表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/154

第二十四話 たたら炉への挑戦

 ゴブリンジェネラル討伐から三日後。


 シーサスの街は以前にも増して活気に満ちていた。


 東のフォレスト草原に巣食っていたゴブリンの群れが壊滅したことで、周辺の村々にも平穏が戻ったのだ。


 商人たちは安心して街道を利用できるようになり、辺境の村からは感謝の品まで届いている。


◇◇◇


 そして当然のように――


 討伐を成し遂げた三人組の噂は街中へ広まっていた。


◇◇◇


「見ろよ」


「あれがビルセイヤだ」


「ゴブリンジェネラルを倒したっていう?」


「新人冒険者らしいぞ」


◇◇◇


 街を歩くだけで視線を感じる。


 尊敬。


 驚き。


 好奇心。


 様々な感情が混ざった視線だった。


◇◇◇


 だが当の本人は全く気にしていない。


 ビルセイヤの頭の中は別のことでいっぱいだった。


◇◇◇


「砂鉄は十分か……」


 宿の部屋で袋の中身を確認する。


 海辺で採取した砂鉄。


 川辺で見つけた砂鉄。


 少しずつ集めてきた黒い砂。


◇◇◇


 量としては決して多くない。


 だが試験的に玉鋼を作るには十分な量になっていた。


◇◇◇


 問題は次の段階だ。


 炉。


 たたら炉である。


◇◇◇


「だから作りたいんだ」


 翌日。


 ビルセイヤは鍛冶師ギルドで説明していた。


◇◇◇


「たたら炉?」


 ガルドが首を傾げる。


 周囲の鍛冶師たちも不思議そうな顔をしていた。


 当然だろう。


 誰も聞いたことがない名前なのだから。


◇◇◇


「普通の炉じゃ駄目なのか?」


 ガルドが尋ねる。


 ビルセイヤは首を横に振った。


「駄目だ」


 その答えに迷いはない。


◇◇◇


「必要なのは鉄じゃない」


「玉鋼だ」


◇◇◇


 再び沈黙が訪れる。


 玉鋼という単語もまた聞き慣れないものだった。


◇◇◇


「鋼とは違うのか?」


「違う」


「どう違う?」


◇◇◇


 ビルセイヤは少し考えた。


 前世なら説明は簡単だ。


 しかしこの世界には概念そのものが存在していない。


◇◇◇


「最高品質の鋼だと思ってくれ」


◇◇◇


 周囲の鍛冶師たちがざわつく。


◇◇◇


「最高品質?」


「そんな金属聞いたことねぇぞ」


「本当に存在するのか?」


◇◇◇


 疑われるのは当然だった。


 だがビルセイヤは確信している。


 前世で学んだ知識。


 そして古代鍛冶師録に記された技術。


 どちらも間違ってはいない。


◇◇◇


「まずは作ってみる」


 百の説明より一つの成果。


 職人の世界ではそれが全てだった。


◇◇◇


 その日の午後。


 鍛冶師ギルド裏の空き地。


◇◇◇


 ビルセイヤは地面へ設計図を書いていた。


 長方形の炉。


 送風口。


 木炭投入口。


 粘土で作る炉壁。


◇◇◇


「何を作っているんですか?」


 セシリアが興味津々で覗き込む。


◇◇◇


「たたら炉だ」


「たたら?」


「鉄を作る炉だな」


◇◇◇


 セシリアはよく分からなかった。


 だが一つだけ分かることがある。


 ビルセイヤが楽しそうだということだ。


◇◇◇


「手伝います!」


 元気よく宣言する。


◇◇◇


「私も手伝います」


 エミリアも笑顔で加わった。


◇◇◇


 こうして三人による炉作りが始まる。


 粘土を運ぶ。


 形を整える。


 水を混ぜる。


 乾燥させる。


◇◇◇


 慣れない作業だった。


 だが不思議と楽しい。


 冒険とは違う。


 魔物との戦いとも違う。


 何かを生み出す時間だった。


◇◇◇


「ビルセイヤさん」


 粘土だらけになったセシリアが声を掛ける。


◇◇◇


「なんだ?」


◇◇◇


「どうしてそこまで刀にこだわるんですか?」


◇◇◇


 作業していた手が止まる。


 ビルセイヤは少しだけ遠くを見る。


◇◇◇


「憧れかな」


 静かな声だった。


◇◇◇


 前世で見た日本刀。


 研ぎ澄まされた刃。


 美しい反り。


 波打つ刃文。


◇◇◇


 武器でありながら芸術品。


 職人たちが魂を込めて生み出した結晶。


◇◇◇


「いつか自分の手で打ってみたかったんだ」


◇◇◇


 その言葉には夢があった。


 幼い頃から抱いていた憧れ。


 今ようやく手が届くかもしれない夢。


◇◇◇


 セシリアは少し驚く。


 普段のビルセイヤは冷静だ。


 落ち着いていて、大人びている。


 だが今は違う。


◇◇◇


 夢を語る少年の顔だった。


◇◇◇


「素敵ですね」


 自然と口から出た言葉だった。


◇◇◇


「そうか?」


 ビルセイヤが少し照れたように笑う。


◇◇◇


「はい」


 セシリアも笑う。


「そういう顔、初めて見ました」


◇◇◇


 その横でエミリアも微笑んでいた。


 目標へ向かって真っ直ぐ進む姿は美しい。


 それはエルフである彼女にも理解できた。


◇◇◇


 一方その頃――


 王都アルティア。


◇◇◇


「もう一度ですわ!」


 訓練場に元気な声が響いていた。


◇◇◇


 第二王女アイリスである。


 額に汗を浮かべながら木剣を握っていた。


 対するは第一王子ウィル。


 王太子であり、王国でも指折りの剣士だ。


◇◇◇


「本当に続けるのか?」


 ウィルが苦笑する。


◇◇◇


「当然ですわ!」


 即答だった。


◇◇◇


「冒険者になるんでしょう?」


◇◇◇


 妹は本気だ。


 完全に本気である。


◇◇◇


「それに!」


 アイリスは木剣を構える。


 瞳が輝いていた。


◇◇◇


「ビルセイヤ様はゴブリンジェネラルを倒したんですのよ!」


◇◇◇


 ウィルは思わず吹き出しそうになった。


◇◇◇


「まだ話したこともないんだろ?」


◇◇◇


 アイリスの動きが止まる。


◇◇◇


「うっ……」


 痛いところを突かれた。


◇◇◇


「まずは会話するところからじゃないか?」


 兄の正論だった。


◇◇◇


 しかし。


 アイリスは諦めない。


◇◇◇


「そのためにも冒険者ですわ!」


◇◇◇


 やはり結論は変わらなかった。


 恋する乙女は強い。


 そして少々頑固だった。


◇◇◇


 一方。


 シーサスでは夕日を浴びながら、たたら炉が少しずつ形になっていく。


◇◇◇


 異世界へ転移した青年。


 冒険者として成長し。


 鍛冶師として夢を追う。


◇◇◇


 まだ誰も知らない。


 この炉から生まれる一本の刀が。


 後に伝説へ繋がることを。


◇◇◇


 そして。


 その刀を打つ男が。


 英雄となり。


 やがて創造神へ至ることを。


第一章 第二十五話


「たたら炉への挑戦」


――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ