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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第百三十九話 蒼氷の祝福

 吹雪が止んだ。


 長く灰色の雲に覆われていたフロストヴェールの空は、まるで何事もなかったかのように澄み渡り、青空がどこまでも広がっていた。


 柔らかな陽光が雪原を照らし、砕け散った第三結界の黒い結晶は、光の粒となって静かに消えていく。


 穢れは、完全に浄化されたのだ。


◇◇◇


 蒼氷の霊樹は、大きく枝葉を揺らした。


 サァァァ……。


 優しい風が雪山を吹き抜ける。


 その風に乗って、青白く透き通る花びらが舞い始めた。


「綺麗……」


 セシリアは思わず息を呑む。


 花びらは雪へ落ちても消えることなく、淡い光となって大地へ溶け込んでいく。


 すると、それまで黒く変色していた草木が少しずつ本来の色を取り戻し始めた。


「森が……戻っています」


 エミリアは嬉しそうに微笑む。


「精霊たちも笑っています」


 その声は、もう悲鳴ではなかった。


 小鳥が囀るような、穏やかな精霊たちの歌声だった。


◇◇◇


 白銀の守護騎士は霊樹の前へ跪いた。


「母なる霊樹よ」


「長き眠りより目覚められたことを、心よりお喜び申し上げます」


 その言葉に応えるように、霊樹の枝が静かに揺れる。


 一本の細い枝がゆっくりと伸び、守護騎士の額へ触れた。


 眩い蒼い光。


 守護騎士の鎧から最後まで残っていた穢れも、完全に浄化されていく。


「これで……」


 フィリアは胸へ手を当てた。


「本当に終わったんですね」


 その瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。


◇◇◇


 その時だった。


 蒼氷の霊樹から一本の光が伸びる。


 それは真っ直ぐ、ビルセイヤのもとへ。


「……?」


 白枝が強く共鳴した。


 さらに懐にしまっていた《白き霊樹の加護枝》も淡く輝き始める。


 二本の霊樹。


 離れた地に存在するはずの白き霊樹と蒼氷の霊樹。


 その力が、今この瞬間、一つに重なった。


 ビルセイヤの身体を優しい光が包む。


「これは……」


 暖かい。


 まるで命そのものが身体へ流れ込んでくるような感覚だった。


 頭の中へ、誰かの声が響く。


 ――ありがとう。


 それは白枝の泉で聞いた声とは違う。


 少し大人びた、けれど優しさに満ちた女性の声。


 蒼氷の霊樹の意思だった。


 ――あなたが希望を繋いでくれました。


 ――どうか、この力を受け取ってください。


◇◇◇


 光が収まる。


 白枝の刀身を見ると、刃文の一部が蒼く輝いていた。


 まるで雪の結晶が刻まれたような、美しい紋様だった。


「刀が……」


 ツバサが目を見開く。


「変わった?」


 ビルセイヤは静かに頷く。


「蒼氷の霊樹の加護を受けたんだと思う」


 エミリアも嬉しそうに微笑んだ。


「二本の霊樹が、あなたを認めたんですね」


 フィリアは深く頭を下げる。


「蒼氷の巫女として、お礼を申し上げます」


「ありがとうございます」


「あなたが来てくださらなければ、この山は救われませんでした」


◇◇◇


 すると、霊樹の根元から淡い蒼い光が集まり、一つの結晶となって浮かび上がった。


 手のひらほどの大きさ。


 透明な氷のようでありながら、内側には青白い光が揺れている。


 守護騎士が恭しく受け取り、ビルセイヤへ差し出した。


「これは《蒼氷の霊核》」


「蒼氷の霊樹が千年に一度だけ生み出す宝です」


 セシリアが驚く。


「そんな貴重なものを?」


 守護騎士は静かに頷いた。


「母なる霊樹の意思です」


「英雄へ託せ、と」


 ビルセイヤは両手で霊核を受け取った。


 冷たい。


 だが、その冷たさは決して厳しいものではなく、心を落ち着かせるような優しい冷気だった。


「大切に使います」


 その言葉に、霊樹は満足そうに枝葉を揺らした。


◇◇◇


 少し離れた場所では、フィリアが雪へ跪いていた。


 彼女は静かに山を見渡す。


 幼い頃から育った故郷。


 失われた村。


 仲間たち。


 家族。


 全てを思い出しながら、静かに目を閉じる。


「……みんな」


「終わったよ」


 風が優しく彼女の髪を揺らす。


 その風の中に、懐かしい笑い声が聞こえた気がした。


 フィリアは涙を拭い、ゆっくりと立ち上がる。


「私も、一緒に行きます」


 ビルセイヤが振り返る。


「いいのか?」


「はい」


 フィリアは力強く頷いた。


「この山は守護騎士様がいます」


「でも世界には、まだ救われていない霊樹があるかもしれません」


 その言葉に、ビルセイヤはヴァイスの最後の言葉を思い出す。


 ――世界樹は、一つではない。


 その意味が、少しずつ見え始めていた。


◇◇◇


 一方、その頃――。


 遥か遠く。


 地下深くに築かれた蛇の牙の神殿。


 闇の玉座に、一人の黒衣の人物が座っていた。


 その前へ、一つの黒い霧が集まる。


 ヴァイスが最期に残した魔力の残滓だった。


「……失敗、か」


 玉座の人物は静かに呟く。


「第三幹部ヴァイス、消滅」


「ですが」


「予定通り、霊樹の反応は確認できました」


 その人物はゆっくりと立ち上がる。


 闇の中で、黄金色の瞳だけが妖しく輝いた。


「残る霊樹は――あと五つ」


「計画は、まだ始まったばかりだ」


 低い笑い声が、神殿の奥深くへ響いていく。


◇◇◇


 雪山では、美しい朝日が昇り始めていた。


 ビルセイヤたちは蒼氷の霊樹へ最後の一礼を捧げる。


 白き霊樹。


 蒼氷の霊樹。


 二つの霊樹を救った英雄たちは、新たな仲間フィリアと共に、ガルディアへの帰路につく。


 だが、その旅路は終わりではない。


 世界には、まだ救いを待つ霊樹がある。


 そして蛇の牙との戦いも、さらに大きな局面へ向かおうとしていた。


 英雄たちの旅は、新たな運命と共に続いていく。


――続く。

次回、第百四十話「辺境伯への帰還」。


ガルディアへ帰還したビルセイヤたちは、ダリウス辺境伯へ事件の顛末を報告します。救出された兵士との再会、ルルとの別れ、そして蒼氷の巫女フィリアが正式に仲間へ加わるエピソードが描かれます。第二章はいよいよエピローグへ入ります。

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