第百四十七話 灼熱の岩巨人
火山ゴーレムの拳が振り下ろされた。
轟音とともに大地が砕け、灼熱の岩片が四方へ飛び散る。
「散開!」
ビルセイヤの号令が飛ぶ。
全員が一斉に左右へ飛び退く。
直後、拳が叩きつけられた地面から真っ赤な溶岩が噴き上がった。
「地面まで危険か!」
ツバサが舌打ちする。
普通の魔物ではない。
一撃ごとに周囲の地形そのものを変えてしまう。
「鉱夫たちへ近づかせるな!」
ビルセイヤは白枝を構え直した。
◇◇◇
「私が前へ出る!」
セシリアが盾を構え、一直線に走る。
身体強化を発動。
ゴーレムの足元へ飛び込み、盾を叩きつけた。
ガァァン!
甲高い金属音が採掘場へ響く。
火山ゴーレムがゆっくりと視線をセシリアへ向けた。
「よし!」
「こっち見た!」
「そのまま引きつけて!」
ビルセイヤが叫ぶ。
「任せて!」
セシリアは盾を構えたまま、絶妙な距離を保ちながら後退する。
ゴーレムは怒りの咆哮を上げ、彼女を追い始めた。
◇◇◇
「エミリア!」
「はい!」
弓を引き絞る。
精霊たちが矢へ集まる。
「《アイスアロー》!」
放たれた氷の矢が、火山ゴーレムの右脚へ突き刺さる。
ジュウゥッ!
激しい蒸気が立ち昇る。
「効いてる!」
フィリアが驚いた。
「火を完全には止められません!」
「でも温度は下がっています!」
エミリアは次々と矢を放つ。
氷の魔力が、少しずつ岩巨人の動きを鈍らせていく。
◇◇◇
「じゃあ俺も行くぞ!」
ツバサが地面を蹴った。
低く滑り込む。
ゴーレムの死角へ回り込み、剣へ土属性魔法を纏わせた。
「《アースブレイク》!」
斬撃が岩の脚へ叩き込まれる。
バキィッ!
岩の表面に大きな亀裂が走った。
「硬ぇな!」
だが確実に傷は入っている。
「もう一押しだ!」
◇◇◇
その時。
ビルセイヤは静かに目を閉じていた。
白枝を両手で握る。
頭の中へ、アークレイドの言葉が蘇る。
――剣は力任せに振るうものではない。
――流れを断ち、急所を見極めよ。
「流れ……」
ビルセイヤは火山ゴーレムを見つめる。
赤黒い岩。
溶岩の流れ。
そして胸部で脈打つ赤黒い魔力。
「あそこか。」
身体強化を最大まで高める。
風魔法が足元へ集まった。
◇◇◇
「ビルセイヤ!」
セシリアが叫ぶ。
「今!」
ゴーレムが盾へ拳を振り下ろす。
その瞬間だった。
ビルセイヤが消えた。
「速い!」
ガンツが目を見開く。
次の瞬間には、すでにゴーレムの胸元まで跳び上がっていた。
白枝が淡く白銀に輝く。
「飛天御剣流――」
一閃。
「龍槌閃。」
白い軌跡が岩巨人の胸を斜めに駆け抜ける。
ズガァァン!!
轟音。
胸部の赤黒い核へ、一本の深い傷が刻まれた。
◇◇◇
ゴーレムが苦しげに咆哮する。
その胸から赤黒い霧が吹き出した。
「やっぱり!」
エミリアが叫ぶ。
「核があります!」
「魔力を流し込まれてる!」
フィリアも杖を掲げた。
「水よ!」
「浄化の流れとなれ!」
蒼い水流が胸の傷口へ流れ込む。
ジュウウウウ……。
赤黒い魔力が激しく蒸発した。
◇◇◇
しかし。
その直後。
ゴーレムの全身が赤く輝き始める。
「まずい!」
ガンツが叫んだ。
「暴走する!」
地面が震える。
溶岩が噴き出す。
ゴーレムは最後の力を振り絞るように両腕を大きく広げた。
「自爆する気だ!」
ツバサが叫ぶ。
閉じ込められた鉱夫たちの真上。
あのまま爆発すれば、全員助からない。
◇◇◇
ビルセイヤは一歩踏み出した。
迷いはなかった。
白枝を静かに構える。
白き霊樹。
蒼氷の霊樹。
二つの加護が刀身へ集まる。
白銀と蒼。
二色の光が重なり合う。
「……終わらせる。」
仲間たちが息を呑む。
今までとは違う。
白枝そのものが呼吸を始めたようだった。
ビルセイヤは静かに地を蹴る。
風が止む。
世界が一瞬だけ静寂に包まれた。
そして――。
白銀の斬撃が、灼熱の岩巨人へ向かって放たれた。
――続く。




