地脈侵攻部隊長、グラド」


 黒い杖が地面へ突き立てられる。


「そして見届けるがいい」


「神代の守護者たちが命を賭して封じた――」


 魔法陣が輝く。


「《崩山神》復活の瞬間を!」


 ――パキィィィン!!


「!」


 第二の亀裂。


 地面が大きく割れた。


 赤黒い光が天へ噴き上がる。


 地霊樹が激しく揺れた。


『オォォォォォォォォ……』


 地底から。


 何かの声が響く。


 それは獣でも。


 人でも。


 精霊でもない。


 遥かな神代から眠り続けていた――災厄の声。


 ビルセイヤは白枝を抜き放った。


「みんな」


 セシリアが盾を構える。


 エミリアが弓を引く。


 ツバサが剣を抜く。


 フィリアの周囲へ氷と風が集まる。


 ガイアロードが大地を踏み締める。


 リシアと小さな土精霊は、その後方へ。


「地霊樹を救う」


 ビルセイヤは銀仮面の男を見据えた。


「そして――」


 地底から響く声へ視線を落とす。


「できることなら、あの神も」


 ツバサが驚いたように横を見る。


「……神まで救う気か?」


「まだ敵だと決まったわけじゃない」


「いや、崩山神って名前なんだけどな?」


「名前だけで決めるのは良くないだろ」


「お前、本当に変わらないな」


 ツバサは呆れ。


 そして笑った。


「だから付き合い甲斐がある」


 ビルセイヤも笑う。


 命を奪う剣ではなく。


 命を救う剣。


 たとえ相手が――神であろうとも。


 その信念だけは変わらない。


 こうして。


 四霊樹、その二本目。


 地霊樹を巡る戦いは――。


 ついに最終局面へ突入した。

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