第百五十七話 神炎が認めた鍛冶師
ゴォォォォォォッ――。
白金色の神炎は、なおも激しく揺らめいていた。
その中心では、一振りの刀身が静かに赤く輝いている。
ビルセイヤの血を受けた瞬間から、神炎そのものが呼吸をするように脈動し始めていた。
「こんなことが……」
エミリアは思わず息を呑む。
炎の精霊たちは歓喜するように舞い、鍛冶場全体を巡っている。
フィリアも信じられないという表情で炉を見つめた。
「神炎が鍛冶師に応えている……。」
「こんな記録、神殿にも残っていません。」
◇◇◇
ヴァルグラムは静かに目を閉じた。
『……なるほど。』
『そういうことか。』
老人はゆっくりと頷く。
「何が分かったんですか?」
セシリアが尋ねる。
『神炎は強き者を選ぶ炎ではない。』
『正しき心を持つ鍛冶師を選ぶ炎だった。』
その言葉に全員が静まり返る。
『技だけでは足りぬ。』
『力だけでも足りぬ。』
『己のためだけに剣を打つ者も選ばれぬ。』
ヴァルグラムはビルセイヤを見つめる。
『この者は、人を守るために剣を打つ。』
『だから炎が応えた。』
◇◇◇
ビルセイヤは黙ったまま槌を振るい続ける。
カァン!
カン!
カァァン!
神代の金床へ響く音は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
重い。
それでいて澄んでいる。
一打ごとに刀身から不純物が抜け、美しい銀色が現れていく。
「もう少し……。」
ビルセイヤは鉄の声へ耳を傾けた。
焦らない。
急がない。
鉄が望む形になるまで、ただ静かに槌を振るう。
◇◇◇
「すごい……。」
ツバサは腕を組みながら笑う。
「敵と戦ってる時より集中してるぞ。」
「鍛冶になると別人ですね。」
フィリアも微笑んだ。
セシリアは小さく頷く。
「これが、本当のビルセイヤなのかもしれないわ。」
◇◇◇
やがて――。
ビルセイヤは刀身を炉から取り出した。
静かに油を塗る。
そして焼き入れ。
ジュワァァァッ!!
白い蒸気が一気に立ち昇る。
鍛冶場いっぱいに、美しい音が響いた。
「……成功。」
ビルセイヤが小さく呟く。
刀身には、淡い白銀色の刃文が浮かんでいた。
それはまるで、流れる雲のように美しい。
◇◇◇
ヴァルグラムはゆっくり近づく。
「見せてみよ。」
ビルセイヤは完成した刀を差し出した。
老人は両手で受け取り、静かに眺める。
何も言わない。
刃を光へかざし、
重心を確かめ、
指先で刀身を軽く弾く。
キィィィン――。
澄み切った音色が鍛冶場いっぱいへ広がった。
長い沈黙。
やがて。
老人はゆっくり微笑んだ。
『見事だ。』
その一言だけだった。
しかし、その重みは何よりも大きかった。
◇◇◇
『神代の技ではない。』
『現代の技でもない。』
『お前だけの鍛冶だ。』
ヴァルグラムは刀を返す。
『それで良い。』
『技とは真似るものではなく、自ら築くものだからだ。』
ビルセイヤは刀を受け取り、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
◇◇◇
その瞬間。
鍛冶場全体が黄金色の光に包まれた。
壁に並んでいた歴代鍛冶師たちの石像が、一斉に淡く輝き始める。
「石像が!」
セシリアが目を見開く。
一体。
また一体。
神代から受け継がれてきた鍛冶師たちの魂が、まるで祝福するように光を放つ。
すると、その光はすべてビルセイヤの胸元へ集まっていった。
「これは……!」
炎心晶が強く輝く。
白枝も呼応するように白銀色の光を放つ。
ビルセイヤの身体を温かな魔力が包み込んだ。
◇◇◇
ヴァルグラムは静かに宣言する。
『第二の試練――』
『合格。』
轟音とともに鍛冶場の奥の壁が左右へ開いていく。
その向こうから流れてきたのは、これまでとは比べものにならない神聖な魔力だった。
白。
蒼。
紅。
三色の光が交わり、巨大な一本道を照らしている。
「この先が……。」
エミリアが息を呑む。
ヴァルグラムは静かに頷いた。
『最後の試練が待つ。』
『そこで、お前は真実を知ることになる。』
『世界樹。』
『三霊樹。』
『そして蛇の牙が神代から追い求め続けた理由を。』
老人の声とともに、最奥への扉が完全に開いた。
ビルセイヤたちは静かにその先を見つめる。
神代最後の秘密が、ついに彼らを待っていた。
――続く。




