第百四十三話 炎を纏う旅路
翌朝――。
朝露に濡れた草原を、柔らかな風が吹き抜ける。
野営地では、焚き火の残り火で湯が沸かされ、香ばしいパンの匂いが漂っていた。
「はい、どうぞ」
フィリアが木の器にスープを注ぎ、仲間たちへ手渡していく。
「ありがとう」
セシリアは笑顔で受け取り、一口飲んだ。
「……美味しい!」
優しい野菜の甘みと、ガルディアで分けてもらった燻製肉の旨味がよく染みている。
ツバサも感心したように頷いた。
「料理もできるのか。」
フィリアは少し照れながら笑った。
「森で暮らしていましたから……料理くらいしか取り柄がなくて。」
「いや、それ十分すごいぞ。」
ビルセイヤが素直に答える。
「旅では料理ができる仲間は本当に助かる。」
その一言だけで、フィリアの頬は少し赤く染まった。
「ありがとうございます。」
エミリアはその様子を見て、くすりと微笑む。
(また一人、ビルセイヤさんの何気ない一言で救われていますね。)
◇◇◇
朝食を終え、一行は再び西へ向かって歩き始めた。
地図に示された光は、昨日よりも少しだけ強くなっている。
まるで「早く来てほしい」と呼びかけているようだった。
「距離は?」
セシリアが尋ねる。
ビルセイヤは古地図へ視線を落とす。
「順調なら五日ほど。」
「紅蓮の霊峰までは結構あるわね。」
「途中で街もあります。」
フィリアが地図を指差した。
「この先に『カルディナ』という鉱山町があります。」
「鍛冶の町か?」
ビルセイヤの目が少し輝く。
「はい。」
「火山の近くなので鉄鉱石や魔晶石が豊富に採れるそうです。」
その言葉にツバサが苦笑した。
「……ほら始まった。」
「目の色変わってるぞ。」
「鍛冶師だからな。」
ビルセイヤは悪びれもせず答える。
「良い鉱石があるなら見てみたい。」
「予想通り。」
セシリアが肩をすくめた。
◇◇◇
昼過ぎ。
一行は丘陵地帯へ差しかかる。
緩やかな坂道を登ると、その先に広大な景色が広がった。
「……あれ。」
エミリアが立ち止まる。
西の彼方。
遥か遠くの空が赤く染まっていた。
雲ではない。
山だ。
巨大な火山が、空へ細い噴煙を立ち昇らせている。
「あれが……」
「紅蓮の霊峰。」
フィリアは静かに呟いた。
遠く離れていても分かるほどの存在感。
王国西部最大の火山地帯。
そして世界樹に連なる霊樹が眠る場所。
ビルセイヤはその山をじっと見つめる。
「……待ってるな。」
懐の白枝が小さく震えた。
◇◇◇
その時だった。
「止まれ!」
ツバサが低く叫ぶ。
全員が反射的に足を止める。
草むらが揺れた。
ガサガサッ。
次の瞬間。
三頭の狼型魔物が姿を現した。
赤褐色の毛並み。
全身から熱気が立ち昇っている。
「フレイムウルフ!」
セシリアが剣を抜いた。
「この辺りにもいるの?」
フィリアが驚く。
「本来は火山周辺だけです!」
「つまり。」
ビルセイヤは剣を抜く。
「活動範囲が広がってる。」
嫌な予感がした。
白枝の泉で見た光景。
蒼氷の霊樹で見た異変。
今回も同じなのか。
◇◇◇
フレイムウルフが咆哮を上げる。
ドンッ!
地面を蹴った一頭が一直線に飛び込んできた。
「任せて!」
セシリアが盾を構える。
激しい衝撃。
火花が散る。
「力が強い!」
「横!」
ツバサが叫ぶ。
二頭目が横から回り込む。
「《アイスアロー》!」
エミリアの氷の矢が飛ぶ。
魔物の足を凍らせ、動きを止める。
そこへツバサが踏み込んだ。
「はっ!」
一閃。
炎狼の首が宙を舞う。
◇◇◇
残る一頭。
ビルセイヤは静かに構えた。
「来い。」
炎狼が飛ぶ。
その瞬間。
身体強化を発動。
一歩。
半歩。
最小限の動きで牙をかわす。
そして。
「――飛天御剣流。」
鞘走る音。
「龍翔閃。」
白い閃光が走る。
一撃。
それだけだった。
炎狼は静かに地面へ倒れる。
◇◇◇
戦闘は、わずか数十秒で終わった。
「早い……」
フィリアは呆然と呟く。
「まだ速くなってる。」
ツバサも苦笑する。
「アークレイドの剣、だいぶ身体に馴染んできたな。」
ビルセイヤは剣を納める。
すると。
倒れた炎狼の身体から、小さな赤い光が浮かび上がった。
「これは!」
エミリアが駆け寄る。
赤い光は空へ昇ることなく、西の火山へ吸い込まれていった。
「……見たか?」
ビルセイヤが呟く。
「はい。」
エミリアは険しい表情になる。
「火の精霊です。」
「でも、苦しそうでした。」
フィリアも胸を押さえた。
「紅蓮の霊峰から……呼ばれている。」
セシリアは静かに剣を握る。
「やっぱり始まってるのね。」
「ああ。」
ビルセイヤは西の空を見つめた。
「白枝の霊樹。」
「蒼氷の霊樹。」
「そして今度は紅蓮の霊樹。」
「蛇の牙は、霊樹そのものを狙っている。」
仲間たちも頷く。
もう迷いはない。
次なる戦いの舞台は、炎と溶岩の山――紅蓮の霊峰。
その頂で待つ新たな蛇の牙の幹部と、苦しむ霊樹を救うため、一行は歩みを速めるのだった。
――続く。
翌朝――。
朝露に濡れた草原を、柔らかな風が吹き抜ける。
野営地では、焚き火の残り火で湯が沸かされ、香ばしいパンの匂いが漂っていた。
「はい、どうぞ」
フィリアが木の器にスープを注ぎ、仲間たちへ手渡していく。
「ありがとう」
セシリアは笑顔で受け取り、一口飲んだ。
「……美味しい!」
優しい野菜の甘みと、ガルディアで分けてもらった燻製肉の旨味がよく染みている。
ツバサも感心したように頷いた。
「料理もできるのか。」
フィリアは少し照れながら笑った。
「森で暮らしていましたから……料理くらいしか取り柄がなくて。」
「いや、それ十分すごいぞ。」
ビルセイヤが素直に答える。
「旅では料理ができる仲間は本当に助かる。」
その一言だけで、フィリアの頬は少し赤く染まった。
「ありがとうございます。」
エミリアはその様子を見て、くすりと微笑む。
(また一人、ビルセイヤさんの何気ない一言で救われていますね。)
◇◇◇
朝食を終え、一行は再び西へ向かって歩き始めた。
地図に示された光は、昨日よりも少しだけ強くなっている。
まるで「早く来てほしい」と呼びかけているようだった。
「距離は?」
セシリアが尋ねる。
ビルセイヤは古地図へ視線を落とす。
「順調なら五日ほど。」
「紅蓮の霊峰までは結構あるわね。」
「途中で街もあります。」
フィリアが地図を指差した。
「この先に『カルディナ』という鉱山町があります。」
「鍛冶の町か?」
ビルセイヤの目が少し輝く。
「はい。」
「火山の近くなので鉄鉱石や魔晶石が豊富に採れるそうです。」
その言葉にツバサが苦笑した。
「……ほら始まった。」
「目の色変わってるぞ。」
「鍛冶師だからな。」
ビルセイヤは悪びれもせず答える。
「良い鉱石があるなら見てみたい。」
「予想通り。」
セシリアが肩をすくめた。
◇◇◇
昼過ぎ。
一行は丘陵地帯へ差しかかる。
緩やかな坂道を登ると、その先に広大な景色が広がった。
「……あれ。」
エミリアが立ち止まる。
西の彼方。
遥か遠くの空が赤く染まっていた。
雲ではない。
山だ。
巨大な火山が、空へ細い噴煙を立ち昇らせている。
「あれが……」
「紅蓮の霊峰。」
フィリアは静かに呟いた。
遠く離れていても分かるほどの存在感。
王国西部最大の火山地帯。
そして世界樹に連なる霊樹が眠る場所。
ビルセイヤはその山をじっと見つめる。
「……待ってるな。」
懐の白枝が小さく震えた。
◇◇◇
その時だった。
「止まれ!」
ツバサが低く叫ぶ。
全員が反射的に足を止める。
草むらが揺れた。
ガサガサッ。
次の瞬間。
三頭の狼型魔物が姿を現した。
赤褐色の毛並み。
全身から熱気が立ち昇っている。
「フレイムウルフ!」
セシリアが剣を抜いた。
「この辺りにもいるの?」
フィリアが驚く。
「本来は火山周辺だけです!」
「つまり。」
ビルセイヤは剣を抜く。
「活動範囲が広がってる。」
嫌な予感がした。
白枝の泉で見た光景。
蒼氷の霊樹で見た異変。
今回も同じなのか。
◇◇◇
フレイムウルフが咆哮を上げる。
ドンッ!
地面を蹴った一頭が一直線に飛び込んできた。
「任せて!」
セシリアが盾を構える。
激しい衝撃。
火花が散る。
「力が強い!」
「横!」
ツバサが叫ぶ。
二頭目が横から回り込む。
「《アイスアロー》!」
エミリアの氷の矢が飛ぶ。
魔物の足を凍らせ、動きを止める。
そこへツバサが踏み込んだ。
「はっ!」
一閃。
炎狼の首が宙を舞う。
◇◇◇
残る一頭。
ビルセイヤは静かに構えた。
「来い。」
炎狼が飛ぶ。
その瞬間。
身体強化を発動。
一歩。
半歩。
最小限の動きで牙をかわす。
そして。
「――飛天御剣流。」
鞘走る音。
「龍翔閃。」
白い閃光が走る。
一撃。
それだけだった。
炎狼は静かに地面へ倒れる。
◇◇◇
戦闘は、わずか数十秒で終わった。
「早い……」
フィリアは呆然と呟く。
「まだ速くなってる。」
ツバサも苦笑する。
「アークレイドの剣、だいぶ身体に馴染んできたな。」
ビルセイヤは剣を納める。
すると。
倒れた炎狼の身体から、小さな赤い光が浮かび上がった。
「これは!」
エミリアが駆け寄る。
赤い光は空へ昇ることなく、西の火山へ吸い込まれていった。
「……見たか?」
ビルセイヤが呟く。
「はい。」
エミリアは険しい表情になる。
「火の精霊です。」
「でも、苦しそうでした。」
フィリアも胸を押さえた。
「紅蓮の霊峰から……呼ばれている。」
セシリアは静かに剣を握る。
「やっぱり始まってるのね。」
「ああ。」
ビルセイヤは西の空を見つめた。
「白枝の霊樹。」
「蒼氷の霊樹。」
「そして今度は紅蓮の霊樹。」
「蛇の牙は、霊樹そのものを狙っている。」
仲間たちも頷く。
もう迷いはない。
次なる戦いの舞台は、炎と溶岩の山――紅蓮の霊峰。
その頂で待つ新たな蛇の牙の幹部と、苦しむ霊樹を救うため、一行は歩みを速めるのだった。
――続く。




