第百五十三話 鍛える者の覚悟
黄金の炎が、試練の間を満たしていく。
先ほどまで紅く燃えていた炎は、その色を変え、まるで太陽を切り取ったような神々しい輝きを放っていた。
炎神の守護者は巨大な鍛冶槌を静かに構える。
その姿から感じられる圧力は、先ほどまでとは比べものにならない。
「これが……本気。」
セシリアが小さく息を呑む。
盾を構えているにもかかわらず、全身に汗が滲んでいた。
エミリアも弓を握り締める。
「空気そのものが重い……。」
フィリアは杖を胸の前で握り直した。
「炎の精霊たちが、一斉に跪いています……。」
その言葉に、全員の表情が引き締まる。
この守護者は、ただ強いだけではない。
炎そのものに認められた存在なのだ。
◇◇◇
『鍛えるとは何か。』
守護者の声が静かに響く。
『剣を打つことか。』
『鎧を作ることか。』
『否。』
黄金の炎がさらに大きく燃え上がる。
『命を預かる覚悟を持つこと。』
『それこそが鍛冶師の第一歩である。』
その瞬間、守護者は大槌を振り上げた。
だが、狙ったのはビルセイヤではなかった。
崩れかけていた天井。
轟音とともに巨大な岩塊が落下し、セシリアたちへ降り注ぐ。
「危ない!」
ビルセイヤが叫ぶ。
セシリアは盾を掲げる。
しかし、岩はあまりにも巨大だった。
「受け止めきれない!」
◇◇◇
迷う時間はない。
ビルセイヤは迷わず仲間の前へ飛び出した。
白枝を横一文字に構える。
「はあぁっ!」
一閃。
白銀の軌跡が岩塊を斬り裂く。
ズガァァン!!
巨大な岩は二つに割れ、左右へ落下した。
衝撃で地面が揺れる。
「ビルセイヤ!」
セシリアが叫ぶ。
しかし彼は振り返らない。
守護者だけを見つめていた。
◇◇◇
『……今の一太刀。』
守護者が静かに口を開く。
『仲間を守るためであったな。』
「ああ。」
ビルセイヤは短く答える。
『何故だ。』
「当たり前だからだ。」
即答だった。
「剣は守るためにある。」
「鍛冶師は、人が生きるための武器を作る。」
「だったら、目の前の仲間を見捨てる理由なんてない。」
炎神の守護者は沈黙した。
黄金の炎だけが静かに揺れる。
◇◇◇
やがて。
守護者はゆっくりと大槌を下ろした。
『……良い答えだ。』
その一言とともに、炎の色が少しだけ穏やかになる。
しかし次の瞬間。
守護者の周囲に無数の炎が集まり始めた。
炎は一つ、また一つと形を変え――
剣。
槍。
斧。
弓。
様々な武器となって宙へ浮かぶ。
「武器が……。」
フィリアが驚く。
『鍛冶師は、武器を知る者。』
『ならば全てを受け止めよ。』
守護者が静かに手を振る。
一斉に武器が飛び出した。
◇◇◇
「来る!」
ビルセイヤが叫ぶ。
セシリアは盾で槍を弾く。
ガァン!
エミリアは弓で飛来する短剣を撃ち落とす。
フィリアは風魔法で軌道を逸らした。
ツバサは笑みを浮かべる。
「面白い!」
飛んできた炎の斧を剣で受け流し、そのまま蹴り返す。
だが、武器は消えない。
空中で向きを変え、再び襲い掛かってくる。
「無限か!」
ツバサが舌打ちした。
◇◇◇
その様子を見ながら、ビルセイヤは違和感に気付く。
「……違う。」
攻撃ではない。
炎の武器たちは、どれも急所を外している。
そして、一つひとつ軌道が違う。
「これは。」
ビルセイヤの目が見開かれる。
「武器ごとの戦い方を見せてるのか。」
剣は斬る。
槍は突く。
斧は叩き割る。
弓は距離を取る。
すべての武器が、本来の扱いを示すように動いている。
「なるほど。」
ビルセイヤは白枝を静かに構えた。
「鍛冶師なら、作る武器を理解しろってことか。」
守護者の瞳が僅かに細められる。
『理解が早い。』
◇◇◇
ビルセイヤは武器を斬らなかった。
流れを読む。
剣なら剣らしく。
槍なら槍らしく。
その軌道へ合わせ、最小限の動きで受け流していく。
一本。
また一本。
炎の武器が静かに消えていく。
その姿を見ていた仲間たちも気付いた。
「攻撃じゃない!」
セシリアが盾を下げる。
「受け止めればいいのね!」
エミリアも矢を収めた。
「武器の意思を受け入れる試練……。」
フィリアは微笑む。
「なんて神代らしい試練でしょう。」
◇◇◇
最後の一本。
炎でできた一本の刀が、ゆっくりとビルセイヤの前へ舞い降りた。
彼は静かに両手で受け取る。
すると炎の刀は光となって砕け、ビルセイヤの胸へ吸い込まれていった。
その瞬間。
試練の間全体が眩い黄金色に包まれる。
守護者は満足そうに頷いた。
『第一の試練。』
『合格である。』
轟音とともに、試練の間の奥に巨大な石門が姿を現した。
その向こうからは、さらに強大な炎の気配が流れてくる。
炎神の鍛冶場は、まだ始まりに過ぎない。
その最奥には、紅蓮の霊樹と神代の真実が待っていた。
――続く。




