第百三十四話 飛天御剣流、雪嵐を裂く
吹雪が唸る。
白銀の雪原は、《氷蛇》ヴァイスが展開した《氷雪牢界》によって完全に閉ざされていた。
四方を囲む氷壁。
絶え間なく襲い掛かる氷の魔獣たち。
そして、その全てを見下ろすように立つ蛇の牙第三幹部――ヴァイス。
「さあ、楽しませてください」
ヴァイスは薄く笑う。
「英雄と呼ばれる剣士の力を」
その声が響くと同時に、氷の騎士たちが一斉に動き出した。
◇◇◇
「来るぞ!」
ビルセイヤの声と共に戦端が開かれる。
先頭の氷騎士が大剣を振り下ろした。
轟ッ――!!
地面が砕け、雪煙が舞う。
だが、その一撃は空を切った。
ビルセイヤはすでに懐へ踏み込んでいる。
「遅い」
白枝が閃いた。
一閃。
氷騎士の胴が斜めに裂ける。
しかし――。
砕けた身体は翡翠色の光を放ちながら再び繋がり始めた。
「やはり核を壊さない限り再生するか」
ビルセイヤは素早く距離を取る。
「胸部!」
フィリアが叫ぶ。
「胸の翡翠色の核です!」
「了解!」
◇◇◇
一方。
「はぁっ!」
セシリアは盾を構え、氷熊の突進を真正面から受け止めた。
重い。
腕が痺れる。
だが一歩も退かない。
「ツバサ!」
「任せろ!」
横から飛び込んだツバサが剣を横薙ぎに振るう。
氷熊の身体が砕けた。
その瞬間。
胸の核だけが残る。
「そこ!」
セシリアが盾で核を打ち砕く。
パリンッ!
核は砕け、氷熊は光の粒となって消えていった。
「これなら倒せる!」
◇◇◇
後方ではエミリアが精霊魔法を展開していた。
「風の精霊、水の精霊――」
静かな詠唱。
「私たちへ力を貸してください!」
風が渦を巻く。
雪が舞い上がり、視界が晴れていく。
「《ウィンドサークル》!」
暴風が氷鳥の群れを吹き飛ばした。
続けて。
「《アイスアロー》!」
無数の氷矢が放たれ、正確に核だけを撃ち抜いていく。
次々と消えていく氷の魔物。
「さすがエミリア!」
セシリアが笑う。
「任せてください!」
◇◇◇
その戦いを見つめながら、ヴァイスは静かに笑った。
「素晴らしい」
「実に素晴らしい」
杖をゆっくり掲げる。
「ですが」
「これはまだ前座です」
杖の先が青白く輝く。
雪山全体が震えた。
ゴゴゴゴゴ……。
山肌から巨大な氷柱が立ち上がる。
一本。
二本。
十本。
百本。
それらが空中へ浮かび上がった。
「《氷蛇千牙》」
ヴァイスが呟く。
「避けられますか?」
◇◇◇
無数の氷柱が一斉に降り注ぐ。
「散れ!」
ビルセイヤが叫んだ。
全員が四方へ飛ぶ。
轟! 轟! 轟!
氷柱が地面を穿つ。
雪煙が吹き荒れる。
さらに。
砕けた氷柱が蛇のように動き始めた。
「まだ動くのか!」
ツバサが驚く。
「魔法で操ってる!」
フィリアが答えた。
「気をつけて!」
◇◇◇
ビルセイヤは目を閉じる。
深く息を吸う。
風。
雪。
魔力。
全ての流れを読む。
「飛天御剣流――」
腰を落とす。
静寂。
次の瞬間。
姿が消えた。
「なっ……!」
ヴァイスの表情が初めて変わる。
ビルセイヤは氷柱の間を風のように駆け抜けていた。
一歩。
二歩。
三歩。
誰にも追えない速度。
剣が舞う。
「龍巣閃!」
無数の斬撃。
氷柱が次々と断ち切られていく。
まるで吹雪そのものを斬り裂くかのようだった。
パァァン!!
空を埋め尽くしていた氷柱が、一瞬で粉々に砕け散る。
◇◇◇
静まり返る雪原。
ヴァイスはゆっくり拍手した。
「驚きました」
「まさか私の魔法を正面から斬るとは」
「普通はできません」
ビルセイヤは白枝を構え直す。
「できるかどうかじゃない」
「守るために必要なら斬るだけだ」
その言葉に、フィリアの瞳が揺れた。
白き霊樹。
村。
精霊。
森。
目の前の青年は、本当に全てを守ろうとしている。
ヴァイスはその姿を見つめ、静かに笑みを消した。
「なるほど」
「あなたは危険だ」
「だからこそ」
その瞳が妖しく輝く。
「ここで消えてもらいます」
ヴァイスの足元に、さらに巨大な魔法陣が展開される。
先ほどまでとは比べ物にならない魔力量。
雪山全体が鳴動を始めた。
「この気配は……!」
フィリアが青ざめる。
「第三結界と繋げるつもりです!」
第二結界だけではない。
ヴァイスは残る二つの結界を同時に起動しようとしていた。
もし成功すれば、蒼氷の霊樹は完全に封印されてしまう。
ビルセイヤは剣を握り直した。
「絶対に止める」
その一歩が、決戦の新たな幕を開けるのだった。
――続く。
次回、第百三十五話「第三結界起動」。
《氷蛇》ヴァイスは第二・第三結界を同時起動し、蒼氷の霊樹を完全封印しようとします。ビルセイヤたちは結界の暴走を止めるため、雪山最深部へ突入します。第二章もいよいよクライマックスへ突入です。




