第百九十七話 穢れの核
ドクン――。
ドクン――。
霊樹の根元で脈打つ漆黒の核。
その鼓動に合わせるように、黒い蔦が次々と地面を這い、蒼天霊樹を締め上げていく。
枝が苦しげに軋み、舞い散る蒼い葉は以前よりも勢いを失っていた。
「急がないと……。」
フィリアが唇を噛む。
「霊樹が耐えられません。」
◇◇◇
ビルセイヤは静かに周囲を見渡した。
黒い蔦は無数にある。
しかし、その動きはすべて核の鼓動と完全に一致していた。
「やっぱりそうか。」
「何か分かったの?」
セシリアが尋ねる。
「あの核が本体だ。」
「蔦をいくら斬っても再生する。」
「核を浄化しなければ終わらない。」
ヴァルグラムが力強く頷いた。
『その通りだ。』
『見極めたな。』
◇◇◇
「ですが!」
エアリスが焦った声を上げる。
「あの核へ近付くには、霊樹を縛る蔦を突破しなければなりません!」
まるで巨大な要塞だった。
何重もの黒い蔦が壁となり、中心部への道を塞いでいる。
エミリアが魔力を探る。
「全部で三十本以上……。」
「しかも一本一本が上級魔物並みの魔力を持っています。」
◇◇◇
その時。
氷牙熊が低く唸った。
「グオオオッ!」
巨大な身体で蔦の群れへ突進する。
ドォォン!
数本の蔦が弾き飛ばされる。
「守護獣!」
ツバサが叫ぶ。
氷牙熊は霊樹を守ろうと、必死に戦い始めた。
しかし。
ブシュッ!
一本の蔦が氷牙熊の肩へ巻き付き、黒い棘を突き立てる。
「グアアアッ!」
苦しそうな咆哮が響いた。
◇◇◇
「フィリア!」
ビルセイヤが叫ぶ。
「お願いします!」
フィリアはすぐに杖を掲げる。
「《ハイヒール》!」
聖なる光が氷牙熊を包み込む。
傷は癒える。
しかし、蔦は次々と再生し、再び襲い掛かる。
「きりがありません!」
エミリアが歯を食いしばった。
◇◇◇
その時だった。
風が吹く。
サァァァ……。
蒼天霊樹の枝が静かに揺れ、一枚、また一枚と蒼い葉が舞い降りる。
その葉はビルセイヤたちの周囲を巡り、一本の道を描くように飛んでいった。
「これは……。」
エアリスが目を見開く。
「霊樹が。」
「道を示しています。」
◇◇◇
蒼い葉が止まった先。
蔦の壁に、小さな隙間があった。
人が一人、ようやく通れるほどの細い道。
「行ける!」
セシリアが叫ぶ。
しかし、その瞬間。
ズズズズズ……。
黒い蔦が気付き、隙間を塞ごうと動き始める。
◇◇◇
「私たちで止めます!」
セシリアが盾を構える。
「エミリア!」
「はい!」
「《ウィンドランス》!」
鋭い風の槍が蔦を貫く。
ツバサも一気に踏み込んだ。
「はあああっ!」
鋭い剣閃が蔦を押し返す。
フィリアは後方から聖魔法を放ち続ける。
「《ホーリーレイ》!」
眩い光が蔦の再生を一時的に止めた。
◇◇◇
「ビルセイヤ!」
ヴァルグラムの声が響く。
『今しかない!』
『核へ行け!』
ビルセイヤは静かに頷く。
「ああ。」
仲間たちが作った一瞬の道。
それを無駄にはしない。
白枝を握り締め、一気に駆け出した。
◇◇◇
風を切る。
雪を蹴る。
黒い蔦が左右から迫る。
しかし。
飛天御剣流の歩法で紙一重にかわしながら、一直線に進む。
「速い!」
リシアが思わず叫ぶ。
その姿はまるで風そのものだった。
◇◇◇
あと十歩。
あと五歩。
ついに漆黒の核が目の前へ迫る。
核は生き物のように脈打ち、禍々しい魔力を放っていた。
その中心には――。
「……!」
ビルセイヤの瞳が見開かれる。
核の中に。
一人の黒衣の男の姿が映っていた。
蛇の牙の仮面を着けた男が、不気味な笑みを浮かべている。
「ここまで来たか。」
低い声が響く。
「世界樹の継承者。」
「そして……。」
「アークレイドの後継者よ。」
その声は、核の中から確かに聞こえてきた。
ついに穢れの元凶が、その姿を現そうとしていた。
――続く。




