表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
230/243

第百八十一話 氷に閉ざされた街道

「全部、氷漬けになっています!」


 リーナの報告に、その場の空気が一変した。


 先ほどまで穏やかだった商隊の人々も、緊張した表情で顔を見合わせる。


「氷漬け……?」


 ベルガが信じられないというように聞き返した。


「この季節にか?」


「はい。」


 リーナは力強く頷く。


「街道の途中です。」


「荷馬車が三台。」


「人も馬も、そのまま凍っています。」


◇◇◇


「案内してくれ。」


 ビルセイヤが立ち上がる。


「私も行きます。」


 フィリアもすぐに続く。


「セシリア、エミリア、ツバサ。」


「護衛を頼む。」


「了解。」


 一行はリーナの後を追い、街道を駆け出した。


◇◇◇


 数分後。


 街道が大きくカーブした先で、全員が足を止める。


「これは……。」


 セシリアが息を呑んだ。


 そこには三台の荷馬車が横倒しになっていた。


 だが、本当に異常だったのは、その姿だった。


 馬も。


 荷馬車も。


 積み荷も。


 すべてが厚い氷に包まれている。


 街道の中央だけが、巨大な氷の塊になっていた。


 太陽の光を受けて青白く輝くその氷は、美しいとさえ思えるほどだった。


 しかし、その美しさが、かえって不気味だった。


◇◇◇


「自然の氷じゃありません。」


 エミリアが静かに断言する。


「魔力を感じます。」


 フィリアも氷へ手を触れる。


 冷たい。


 だが、それだけではない。


「これは……。」


「氷魔法です。」


「しかも、かなり高度な。」


 ツバサが周囲を見回す。


「魔物の仕業か?」


「分かりません。」


 フィリアは首を横へ振る。


「でも。」


「この魔力……。」


 少しだけ表情が曇る。


「どこか懐かしい気がします。」


◇◇◇


 ビルセイヤは白枝の柄へ手を添えながら、氷を観察する。


 刀身を少しだけ抜く。


 キィン――。


 白枝が微かに震えた。


「反応してる。」


 ビルセイヤが呟く。


 ヴァルグラムの声が響く。


『邪気は感じぬ。』


『蛇の牙の術ではないな。』


「じゃあ誰が……。」


 セシリアが周囲を警戒する。


◇◇◇


「待ってください。」


 エミリアが耳を澄ませる。


「何か聞こえます。」


 全員が息を潜める。


 すると。


 微かに。


「……たす……け……。」


 か細い声。


 氷の中からだった。


「生きてる!」


 セシリアが駆け寄る。


 荷馬車の横。


 氷の中には商人と思われる男性が閉じ込められていた。


 意識はある。


 だが身体はほとんど動かせない。


◇◇◇


「すぐ助けます!」


 フィリアが杖を掲げる。


 しかし。


「……駄目です。」


 魔法を引っ込めた。


「どうした?」


「普通の火魔法では駄目です。」


「急激に温めると、氷が割れる前に中の人が傷付きます。」


「確かに。」


 エミリアも頷く。


「慎重に溶かさないと危険です。」


◇◇◇


「俺がやる。」


 ビルセイヤは白枝を抜いた。


「え?」


 フィリアが振り向く。


「白枝なら。」


「氷だけを断てるかもしれない。」


 命脈断流。


 命を傷付けず、穢れだけを断つ剣。


 ならば。


 氷だけを断つこともできるはずだ。


◇◇◇


 ビルセイヤは静かに刀を構える。


 深呼吸。


 集中。


 目の前の氷を見つめる。


 斬るのは人ではない。


 命でもない。


 氷だけ。


「……そこだ。」


 白枝が静かに走る。


 スッ――。


 音もなく一閃。


◇◇◇


 パキッ。


 小さな音が響く。


 続いて。


 パキパキパキ……。


 氷だけが細かく砕け始めた。


 中にいた男性には、一切傷がない。


「成功です!」


 フィリアが駆け寄る。


 エミリアも治癒魔法を展開した。


「《ヒール》!」


 淡い光が男性を包む。


 男性は大きく咳き込み、ようやく自由に息を吸った。


「た……助かった……。」


◇◇◇


 ベルガも商人へ駆け寄る。


「何があった!」


 男性は震える指で西を指差した。


「白い……。」


「白い女……。」


「女?」


 ツバサが眉をひそめる。


「空を……歩いて……。」


 男性は恐怖に震えていた。


「風が……。」


「全部……凍った……。」


 そこまで言うと、力尽きたように気を失う。


「命に別状はありません。」


 エミリアが脈を確認する。


 皆、安堵の息を吐いた。


◇◇◇


「白い女か。」


 ビルセイヤが西の山々を見る。


 その時。


 フィリアが突然立ち尽くした。


 その瞳は大きく見開かれている。


「……そんな。」


「どうした?」


 セシリアが肩へ手を置く。


 フィリアは小さく首を振った。


「違うと……思いたいです。」


「でも。」


「今の話。」


 震える声で続ける。


「私の故郷に伝わる伝承と……。」


「そっくりなんです。」


◇◇◇


「伝承?」


 ビルセイヤが尋ねる。


 フィリアはゆっくり頷いた。


「蒼天の峡谷には。」


「昔から言い伝えがあります。」


「吹雪の夜。」


「白い衣を纏った女性を見た者は。」


「必ず氷へ閉ざされる――。」


 誰も言葉を発しなかった。


 西から吹く風が、一段と冷たさを増す。


 それはまるで、一行を蒼天の峡谷へ誘うように、静かに吹き続けていた。


――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ