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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
鍛冶革命編

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第百話 第二の試練・力

 白い空間の奥に現れた巨大な闘技場は、まるで古代神殿をそのまま切り取ったかのような場所だった。


 石造りの床には翡翠色の紋様が刻まれ、円形の闘技場を囲む壁には、蔦を思わせる装飾が幾重にも走っている。頭上には天井すら見えず、ただ薄緑の光だけが淡く降り注いでいた。


 その闘技場の中央に、白銀の鎧を纏った騎士が立っている。


 全身を覆う甲冑には傷一つなく、手にした長槍は静かに床へ突き立てられていた。だが、その佇まいだけで分かる。


 ――強い。


 ただそこに立っているだけで、空気が張り詰める。


 アイリスはごくりと喉を鳴らした。


『第二の試練――“力”』


 アークレイドの思念の声が、闘技場全体に響く。


『第一の試練で、お前は己の心を示した。ならば次は、その心を支えるだけの力があるかを示せ』


 白銀の騎士が、ゆっくりと長槍を持ち上げた。


『あれは“守護騎士エルド”――世界樹の継承候補を見極めるために生まれた、試練の番人だ』


「……あれと戦うんですか」


 アイリスの声は強張っていた。


 無理もない。


 向かい合っただけで分かる。あの騎士は、今まで戦ってきた魔物や人間の戦士とは、まるで格が違う。


『そうだ』


 アークレイドの思念が告げる。


『ただし、この試練において重要なのは勝敗だけではない。お前が己の力をどう使い、どう道を切り開くか――それを見る』


 アイリスは小さく息を吐いた。


 そして、腰の剣へ手をかける。


 だが、その前にビルセイヤが一歩前へ出た。


「アイリス」


「……はい」


「焦るな」


 ビルセイヤは静かに言う。


「相手が強いのは見れば分かる。だからこそ、真正面から力比べをする必要はない」


 その言葉に、アイリスははっとする。


 ビルセイヤはさらに続けた。


「お前がこの数日で学んだのは、剣だけじゃない。棒術、身体強化、魔法。全部をどう繋げるかを考えろ」


「全部を……」


「そうだ」


 今度はツバサが口を開く。


「一つの型に拘るな。お前はウィルみたいな純粋な剣士じゃねえ。だったら、お前の武器を全部使え」


 セシリアも一歩前へ出る。


「落ち着いて。アイリスはもう、前みたいに勢いだけで突っ込む子じゃないでしょ?」


 エミリアも優しく微笑んだ。


「あなたは、ちゃんと考えて戦える人です」


 仲間たちの言葉が、少しずつアイリスの呼吸を整えていく。


 そうだ。


 怖いのは変わらない。


 でも、一人じゃない。


 それに――第一の試練を越えた今の自分なら、きっとできる。


「……はい」


 アイリスはしっかりと頷いた。


 そして腰の剣ではなく、試練の空間に現れていた長めの木製戦棍を手に取る。


 剣ではなく、まずは自分に一番馴染む間合いで戦うために。


 その選択を見て、ビルセイヤがわずかに口元を緩めた。


「いい判断だ」


 白銀の騎士エルドが、静かに槍を構える。


 無駄のない半身。まるで堅牢な城壁のように隙がない。


『――始めよ』


 アークレイドの宣言と同時に、騎士が消えた。


「っ!?」


 アイリスの目が見開かれる。


 速い。


 次の瞬間には、もう目の前に長槍が迫っていた。


「きゃっ!?」


 咄嗟に棒を横へ構える。


 ガァンッ!!


 重い衝撃が腕を痺れさせ、そのままアイリスの身体が大きく吹き飛ばされた。


「アイリス!」


 セシリアが叫ぶ。


 だが、アイリスは床を転がりながらも、すぐに立ち上がった。


 痛い。


 腕がじんじんと痺れている。


 今の一撃だけで分かる。相手はまだ本気ではない。それでも、自分より遥かに上だ。


 それでも――膝は折らない。


「まだ……!」


 身体強化を足に集中させ、一気に踏み込む。


 棒で間合いを詰め、横薙ぎに払う。


 だが、エルドは槍の柄で軽く受け流しただけだった。


 そのまま返す石突きが、アイリスの脇腹を打つ。


「うっ……!」


 息が詰まる。


 さらに追撃の突き。


 アイリスは無理やり身を捻ってかわしたが、頬が浅く切れた。


「くっ……!」


 圧倒的だった。


 棒術の間合いに持ち込んでも、相手の槍捌きが上回る。


 剣に持ち替える余裕もない。


 まるで、自分の動きをすべて読まれているかのようだった。


『単調だ』


 初めて、守護騎士エルドが口を開いた。


 低く、感情の薄い声だった。


『踏み込みは悪くない。だが、その先が素直すぎる。読みやすい』


「っ……」


 言い返せない。


 まるで、ツバサに訓練で言われたことをそのまま突きつけられた気分だった。


 その一瞬の動揺を逃さず、エルドの槍が再び閃く。


 ガンッ!


 今度は棒ごと弾かれた。


「きゃあっ!?」


 武器が手から離れ、床を転がる。


 丸腰。


 しかも、エルドの槍先はすでにアイリスの喉元へ届く位置にあった。


 終わった――そう思った、その瞬間。


「――止まるな、アイリス!」


 ビルセイヤの声が飛んだ。


「お前にはまだ剣も魔法もあるだろ!」


 その一言で、アイリスの意識が引き戻される。


 そうだ。


 自分は棒だけじゃない。


 次の瞬間、アイリスは後ろへ飛び退きながら腰の剣を抜いた。


 同時に左手を前へ突き出す。


「《ウィンド》!」


 風の魔法が足元の砂塵を一気に巻き上げた。


 視界が翡翠色の土煙に覆われる。


 エルドの動きが、一瞬だけ止まった。


「今だ!」

 ツバサが叫ぶ。

「正面から行くな、回れ!」


「はいっ!」


 アイリスは風に紛れて横へ走る。


 身体強化を脚に集中。


 土煙の外縁を回り込みながら、今度は火の魔法を放った。


「《フレイムアロー》!」


 炎の矢が横合いからエルドへ飛ぶ。


 だが、騎士はそれすら槍の一振りで打ち払った。


 ――でも、それでいい。


 今のは牽制だ。


 炎で意識を逸らし、その隙にアイリスはさらに距離を詰める。


 剣を振るう直前、今度は足元に水を走らせた。


「《アイス》!」


 床の一部が凍り、エルドの足元を滑らせる。


 ほんのわずか。


 だが、その“わずか”こそが欲しかった。


「はぁぁぁっ!」


 全力の踏み込み。


 剣を振り下ろす――と見せかけて、直前で柄を返し、体勢を崩したエルドの槍の内側へ潜り込む。


「え……!?」


 セシリアが目を見開いた。


 その動きは、剣術というより体術に近い。


 ツバサに教わった合気道の足運びと崩しを、無理やり剣の間合いへ落とし込んだ形だった。


 アイリスはそのままエルドの腕を払うように剣の柄をぶつけ、さらに体勢を崩させる。


 そこへ、肘打ちのように肩をぶつけた。


 がくり、と白銀の騎士の上体が揺れる。


「今っ!」


 ビルセイヤが叫ぶ。


 アイリスは迷わなかった。


 剣を捨てるように逆手へ持ち替え、空いた右手で床に転がっていた棒を拾い上げる。


 そして、棒術の全力の一撃を叩き込んだ。


「うあああああっ!!」


 ゴォンッ!!


 鈍い衝撃音が闘技場に響く。


 棒の一撃は、エルドの胴へ正面から入った。


 白銀の騎士が数歩よろめき、初めて大きく後退する。


「やった……!」


 アイリスが息を切らしながら叫ぶ。


 だが、エルドは倒れなかった。


 数歩下がっただけで踏みとどまり、ゆっくりと顔を上げる。


 その兜の奥から、淡い光が強く灯った。


『……なるほど』


 守護騎士の声が、先ほどよりもわずかに低くなる。


『ようやく、“自分の戦い方”を見せたか』


 その瞬間、エルドの全身から放たれる圧が一段階跳ね上がった。


「え……?」


 アイリスの顔が引きつる。


 まるで、今までは様子見だったと言わんばかりの変化。


 ビルセイヤも表情を引き締めた。


「ここからが本番か……!」


『継承候補よ』


 エルドが槍を構え直す。


『試練とは、相手を一度揺らして終わりではない。己の力を最後まで貫いてこそ意味がある』


 白銀の槍が翡翠色の光を纏う。


 次の一撃は、さっきまでとは比べものにならない。


 アイリスは荒い呼吸を整えながら、剣と棒を握り直した。


 怖い。


 全身が痛い。


 それでも、今の一撃で分かった。


 通じないわけじゃない。


 工夫して、考えて、自分の全部を繋げれば、ちゃんと届く。


「……まだ、終わってません」


 アイリスは唇を引き結ぶ。


「私は、こんなところで負けません!」


 その宣言に応えるように、胸元の翡翠が淡く輝いた。


 白銀の騎士が地を蹴る。


 アイリスもまた、前へ踏み込んだ。


 第二の試練――“力”。


 それは今、ようやく本当の勝負を迎えようとしていた。



---


第二章 第百話


第二の試練・力


――続く。


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