表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
鍛冶革命編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
147/159

第九十八話 継承者の試練

 王家の密談室。


 重苦しい沈黙の中、開かれた木箱の中央には、淡い緑色の光を宿す一粒の種子が静かに横たわっていた。


 ――世界樹ユグドラシルの種子。


 それが本物だと告げられた今も、ビルセイヤたちはどこか現実味を持てずにいた。


「これが……世界樹の種子……」


 アイリスが震える声で呟く。


 翡翠のペンダントに続き、今度は木箱までもが彼女に反応した。

 もはや偶然では片付けられない。


 この場にいる全員が、それを理解していた。


「アイリス」


 ライオット国王が静かに娘の名を呼ぶ。


「もう一度、その種子に触れてみなさい」


「は、はい……」


 アイリスは緊張した面持ちのまま、木箱へ一歩近付いた。


 室内にいる全員の視線が、彼女の指先へ集まる。


 ゆっくりと伸ばされた白い指先。


 それが、淡く光る種子へ触れた――その瞬間だった。


 カァァァァァッ――!


 翡翠色の光が、爆発するように溢れ出した。


「っ!?」


 セシリアが思わず目を細める。


 エミリアは息を呑み、ツバサは反射的にアイリスの前へ出ようとした。


 だが、その一歩よりも早く。


 種子から伸びた光が、細い蔓のようにアイリスの腕へ絡みついた。


「きゃっ……!」


 アイリスが短く悲鳴を上げる。


 だが、痛みはないらしい。驚きに目を見開いているだけだ。


 蔓のような光はそのまま腕を伝い、胸元の翡翠のペンダントへと流れ込む。


 次の瞬間――


 部屋の床一面に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「なっ……!」


 ビルセイヤが息を呑む。


 それは見たこともない術式だった。


 魔法陣というより、古代文字と樹木の紋様が幾重にも重なり合った神代の陣。

 中心に立つアイリスを核にして、翡翠色の光が幾重もの円を描いていく。


「アイリスから離れろ!」


 ウィルが叫ぶ。


 だが、その声と同時に光が一気に膨れ上がった。


 視界が真っ白に染まる。


 ビルセイヤは咄嗟に腕で目を庇った。


 そして――


 次に目を開けた時、そこはもう王城の密談室ではなかった。


◇◇◇


 どこまでも白い空間だった。


 天も地も、境界が分からない。


 ただ、自分が確かに立っているという感覚だけがある。


「……ここは」


 ビルセイヤは周囲を見回した。


 すぐ近くに、セシリア、ツバサ、エミリア、そしてアイリスがいる。

 どうやら全員まとめて巻き込まれたらしい。


「何これ……空間転移か?」


 ツバサが眉をひそめる。


「でも、転移魔法とは少し違います……」


 エミリアが不安そうに辺りを見渡した。


「アイリス、大丈夫か?」


 ビルセイヤが声をかけると、アイリスは胸元のペンダントを押さえながら頷いた。


「は、はい……。でも、私にも何が起きたのか……」


 その時だった。


『ようやく来たか』


 不意に、低く穏やかな男の声が響いた。


 全員が一斉に振り向く。


 白い空間の奥から、一人の男が歩いてきた。


 長い外套を纏い、片手には一振りの剣。

 年齢は三十代半ばほどに見えるが、その眼差しには人ならざる深みがあった。


 そして何より、ビルセイヤはその顔に見覚えがあった。


「――アークレイド……!」


 思わず名前が口をついて出る。


 王家秘蔵図書庫で見た肖像画。

 建国記に描かれていた英雄の姿。


 そのどれとも一致する顔だった。


 だが、男は苦笑して首を横に振る。


『いや、違う。私は本人ではない』


「違う……?」


『正確には、英雄アークレイドが残した“思念の残滓”だ』


 男は静かに告げる。


『世界樹ユグドラシルの種子に記録された、継承者のための案内役――そう思ってくれればいい』


 その言葉に、全員が息を呑んだ。


 アークレイド本人ではない。

 だが、本人が遺した意志の一部であることは間違いない。


『そして、そこにいる娘』


 思念のアークレイドが、まっすぐアイリスを見た。


『お前が、今代の継承候補だな』


「……っ」


 アイリスの肩が震える。


 だが彼女は逃げなかった。

 ぎゅっと拳を握り締め、正面からその視線を受け止める。


「……はい。たぶん、そうみたいです」


 まだ自信はない。戸惑いも大きい。


 それでも、王女はしっかりと答えた。


 アークレイドの思念は、わずかに目を細めた。


『良い目だ。少なくとも、ただ守られるだけの姫ではないらしい』


 その言葉に、アイリスは少しだけ目を丸くした。


 ビルセイヤは横目で彼女を見る。


 ――そうだ。


 この数日で、アイリスは確かに変わった。


 王女として守られるだけだった少女が、自分の足で立ち、剣を握り、冒険者になると宣言した。

 その変化を、今ここで試されようとしているのだ。


『だが、継承候補であることと、継承者になれることは別だ』


 思念のアークレイドは静かに告げる。


『世界樹ユグドラシルの力は、世界を支える力だ。半端な覚悟の者に託せば、国どころか世界そのものを滅ぼしかねん』


 白い空間に、ぴんと緊張が走る。


『ゆえに、継承候補には試練が与えられる』


「試練……」


 アイリスが小さく呟いた。


『そうだ』


 アークレイドの思念は頷く。


『これより、お前には“継承者の試練”を受けてもらう』


 その瞬間、白い空間の奥に巨大な扉が現れた。


 翡翠色の蔦が絡みついた、古代神殿の門のような扉だ。


 圧倒されるほど大きい。


 だが、その前に立った瞬間、ビルセイヤは直感した。


 ――あの扉の向こうに、試練がある。


『試練は三つ』


 アークレイドの思念が続ける。


『第一の試練は“心”――己が何のために力を求めるのかを問うもの』


『第二の試練は“力”――世界樹の加護に値するだけの資質を測るもの』


『第三の試練は“絆”――一人ではなく、何を信じ、誰と歩むかを問うもの』


 アイリスはごくりと喉を鳴らした。


 重い。


 想像していた以上に、ずっと重い試練だ。


「私が……それを全部?」


『無論だ』


 アークレイドの思念は容赦なく頷く。


『継承者とは、ただ力を受け継ぐ者ではない。世界の命脈を背負う者だ。その程度で怯むなら、今ここで引き返した方がいい』


 厳しい言葉だった。


 だが、アイリスは俯かなかった。


 むしろ、その瞳に小さな火が灯る。


「……やります」


 その一言に、セシリアが息を呑む。


 ツバサは口元をわずかに上げた。


 ビルセイヤは、静かにアイリスを見つめる。


「アイリス」


 ビルセイヤが口を開いた。


「無理に背負う必要はない。本当に危険なら、引くという選択だって――」


「嫌です」


 アイリスは、きっぱりと言い切った。


 その声音には、驚くほど強い意志があった。


「今までの私は、ずっと守られる側でした。王女だからって、みんなに守られて、危ないことから遠ざけられて……それが当たり前だと思ってたんです」


 胸元のペンダントをぎゅっと握り締める。


「でも、ビルセイヤさんたちと出会って、外の世界を知って、初めて思ったんです」


 真っ直ぐな瞳が、ビルセイヤを見上げる。


「私は、ただ守られているだけじゃ嫌だって」


 その言葉に、ビルセイヤは何も言えなかった。


 それは紛れもなく、アイリス自身の本音だったからだ。


「世界樹が私を選んだ理由なんて、まだ分かりません。継承者なんて言われても、正直、怖いです」


 そこで一度、息を吸い込む。


「でも――それでも逃げたくありません」


 その瞬間、胸元の翡翠がふわりと光った。


 淡く、優しく、まるで彼女の決意に応えるように。


『……なるほど』


 アークレイドの思念が目を細める。


『少なくとも、覚悟だけは本物らしい』


 すると今度は、ツバサが一歩前へ出た。


「おい、試練ってのは分かったけどよ」


 腕を組み、アークレイドを睨む。


「まさかアイリス一人だけで行かせる気か?」


『本来なら継承候補一人の試練だ』


「本来なら、だろ?」


 ツバサは鼻を鳴らした。


「こいつはまだ駆け出しなんだ。そんなもんに一人で突っ込ませるほど、俺たちは薄情じゃねえよ」


「ツバサさん……」


 今度はセシリアも前へ出る。


「私も行きます。アイリスはもう仲間ですから」


「ええ」


 エミリアも力強く頷いた。


「私も一緒です」


 最後に、ビルセイヤが静かに前へ出る。


「俺もだ」


 その一言に、アイリスが目を見開く。


「ビルセイヤさん……」


「お前の試練だ。全部を代わりに背負うことはできない」


 ビルセイヤは穏やかな声で言う。


「でも、一人で行かせるつもりもない」


 それは、彼らしい言葉だった。


 守るだけではない。

 甘やかすだけでもない。


 けれど、仲間として隣に立つ。


 その在り方に、アイリスの目がじわりと潤む。


『……面白い』


 アークレイドの思念が小さく笑った。


『第三の試練に“絆”を置いた理由が、少し分かった気がするな』


 そう言うと、彼は扉の方へ向き直る。


『よかろう。特例として、お前たちも同行を認める』


 だが、と声が低くなる。


『忘れるな。試練の中心はあくまで継承候補――アイリスだ。お前たちは支えることはできても、代わりに越えることはできない』


「分かっています」


 ビルセイヤが答える。


『ならば進め』


 翡翠の扉が、ゆっくりと音を立てて開いていく。


 その先に広がっていたのは、深い森のような景色だった。


 空は薄緑に輝き、巨大な樹々が天を突くように伸びている。

 現実の森ではあり得ない、神秘そのものの光景。


 世界樹の記憶の中にある森――そう呼ぶべき場所だった。


 アイリスはごくりと喉を鳴らし、それでも一歩前へ出る。


 ビルセイヤたちも、その後ろに続いた。


 こうして。


 王女アイリスの運命を決める**“継承者の試練”**が、ついに幕を開けたのだった。


第二章 第九十八話


継承者の試練


――続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ