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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第二百九話 狂える山の王

 小さな土精霊に導かれ、ビルセイヤたちは神代の道をさらに北西へ進んでいた。


『こっち……』


 ふわふわと宙を漂う土精霊が、短い腕を伸ばす。


 その先には、巨大な岩壁。


「……行き止まり?」


 セシリアが首を傾げる。


「いや」


 ビルセイヤは岩壁へ近づいた。


 目を凝らしてみれば、表面には薄く古代文字が刻まれている。


 そしてフィリアが持つ《地脈探知杖》も、先ほどから強い光を放っていた。


「ここにも結界があります」


 フィリアが杖を掲げる。


「地脈と連動しているようですね」


 すると小さな土精霊が岩壁へ近づき、ぺたりと両手を触れた。


『おねがい……』


 ゴゴゴゴゴ……。


「動いた!」


 ツバサが驚く。


 巨大な岩壁が左右へ割れていく。


 その向こうに現れたのは――巨大な峡谷だった。


 ◇◇◇


「これは……」


 ビルセイヤは思わず息を呑んだ。


 峡谷の底を、黄金色の光が川のように流れている。


 水ではない。


「地脈です」


 フィリアが呟いた。


「地中を流れていた魔力が、地表へ露出しているんです」


 黄金の流れから、小さな光が舞い上がっている。


 岩肌には見たこともない鉱石が無数に輝き、ところどころから巨大な結晶柱が伸びていた。


「綺麗……」


 リシアが目を輝かせる。


 だが。


 エミリアだけは険しい表情を浮かべていた。


「……全部が綺麗なわけではありません」


 彼女が指差す。


 黄金色の地脈。


 その一部が――黒い。


「また穢れか」


 ツバサの表情から笑みが消える。


 黒い筋は地脈へ食い込み、まるで血管を侵食する毒のように広がっていた。


 フィリアがしゃがみ込み、地面へ手を触れる。


「かなり深刻です」


「蒼天霊樹の時よりも?」


 セシリアが尋ねる。


「……おそらく」


 フィリアは苦い表情を浮かべる。


「風は常に動きます。だから穢れが一ヶ所に留まりにくかった」


「ですが、大地は違います」


「地脈へ入り込んだ穢れは、その場所に蓄積し続ける」


 ビルセイヤが黒く染まった流れを見る。


「つまり、放っておけば……」


「地霊樹だけではありません」


 フィリアは立ち上がった。


「この地脈に繋がる土地すべてが死にます」


 空気が重くなった。


 畑。


 森。


 川。


 村。


 町。


 そこに暮らす人々。


 大地が死ぬということは、それら全てが失われるということだった。


『地母様……いたいって』


 土精霊が悲しそうに呟く。


 ビルセイヤは拳を握る。


「急ごう」


 ◇◇◇


 峡谷を進むにつれて、異変はさらに酷くなっていった。


 枯れた草木。


 砕けた岩。


 地面には巨大な足跡が残っている。


「……これ」


 セシリアが足跡の横へ立つ。


 一つの足跡だけで、彼女の身体がすっぽり入ってしまいそうな大きさだった。


「山の王か」


 ツバサが呟く。


『うん……』


 土精霊が震える。


『ガイアロード様……』


『ほんとは、やさしい』


『ずっと……みんな守ってた』


 エミリアが精霊へ視線を向ける。


「どんな方なのですか?」


『山が崩れたら……なおす』


『川がなくなったら……つくる』


『森が病気になったら……大地の力、わける』


 リシアが悲しそうに眉を下げた。


「そんな優しい子が……」


『でも……』


 土精霊が震える。


『黒いの、刺された』


 ビルセイヤの足が止まる。


「刺された?」


『背中』


『黒い石……いっぱい』


 全員の表情が変わった。


 先ほど救った岩の精霊。


 その胸にも黒い結晶が埋め込まれていた。


「同じ方法か」


 ビルセイヤが呟く。


「黒い結晶で精霊や守護獣を操っている」


「おそらく」


 フィリアが頷く。


「ですが、ガイアロードほどの存在を操るなら、一つや二つでは足りないでしょう」


 土精霊の話と一致する。


 背中に、いっぱい。


 ならば――。


「全部壊せばいい」


 ツバサが剣の柄を叩いた。


「簡単に言うわね」


 セシリアが苦笑する。


「相手は山みたいな大きさなのよ?」


「だから面白いんだろ?」


「遊びじゃないの!」


「分かってるって」


 いつものやり取り。


 だが、そのおかげで張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。


 ビルセイヤも小さく笑う。


「ツバサの言う通りだ」


「え?」


 セシリアが振り返る。


「黒い結晶が原因なら、全部壊す」


「ただし――」


 ビルセイヤは白枝へ手を添えた。


「ガイアロード自身には、可能な限り傷をつけない」


 セシリアが微笑む。


「やっぱりそうなるわよね」


「当然だ」


 命を奪う剣ではない。


 命を救う剣。


 それが今のビルセイヤの答えだった。


 その時。


 ――ズン。


 大地が揺れた。


「……来ます!」


 フィリアが叫ぶ。


 ――ズン。


 もう一度。


 先ほどより大きい。


 岩壁から小石が落ち始める。


 ――ズン!


「この揺れ……地震じゃない!」


 セシリアが盾を構える。


 規則的だ。


 一定の間隔で近づいてくる。


「足音……」


 エミリアの顔から血の気が引く。


 ズン!


 ズン!


 ズン!


 小さな土精霊がビルセイヤの肩の後ろへ隠れた。


『ガイアロード様……』


 峡谷の奥。


 土煙が立ち上る。


 巨大な影が、その向こうからゆっくり姿を現した。


「……冗談だろ」


 ツバサが呟いた。


 巨大。


 その一言では足りない。


 四本の脚は巨大な岩柱。


 背中には土と岩が積み重なり、そこには本物の木々さえ生えている。


 頭部から伸びる二本の角は、山頂の岩峰を思わせた。


 まさに――。


「山が……歩いてる」


 リシアが震える。


 ガドルから聞いた《山の王》。


 大地の守護獣。


 ――ガイアロード。


 だが、その姿は伝承に語られる神聖な守護者とは程遠かった。


 背中。


 首。


 脚。


 無数の黒い結晶が突き刺さっている。


 そこから黒い霧が絶え間なく流れ出していた。


『グ……ォォォォ……!』


 ガイアロードが苦しげに頭を振る。


 そして。


 その瞳が開いた。


 赤黒い光。


 完全に正気を失っている。


『ニ……ゲ……ロ……』


「……!」


 ビルセイヤが目を見開いた。


 聞こえた。


 確かに。


『ニゲ……ロ……』


『ワレ……ガ……』


『コワ……ス……マエ……ニ……』


 自我が残っている。


 操られながら。


 苦しみながら。


 それでも――。


 自分が人を傷つけることを恐れている。


「……優しい奴じゃないか」


 ビルセイヤは静かに呟いた。


「ビルセイヤ?」


「こんな状態でも俺たちを逃がそうとしてる」


 白枝を抜く。


 だが、その刃をガイアロード自身へ向けることはなかった。


「なら、なおさら放っておけない」


 セシリアが盾を構える。


「もちろん」


 エミリアが弓へ矢をつがえる。


「精霊さんたちを助けます」


 フィリアの周囲に蒼白い魔力が集まる。


「黒い結晶だけを狙いましょう」


 ツバサが剣を抜いた。


「山を相手に剣を振るう日が来るとは思わなかったな」


 リシアも後方へ下がる。


「皆さん……気をつけて!」


 ビルセイヤは一歩前へ出た。


 目の前には山そのものに等しい巨体。


 普通なら戦うことすら考えない相手。


 だが。


 倒す必要はない。


 救えばいい。


「ガイアロード!」


 ビルセイヤは叫んだ。


 赤黒い瞳が彼を見る。


「聞こえているか!」


『……』


「少しだけ耐えてくれ」


 白枝を正眼に構える。


「俺たちが――」


 地面を蹴る。


「お前を助ける!」


『グォォォォォォォォ!!』


 山の王の咆哮が、ガイア山脈全体を震わせた。


 巨大な前脚が持ち上がる。


 ビルセイヤは真正面から駆ける。


 命を奪うためではない。


 命を救うために。


 今――。


 飛天御剣流と神代の守護獣との戦いが始まった。

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