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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第百一話 王家の翡翠の加護

 白銀の守護騎士エルドが、再び槍を構え直す。


 その全身から放たれる圧は、先ほどまでとは比べものにならなかった。


 翡翠色の光が長槍へと絡みつき、まるで一振りそのものが世界樹の枝へと変じたかのように、淡く、しかし確かな脈動を放っている。


「……っ」


 アイリスは、剣と棒を握り直した。


 腕は痺れ、脇腹は痛む。頬の切り傷もひりついていた。呼吸も荒く、足元だって決して安定しているとは言えない。


 けれど――不思議と、心は折れていなかった。


 さっきの一撃は、確かに届いたのだ。


 棒術、剣術、魔法、そしてツバサに教わった崩し。


 全部を繋げれば、相手に届く。


 ならば、やるしかない。


『継承候補よ』


 エルドの低い声が、闘技場に重く響く。


『ここから先は、もはや試すための戦いではない。お前が本当に“力”を扱う資格を持つか――その答えを示せ』


 次の瞬間。


 エルドが地を蹴った。


「速――っ!?」


 目で追えない。


 先ほどまでの突進とは、まるで別物だった。翡翠の残光を引きながら、白銀の騎士は一瞬でアイリスの懐へ入り込んでいた。


 槍が閃く。


 咄嗟に棒を横へ構える。


 だが――


 ガァァンッ!!


「きゃあっ!?」


 受けた瞬間、両腕に激痛が走った。


 重い、なんてものじゃない。衝撃そのものが塊になって叩きつけられたようだった。棒ごと身体が吹き飛ばされ、アイリスは石床を何度も転がる。


「アイリス!」


 セシリアの叫びが響く。


 しかし、追撃は止まらない。


 エルドは倒れたアイリスへ、容赦なく槍を振り下ろした。


「《アースウォール》!」


 反射的に土魔法を発動する。


 アイリスの前に石壁がせり上がる。だが次の瞬間、その槍は土壁をいとも容易く粉砕した。


「そんな……っ!」


 砕け散る石片の向こうから、石突きが腹へ叩き込まれる。


「ぐっ……!!」


 息が止まった。


 身体がくの字に折れ、そのまま数メートル後方まで吹き飛ぶ。ごろり、と床を転がってようやく止まった時には、全身が悲鳴を上げていた。


「アイリス……!」


 エミリアが思わず一歩踏み出す。


 だが、闘技場の外縁に淡い翡翠色の壁が立ち上がり、彼女の進路を阻んだ。


『試練への直接介入は許されぬ』


 アークレイドの思念が静かに告げる。


「でも、このままじゃ……!」


 セシリアが悔しそうに唇を噛む。


 ビルセイヤもまた、拳を握り締めていた。


 分かっている。


 これはアイリス自身の試練だ。


 だが、目の前で仲間が一方的に追い詰められていくのを、ただ見ているだけというのは、やはり苦しい。


「……立て、アイリス」


 ビルセイヤは低く呟いた。


 倒れ伏したアイリスの指先が、ぴくりと動く。


 ゆっくりと、彼女は顔を上げた。


「ま……だ……」


 震える声だった。


 それでも、アイリスは棒を杖代わりにして立ち上がる。足はふらつき、呼吸も乱れ、誰の目にも限界が近いと分かる。


『それがお前の限界か』


 エルドが淡々と問う。


『ならば、この試練はここで終わりだ』


「終わりません……!」


 アイリスは唇を噛み、睨み返した。


 だが、その直後――エルドが再び槍を構える。


 今度こそ、本当に終わるかもしれない。


 そう思った、その時だった。


「――アイリス!!」


 ビルセイヤの声が、闘技場に響き渡る。


 アイリスがはっと顔を上げる。


「お前の武器は何だ!」


「え……?」


 一瞬、思考が止まる。


 武器?


 剣? 棒? 魔法?


 ――違う。


 ビルセイヤが問うているのは、そういうことじゃない。


「ウィルみたいに剣一本で戦うわけじゃない! ツバサみたいに魔法だけで制圧するわけでもない!」

 ビルセイヤはまっすぐアイリスを見据え、叫んだ。

「お前がこの数日で一番強かった瞬間を思い出せ! 何を繋げた時に、相手へ届いた!」


 その言葉に、アイリスの脳裏へさっきの攻防が蘇る。


 風で視界を奪い、火で牽制し、水で足を止め、剣で崩し、棒で打ち抜いた。


 剣だけじゃない。


 棒だけでもない。


 魔法だけでもない。


 全部を繋げた時、初めて届いたのだ。


「お前の武器は、一つじゃねえ!」

 今度はツバサが叫ぶ。

「棒術も剣も魔法も、全部まとめて“アイリスの戦い方”だろうが!」


「……っ!」


 その瞬間。


 胸の奥で、何かがかちりと噛み合った。


 そうだ。


 自分は、誰かの真似をする必要なんてない。


 ウィルのような剣士になれなくてもいい。


 シリスのように完璧な王女でなくてもいい。


 自分は、自分の武器で戦えばいいのだ。


「……そう、です」


 アイリスはゆっくりと息を吸った。


 そして剣を腰へ戻し、両手で棒を握り直す。


「私の武器は、剣だけじゃない」


 足元に、淡い光が集まり始める。


「棒術も、魔法も、身体強化も……全部です」


 胸元の翡翠が、呼応するように輝いた。


 ふわり、と。


 優しい緑の光が、アイリスの身体を包み込む。


「これは……!」


 セシリアが目を見開いた。


 翡翠の光は、アイリスの腕へ、脚へ、そして手にした棒へと流れ込んでいく。まるで王家のペンダントそのものが、彼女の決意に応えるように。


『世界樹の欠片が……加護を与えたか』


 アークレイドの思念が、僅かに驚きを滲ませる。


 アイリス自身も驚いていた。


 身体が軽い。


 傷の痛みが消えたわけではない。けれど、それ以上に、身体の芯へ力が満ちていく感覚があった。


 足元から、棒の先まで。


 自分の身体と武器と魔力が、一本の線で繋がっていくような感覚。


「……いける」


 アイリスは小さく呟いた。


 エルドが槍を構え直す。


『ならば見せよ。継承候補としての力を』


「はい!」


 アイリスが地を蹴った。


 先ほどまでよりも明らかに速い。


 身体強化に加え、翡翠の加護が彼女の動きを一段押し上げていた。


 エルドの槍が迎え撃つように突き出される。


 だが、アイリスは真正面から受けない。


「《ウィンド》!」


 風を足元へ集中。


 瞬間的に軌道をずらし、槍の穂先を紙一重でかわす。そのまま左へ回り込みながら、今度は火の魔法を放つ。


「《フレイムアロー》!」


 炎の矢が三連続で飛ぶ。


 エルドは槍で二本を払う。だが、最後の一本は牽制だ。


 その炎の陰から、アイリスが棒を振り抜く。


 ガンッ!


 エルドが槍の柄で受け止める。


 だが、その一撃には風の補助が乗っていた。押し返された勢いで、エルドの体勢がわずかにぶれる。


「まだっ!」


 アイリスは間を置かず、足元へ水を走らせる。


「《アイス》!」


 床が凍り、エルドの踏み込みが遅れる。


 その隙に、今度は身体強化を一気に高めた。


 脚力。


 腕力。


 踏み込み。


 すべてに翡翠の加護が重なり、彼女の身体を押し上げる。


 アイリスは低く潜り込むように間合いへ入り、棒の石突きでエルドの脇腹を打った。


 ガッ!


 重い音が響く。


 止まらない。


 返す動きで肩口を打ち、さらに逆薙ぎで足元を払う。


 棒術の連撃。


 その動きは、もはや最初の粗削りなものではなかった。


 ツバサに教わった体の使い方。


 ビルセイヤに叩き込まれた踏み込み。


 そして、自分自身で組み立てた戦い方。


 その全てが、一本の流れになっていた。


『……!』


 初めて、エルドが明確に押し込まれる。


 アイリスはさらに一歩踏み込んだ。


 だが、その瞬間。


 エルドが槍を大きく薙いだ。


 強烈な反撃。


「くっ……!」


 アイリスは棒で受けるが、衝撃を殺しきれず後ろへ弾かれる。


 だが、今度は踏みとどまった。


 むしろ、その勢いを利用して後方へ跳び、距離を取る。


「《ウォーター》……《フリーズ》!」


 宙へ放った水が、一瞬で無数の氷片へ変わる。


 さらに――


「《ウィンド》!」


 風で加速された氷の礫が、一斉にエルドへ降り注いだ。


 エルドは槍を回転させて防ぐが、その視界は氷と風に埋まる。


 その隙だった。


 アイリスは全力で踏み込んだ。


 翡翠の光が、棒へ集束していく。


 身体強化、風の加速、そして王家の翡翠の加護。


 全てを乗せた、渾身の一撃。


「はああああああっ!!」


 真っ直ぐに振り下ろされた棒が、エルドの槍と激突した。


 轟音。


 衝撃で闘技場の石床に亀裂が走る。


 押し合いになるかと思われた、その瞬間――


 ぱきん、と。


 白銀の槍に、細いひびが入った。


「え……」


 アイリス自身が目を見開く。


 次の瞬間、ひびは一気に広がった。


 パリンッ!


 翡翠色の光を纏っていた槍が、砕け散る。


『――見事だ』


 エルドの低い声が、静かに響いた。


 白銀の騎士は槍を失ったまま、その場に片膝をつく。兜の奥の光が、穏やかに揺れていた。


『力任せではなく、己の持つ全てを繋げ、一つの答えへと昇華した。今の一撃、確かに世界樹の加護に値する力だった』


 アイリスは荒い呼吸のまま、棒を握りしめて立ち尽くした。


 勝った――のか。


 実感が追いつかない。


 だが次の瞬間、白銀の騎士の身体が光の粒となって崩れ始める。


『第二の試練――“力”』


 エルドは静かに告げた。


『継承候補アイリス。お前はこれを突破した』


「……っ!」


 その言葉が耳に届いた瞬間、アイリスの全身から力が抜けた。


 棒を取り落としそうになったところを、ビルセイヤが駆け寄って支える。


「よくやった」


 短い言葉だった。


 けれど、その一言だけで、胸の奥が熱くなる。


「び、ビルセイヤさん……私……」


「ああ」

 ビルセイヤは小さく笑った。

「ちゃんと、お前の力で勝ったんだ」


 セシリアも、エミリアも、ツバサもすぐに駆け寄ってくる。


「すごかったわ、アイリス!」

「最後の連撃、すごく綺麗でした!」

「やるじゃねえか、王女様」


 口々にかけられる言葉に、アイリスはようやく実感した。


 本当に、越えたのだ。


 第一の試練“心”。


 そして、第二の試練“力”。


 残るは、あと一つ。


 その時、白い空間の奥でアークレイドの思念が静かに頷いた。


『見事だった、継承候補』


 その声には、もはや最初のような試す色は薄れていた。


『だが、最後の試練こそが最も重い』


 闘技場が光に包まれ、ゆっくりと消えていく。


 代わりに現れたのは――巨大な一本の樹だった。


 空へ届くほど高く、枝葉は星空のように輝き、幹には無数の翡翠色の光が流れている。


 圧倒的な存在感。


 それを見た瞬間、アイリスは直感した。


 ――あれが、世界樹に連なるものだ。


『第三の試練――“絆”』


 アークレイドの思念の声が、静かに響く。


『お前が何を信じ、誰と歩むのか。その答えを示してもらおう』


 翡翠の大樹の根元に、ゆっくりと新たな扉が現れる。


 最後の試練が、ついに始まろうとしていた。



---


第二章 第百一話


王家の翡翠の加護


――続く。


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