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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第百二十三話 ガルディアの報告

 ガルディア辺境伯の館に、朝の光が差し込んでいた。


 ルミナスの深森から戻ったビルセイヤたちは、短い休息と治療を済ませた後、辺境伯ダリウスの執務室へ呼ばれていた。


 部屋の中央には、ルミナスの深森周辺の地図。

 その横には、蛇の牙から押収した黒い石片、刻印の写し、そして森の民たちから聞き取った内容をまとめた書類が並べられている。


「まず、改めて礼を言う」


 ダリウス辺境伯は、重々しく頭を下げた。


「カイル、ベルン、そして森の民たちを救ってくれたこと。さらに、白枝の泉と深森の異変を鎮めたこと。ガルディア辺境伯として、深く感謝する」


「頭を上げてください」


 ビルセイヤは静かに言った。


「俺たちは依頼を果たしただけです」


「依頼以上の働きだ」


 ダリウスは顔を上げ、真剣な目でビルセイヤたちを見る。


「もし君たちが来なければ、ルミナスの深森は崩壊していた。いや、下手をすれば辺境伯領全体に被害が及んでいたかもしれん」


「白き霊樹も、そう言っていました」


 エミリアが小さく頷く。


「母なる根は、この土地と世界樹の流れを繋ぐ結び目のようなものだと」


「世界樹の流れ……」


 ダリウスは低く呟く。


 その言葉の重さを理解しているのだろう。

 彼の表情がさらに険しくなる。


「詳細は陛下へも報告する必要があるな」


「はい」


 ビルセイヤは懐から、布に包んだ白き霊樹の加護枝を取り出した。


 布越しにも、淡い翡翠色の光がわずかに漏れている。


 それを見たダリウスの目が鋭くなる。


「それが、白き霊樹から託されたものか」


「はい。アイリス王女へ繋ぐ証だと言われました」


「……やはり、王家に関わるのだな」


 ダリウスは深く息を吐いた。


「陛下から全てを聞いているわけではない。だが、これ以上詮索すべきではないことも分かる」


「助かります」


「ただし、辺境伯として確認しておきたい」


 ダリウスの声が低くなる。


「蛇の牙は、王都を狙う可能性がある。そう見てよいのだな?」


「ああ」


 ビルセイヤは即答した。


「白き霊樹は“王家に世界樹へ繋がる何かがあることを察し始めている”と言っていました。アイリス王女の名までは知られていない可能性が高いですが、警戒は必要です」


「分かった」


 ダリウスはロドリグへ視線を向ける。


「伝令は?」


「すでに二騎、王都へ向かわせました。別経路でも一騎出しています」


「よし」


 ダリウスは頷き、机の上の書類を一枚取る。


「こちらで捕らえた蛇の牙の者たちだが、状況は芳しくない」


「やっぱり口を割らない?」


 セシリアが問う。


「それ以前の問題だ」


 ダリウスは苦々しく言った。


「意識を取り戻した者のうち、二名が自害を試みた。残る者も、蛇の牙に関する質問を受けると激しく痙攣する。おそらく、何らかの術式が仕込まれている」


「口封じの呪いですね」


 エミリアが顔をしかめる。


「無理に尋問すれば、命を落とすかもしれません」


「そのため、尋問は停止した」


 ダリウスは書類を置く。


「だが、押収品から分かったことがある」


「何ですか?」


 ツバサが身を乗り出す。


 ダリウスは黒い石片を指差した。


「この石片。白枝の泉や樹哭の間で使われた黒杭と同質のものだが、ガルディア周辺で採れる鉱石ではない」


「どこから?」


「まだ断定はできん。だが、王都の南西にある古い採掘跡で、似た鉱石が記録に残っている」


「王都の南西……」


 ビルセイヤの目が細くなる。


「蛇の牙の拠点がそこに?」


「可能性はある。少なくとも、素材の入手経路はそこに繋がるかもしれん」


 セシリアが腕を組む。


「王都に戻ったら、その情報も陛下へ渡した方がいいわね」


「ああ」


 ビルセイヤは頷いた。


◇◇◇


 続いて部屋に通されたのは、森の民の少女ルルだった。


 ガルディアの館で保護されてから少し休んだのだろう。

 以前より顔色は良くなっている。


 そして、彼女は部屋に入るなり、シルヴァの姿を見つけて目を見開いた。


「シルヴァさま……!」


「ルル!」


 シルヴァも駆け出す。


 二人は小さな体で抱き合った。


「よかった……ルル、無事だった……!」


「シルヴァさまも……白い木も、助かったんですね……?」


「うん。ビルセイヤたちが助けてくれたよ」


 ルルは涙を浮かべながら、ビルセイヤたちへ向き直った。


「ありがとうございます……!」


 深く頭を下げる少女に、ビルセイヤは少しだけ困ったように目を細めた。


「無事でよかった」


「はい……!」


 その後、ルルと救出された森の民たちから、改めて話を聞くことになった。


 蛇の牙が森へ現れたのは、異変が本格化する数日前。


 彼らは森の民の隠れ里を襲い、数名を攫った。

 さらに白枝の泉へ黒い石を沈め、霊樹の力を乱したという。


「蛇の人たちは、ずっと言っていました」


 ルルが震える声で話す。


「“翡翠の鍵が目覚める前に、根を開け”って」


「翡翠の鍵……」


 ダリウスが眉をひそめる。


 ビルセイヤたちは顔を見合わせた。


 白き霊樹が言っていた言葉と同じだ。


「やっぱり、蛇の牙は鍵の存在を知ってるのね」


 セシリアが低く言う。


「ただ、誰が鍵なのかまでは分かっていない」


 エミリアが続ける。


「だから王家全体を探ろうとしているのかもしれません」


 ダリウスはすぐに書記官へ命じた。


「その言葉を記録に加えろ。王都への追加報告にも入れる」


「はっ」


 ルルは少し不安そうにビルセイヤを見る。


「王都に、悪い人たちが行くんですか?」


「その可能性がある」


 ビルセイヤは隠さず答えた。


「だから俺たちも戻る」


「アイリスさま、って人のところですか?」


 その名前に、セシリアが少し驚いた顔をする。


「知ってるの?」


「シルヴァさまが、眠る前に言っていました」


 ルルは小さく頷く。


「翡翠の鍵を持つお姫さまが、いつか森に来るって」


「……そうか」


 ビルセイヤは、手元の加護枝を見た。


 アイリスはまだ王都で訓練を始めたばかりだ。

 だが、この森はもう彼女を待っている。


 その事実が、加護枝の重みをさらに増していた。


◇◇◇


 報告会が終わる頃には、昼を過ぎていた。


 ダリウス辺境伯は、王都へ送る正式な報告書をまとめるため、書記官たちへ指示を飛ばしている。


 ビルセイヤたちは一度部屋を出て、館の中庭へ出た。


 中庭では、救出された兵士カイルとベルンが治療を受けていた。


 ベルンはまだ寝台の上だったが、意識は戻っている。

 ロドリグがそばに立ち、何やら言葉を交わしていた。


「ビルセイヤ殿」


 ロドリグが気づき、こちらへ歩いてくる。


「二人とも、命に別状はありません。改めて、感謝します」


「無事で何よりだ」


「ベルンが、ぜひ礼を言いたいと」


 ビルセイヤたちはベルンの寝台へ向かった。


 ベルンは顔色こそ悪いが、しっかりと意識を保っていた。

 彼はビルセイヤたちを見ると、上体を起こそうとする。


「無理しなくていい」


 ビルセイヤが止める。


「すみません……助けていただきました」


「間に合ってよかった」


 ベルンは悔しそうに拳を握る。


「私は、霧に呑まれた後、何もできませんでした。木の根に絡まれて……遠くで、森が泣く声だけが聞こえて」


「戻ってきただけで十分よ」


 セシリアが穏やかに言う。


「生きていれば、次に繋げられる」


 ベルンはしばらく黙り、それから深く頷いた。


「はい」


 ロドリグも静かに目を伏せる。


 戦いは終わったが、兵士たちの中にも傷は残る。

 それでも命があるなら、前へ進める。


◇◇◇


 その日の夕刻。


 ダリウス辺境伯は、ビルセイヤたちを再び執務室へ呼んだ。


 机の上には、封蝋された書簡が三通置かれている。


「王都への正式報告書だ」


 ダリウスは一通をビルセイヤへ差し出した。


「君たちが持参する分も用意した。早馬とは別に、直接陛下へ渡してほしい」


「分かりました」


 ビルセイヤは書簡を受け取る。


「それと、こちらは今回の依頼の報酬だ」


 ロドリグが箱を運んできた。


 中には金貨と、ガルディア辺境伯家の紋章が刻まれた通行証が入っている。


「金貨五十枚。加えて、ガルディア領内での補給と宿泊を優先的に受けられる通行証だ。受け取ってくれ」


「いいんですか?」


 エミリアが少し驚く。


「むしろ足りんくらいだ」


 ダリウスは真顔で言った。


「領を救われたのだ。この程度で済むと思わないでほしい」


「なら、ありがたく受け取ります」


 ビルセイヤは頷いた。


 冒険者として報酬を受けるのは当然だ。

 それに、今後の旅や王都への移動にも資金は必要になる。


「出発は?」


 ダリウスが問う。


「明日の朝、王都へ向かいます」


「早いな」


「王都の件がありますから」


「分かった」


 ダリウスは頷く。


「こちらでも王都へさらに追加伝令を出す。蛇の牙の捕虜については、呪術に詳しい者を呼んで調べさせる」


「無理はしないでください」


「ああ。分かっている」


 そしてダリウスは、少し声を落とした。


「ビルセイヤ殿」


「はい」


「アイリス王女を守ってくれ」


 その一言に、部屋の空気が静かになる。


 ダリウスは続けた。


「私は詳しい事情を知らん。だが、今回の件で分かった。王女殿下は、おそらく王国の未来に関わる存在なのだろう」


「……はい」


「ならば、彼女が自ら歩けるようになるまで、その道を守ってやってほしい」


 白き霊樹の言葉が、ビルセイヤの脳裏に蘇る。


 ――あなたは、彼女の前に道を示す者。


 ――けれど、道を歩くのは彼女自身。


 ビルセイヤは静かに頷いた。


「守るだけじゃありません」


「ほう?」


「彼女が自分で選べるように、道を繋ぎます」


 ダリウスは一瞬だけ目を見開き、やがて満足げに笑った。


「よい答えだ」


◇◇◇


 夜。


 ビルセイヤたちは、ガルディアの宿でようやく落ち着いた時間を得た。


 久しぶりにまともな食事を取り、装備の手入れをし、明日の出発に備える。


 セシリアは盾の傷を確認しながら、ため息をついた。


「今回、けっこう酷使したわね」


「俺の剣もだ」


 ツバサも刃を光にかざしている。


「森の化け物、硬い奴ばっかりだったしな」


 エミリアは白き霊樹から授かった葉を布に包み、大切そうにしまっていた。


「王都に戻ったら、アイリス王女に伝えることがたくさんありますね」


「ああ」


 ビルセイヤは白き霊樹の加護枝を見つめる。


 枝は静かに光っていた。


 まるで、王都の方角を知っているかのように。


「明日、王都へ戻る」


 ビルセイヤが言う。


「アイリス王女に、この枝を届ける。そして陛下へ蛇の牙の件を報告する」


「ええ」


 セシリアが頷く。


「きっと王都も騒がしくなるわね」


「まあ、静かに済むとは思ってない」


 ツバサが苦笑する。


 エミリアも少しだけ笑った。


「でも、アイリス王女は喜ぶと思います。ビルセイヤさんたちが約束を守って戻ってきたって」


「……どうだろうな」


 ビルセイヤは小さく息を吐いた。


 王都で別れた時、アイリスは言った。


 絶対、追いつきます。

 次に会う時、驚いてください。


 まだ数日しか経っていない。

 三か月の約束には早すぎる。


 だが、王都へ戻れば彼女に会うことになるだろう。


 その時、何を伝えるべきか。


 白き霊樹の託宣。

 選択の試練。

 王都へ忍び寄る蛇の牙の影。


 重い話ばかりだ。


 それでも、伝えなければならない。


「アイリス王女には、ちゃんと話す」


 ビルセイヤは静かに言った。


「ただし、答えを押しつけるつもりはない」


 セシリアはその言葉を聞いて、少しだけ優しく笑った。


「それでいいと思うわ」


 夜のガルディアに、静かな風が吹く。


 ルミナスの深森での戦いは終わった。

 だが、白き霊樹が告げた通り、新たな影はすでに王都へ伸びている。


 次なる目的地は、再び王都アルティア。


 そしてそこには、翡翠の鍵を持つ少女が待っている。


――続く。

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