↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第一章 冒険者への第一歩編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/303

第十九話 動き始める運命

 シーサスの朝は、今日も活気に満ちていた。


 港では漁師たちが大漁旗を掲げながら帰港し、市場には新鮮な魚介類が並び始めている。

 商人たちは露店の準備に追われ、街道には王都や周辺の村から訪れた旅人たちの姿もあった。


 そんな賑やかな街の一角。


 鍛冶師ギルドの裏庭で、ビルセイヤは地面に広げた黒い砂を見つめていた。


    ◇◇◇


「やっぱり足りないな……」


 小さく呟く。


 目の前にあるのは、砂鉄だった。


 この数日、海辺や川辺を歩き回って少しずつ集めたものだ。

 しかし量が足りない。

 圧倒的に足りない。


 日本刀を作るために必要な玉鋼。


 その玉鋼を作るためには、さらに大量の砂鉄と木炭が必要になる。

 古代鍛冶師録の知識によれば、たたら製鉄は想像以上に大掛かりな作業だった。


「設備も足りない。人手も足りない。金も足りない」


 思わず苦笑する。


 夢へ近づいている実感はある。

 だが、その道のりはまだ長い。


    ◇◇◇


「おはようございます!」


 聞き慣れた元気な声が響いた。


 振り返ると、セシリアが手を振りながら近づいてくる。


 軽装鎧に片手剣。

 いつもの冒険者スタイルだ。


「朝から何をしているんですか?」


「砂集めだ」


「砂?」


 セシリアが首を傾げる。


 その反応は予想通りだった。


 ビルセイヤは砂鉄を手に取る。


「これだ」


「黒い砂ですね」


「ああ」


「何に使うんです?」


「鉄を作る」


 セシリアの動きが止まった。


「……はい?」


 理解できなかったらしい。


「これで鉄を作れる」


「砂ですよね?」


「砂だな」


「鉄ですよね?」


「鉄になる」


 会話が噛み合わない。


 セシリアはしばらく真剣に悩んだ末、ぱっと顔を上げた。


「ビルセイヤさんだから出来るんですね!」


「理解を放棄したな?」


「してません!」


「本当か?」


「たぶん!」


 していた。


    ◇◇◇


 そこへ、エミリアもやって来た。


「おはようございます」


 相変わらず落ち着いた雰囲気だ。

 風に揺れるエルフ特有の長い耳が印象的だった。


「何か素材ですか?」


 砂鉄を見て尋ねる。


「鉄の原料だ」


 やはり同じ反応だった。


「これがですか?」


「そうだ」


 エミリアも不思議そうな顔をしている。


 どうやらこの世界では、砂鉄から鉄を作る文化が一般的ではないらしい。


「ビルセイヤさんは、本当に不思議なことを知っていますね」


「俺の故郷では、こういうやり方もあったんだ」


「故郷……」


 エミリアが小さく呟く。


 詳しく聞きたそうな顔だったが、すぐに話題を変えた。


「ところで、今日は依頼でしたよね?」


「ああ」


 ビルセイヤは頷いた。


 本日の依頼は、フォレスト草原東部の調査。


 最近ゴブリンの目撃情報が増えているため、その原因を探る依頼だった。


 討伐ではない。

 あくまで調査。


 だが、冒険者にとって調査依頼ほど危険なものもない。


 何が出るか分からないからだ。


    ◇◇◇


 三人は冒険者ギルドへ向かった。


 朝のギルドは活気に溢れている。


 依頼を探す冒険者。

 帰還した冒険者。

 酒場では、すでに酒を飲んでいる者までいた。


「ビルセイヤさん」


 受付嬢が三人を見るなり声をかけてきた。


「依頼について、追加情報があります」


 嫌な予感がした。


「何かあったのか?」


「はい」


 受付嬢は資料を取り出す。


「今朝方戻った冒険者から報告がありました」


 表情が少し真剣になる。


「ゴブリンの数が、予想以上に増えている可能性があります」


    ◇◇◇


 周囲の冒険者たちも耳を傾けていた。


「どれくらいだ?」


 ビルセイヤが尋ねる。


「最低でも二十体以上」


 ざわり。


 ギルド内がざわつく。


 二十体。


 新人冒険者なら、即座に撤退を選ぶ数だ。

 しかも調査依頼の段階でそれだけいるなら、実数はさらに多い可能性もある。


 セシリアも真剣な顔になる。


「どうしますか?」


 エミリアもビルセイヤを見る。


 二人とも、自然と判断を任せていた。


 ビルセイヤは少し考える。


 調査が目的なら、無理に戦う必要はない。

 危険なら退く。

 情報を持ち帰ることも、冒険者の仕事だ。


 だが、放置すれば街道に被害が出るかもしれない。


 そして何より――。


「予定通り向かう」


 ビルセイヤは静かに頷いた。


「ただし、無理はしない。数が多すぎるなら情報だけ持ち帰る」


「了解です!」


 セシリアが力強く答える。


「私も異論ありません」


 エミリアも頷いた。


 いつの間にか、三人の中心にはビルセイヤがいた。


    ◇◇◇


 一方その頃。


 王都アルティアでは――。


「シーサスへ行きたいですわ!」


 第二王女アイリスが、元気よく宣言していた。


 マリアは予想通りという顔をしている。


「駄目です」


「まだ理由を言ってませんわ」


「どうせビルセイヤ様に会いに行くのでしょう」


 アイリスが固まった。


 図星だった。


「な、なぜ分かりましたの?」


「分からない方がおかしいです」


 マリアは深くため息を吐く。


 ここ最近のアイリスは、口を開けばビルセイヤ。

 何かを見ればビルセイヤ。

 窓の外を眺めてもビルセイヤ。


 分かるなという方が無理だった。


    ◇◇◇


「ならば!」


 アイリスは勢いよく立ち上がる。


「冒険者になりますわ!」


 とうとう言った。


 マリアは頭痛を堪えるように額を押さえる。


 だが、アイリスは本気だった。


 その話はすぐに王城中へ広まった。


 当然ながら、王太子ウィルの耳にも届く。


「アイリスが冒険者に?」


 執務室で報告を受けたウィルは、思わず苦笑した。


 妹らしい。


 実に妹らしい発想だった。


    ◇◇◇


 しばらくすると、噂の本人がやって来る。


「兄上!」


 勢いよく扉を開ける。


 ウィルは苦笑を深めた。


「聞いたぞ」


「冒険者になりますわ!」


 本気だった。


 ウィルは立ち上がる。


 剣術にも優れる王太子だ。

 王国屈指の実力者でもある。


「アイリス」


「はい!」


「冒険者になるなら、最低限の実力が必要だ」


「実力……」


「そうだ」


 そう言うと、ウィルは訓練用の木剣を手に取った。


「俺と一本やってみるか?」


 アイリスが固まる。


 相手はウィルだ。


 王国でも有数の剣士。

 勝てるはずがない。


 だが。


 アイリスは拳を握り締めた。


 脳裏に浮かぶのは、シーサスで見た青年。


 黒髪の冒険者。


 ビルセイヤ。


「やりますわ!」


 即答だった。


 ウィルは少し驚く。


 本気らしい。

 遊びではない。


 恋する乙女は、時に驚くほど強くなる。


 もっとも、方向性が正しいかは別問題だが。


    ◇◇◇


 一方。


 フォレスト草原へ向かうビルセイヤたちは、まだ知らない。


 遠く離れた王都で、一人の王女が自分を追いかけるために剣を握り始めたことを。


 そして、未来の親友となる王太子ウィルとの縁が、少しずつ動き始めていることを。


 シーサスの鍛冶場で生まれ始めた刀への道。

 フォレスト草原に広がるゴブリンの異変。

 そして王都で動き始めた王女の決意。


 それぞれ別々に見えた出来事は、やがて一本の線となり、ビルセイヤの運命を大きく動かしていくことになる。


---


第一章 第十九話


動き始める運命


――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。