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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第百四十二話 西へ示す光

 ガルディアの街を後にしてから三日。


 ビルセイヤたちは、王国西部へ続く街道を歩いていた。


 空は高く澄み、初夏を思わせる柔らかな風が草原を揺らしている。


 ルミナスの深森での激闘が嘘のような穏やかな旅路だった。


「静かねぇ」


 セシリアが大きく伸びをする。


「こういう旅も悪くないわ」


「戦いばかりでは疲れますからね」


 エミリアも穏やかに笑う。


 フィリアは街道脇に咲く小さな花を見つけ、しゃがみ込んだ。


「この花……」


「もう咲いてるんですね」


「知ってるのか?」


 ビルセイヤが尋ねる。


「はい」


 フィリアは白い花へ優しく触れた。


「『風鈴花』です。精霊の気配が豊かな場所にしか咲きません」


 風が吹く。


 小さな花は鈴のような可愛らしい音を響かせた。


「本当だ」


 ツバサが感心したように笑う。


「面白い花だな」


 フィリアも、少し照れくさそうに微笑んだ。


◇◇◇


 昼過ぎ。


 一行は小さな丘で昼食を取っていた。


 パンと干し肉。


 ガルディアで分けてもらった燻製肉。


 そして温かい野菜スープ。


「やっぱり温かい飯はいいな」


 ツバサが満足そうに頷く。


「野営でもこれだけ食べられるのは助かる」


「料理担当が優秀だからね」


 セシリアが笑う。


「誰のことだ?」


「もちろんビルセイヤ」


「俺か?」


「鍛冶も料理も器用だし」


「そのうち宿屋でも始める?」


「遠慮しとく」


 そんな他愛もない会話に、皆が笑った。


 戦いの後だからこそ、この時間が何より大切だった。


◇◇◇


 食後。


 ビルセイヤは懐からアークレイドの古地図を取り出した。


 白枝の霊樹。


 蒼氷の霊樹。


 二つの光は、以前よりも強く安定している。


 そして。


 三つ目の光。


 それは西の山岳地帯を示していた。


「やっぱり変わらないな」


 ビルセイヤが呟く。


 フィリアも地図を覗き込む。


「この場所……」


「心当たりがあるのか?」


「たぶんですが……」


 彼女は少し考え込んだ。


「昔、お師匠様から聞いた話です」


「西の山々には『紅蓮の霊峰』と呼ばれる火山があります」


 エミリアが目を見開く。


「火の精霊が集う土地……」


「はい」


 フィリアは頷く。


「そこには《紅蓮の霊樹》が眠るという伝承があります」


 セシリアが驚いた表情になる。


「また霊樹?」


「おそらく」


 ビルセイヤは静かに地図を見つめた。


「アークレイドが言っていた通りだ」


「世界樹に連なる霊樹は、一つや二つじゃない」


◇◇◇


 その時だった。


 白枝が微かに震えた。


「?」


 刀身が鞘の中で共鳴する。


 さらに、荷物へ入れていた《白き霊樹の枝》と《蒼氷の霊核》も同時に淡く光った。


 三つの光が重なる。


 すると古地図の西側へ、新しい線が浮かび上がった。


「地図が……変わった」


 ツバサが目を丸くする。


 今まで何も描かれていなかった場所へ、細い街道のような線が現れていく。


「隠された道?」


 セシリアが呟く。


「そんな感じですね」


 エミリアは感心したように見つめた。


「霊樹を救うたびに、次の場所への道が示されるのでしょうか」


 ビルセイヤは静かに頷いた。


「その可能性は高い」


「アークレイドは最初から、この旅を想定していたのかもしれない」


◇◇◇


 フィリアは地図をじっと見つめていた。


「でも……」


「どうした?」


「この辺りは、人がほとんど近づかない場所です」


「火山地帯だからか?」


 ツバサが尋ねる。


「それだけじゃありません」


 フィリアは少し声を潜めた。


「昔から《炎竜》が眠る山と言われています」


「炎竜?」


 セシリアが思わず聞き返す。


「はい」


「真偽は分かりません」


「でも、その山へ入った冒険者が戻らなかったという話は何度も聞きました」


 場の空気が少しだけ引き締まる。


◇◇◇


 その日の夕方。


 一行は街道沿いの野営地へ到着した。


 ビルセイヤが手際よく焚き火を起こし、セシリアたちは食事の準備を進める。


 エミリアは精霊たちと静かに語り合い、フィリアは水汲みを手伝っていた。


「旅にも慣れてきた?」


 セシリアが笑顔で尋ねる。


「はい」


 フィリアも笑う。


「皆さんと一緒なら、不思議と安心できます」


「それならよかった」


 ツバサは焚き火へ薪を放り込みながら笑った。


「これからもっと大変になるだろうけどな」


「脅かさないでください」


 フィリアが困ったように笑う。


 そんなやり取りを見ながら、ビルセイヤは夜空を見上げた。


 満天の星。


 その中で、西の空だけが僅かに赤く染まっている。


 まるで、遥か彼方で炎が揺れているかのようだった。


◇◇◇


 一方、その頃――。


 王国西部。


 人の立ち入らぬ火山地帯。


 赤黒い溶岩が流れる巨大な火口の奥深く。


 一本の巨大な樹が、炎の中で静かに佇んでいた。


 燃えている。


 だが、焼け落ちることはない。


 紅蓮の炎をその身に宿した、美しい霊樹。


 その根元へ、一人の黒衣の男が歩み寄る。


 男の胸元には、蛇が牙を剥く紋章。


「第三幹部ヴァイスは敗れた」


 低い声が響く。


「だが問題ない」


 闇の奥から、別の声が返ってくる。


「次は我らの番だ」


 その瞬間。


 霊樹の幹へ黒い鎖が巻き付き、紅蓮の炎が苦しげに揺らいだ。


 火山全体が低く唸る。


 まるで、大地そのものが悲鳴を上げるように。


◇◇◇


 焚き火の炎を見つめながら、ビルセイヤは静かに呟く。


「西か……」


 白枝が、小さく震えた。


 それはまるで、新たな霊樹が助けを求めているようだった。


 英雄たちの旅は、新たな舞台――紅蓮の霊峰へ向かって進み始める。


――続く。

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