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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第九十七話 王家の秘話

 王城の一室――普段は国王や王妃たちが密談に用いるという重厚な会議室へ、ビルセイヤたちは案内されていた。


 室内には、ライオット国王、第一王妃ミリア、第二王妃シズク、ウィル王太子、シリス王女、そしてアイリスが揃っている。


 アルティア王家の中枢が、ほぼ勢揃いだった。


 そんな中、テーブルの中央には、先ほどまでアイリスが身に着けていた翡翠のペンダントが、赤い布の上にそっと置かれている。


 小さな装飾品だ。


 だが今のビルセイヤには、それが並の宝石には到底思えなかった。


 静かにそこにあるだけで、妙な存在感を放っている。

 まるで、長い時を超えて何かを待ち続けてきたような――そんな重みがあった。


「改めて話そう」


 沈黙を破ったのは、ライオット国王だった。


 いつもの柔らかな笑みはない。

 その表情には、王家の秘を語る者としての厳しさが浮かんでいる。


「先ほど訓練場で話した通り、あのペンダントは世界樹ユグドラシルの欠片だ」


 アイリスが思わず胸元へ手を当てる。


 ついさっきまで自分が身に着けていた物が、世界を救う鍵の一部かもしれない――そう告げられれば、動揺しない方がおかしい。


「そんな……」


 アイリスが呆然と呟いた。


「私、ずっとただの家宝だと思っていました……」


「実際、表向きにはそのように扱ってきた」


 ライオット国王は静かに頷く。


「この国にとって、あまりにも重要すぎる代物だからだ」


「でも、どうしてアイリスがそれを?」


 セシリアが疑問を口にする。


「王家の秘宝なら、普通は国王陛下か王太子殿下が持つものでは……」


「本来ならそう考えるだろうな」


 ライオット国王は苦く笑った。


「だが、このペンダントだけは違う」


 そう言って、国王はシズク王妃へ視線を向ける。


 シズク王妃は静かに頷き、穏やかな声で言葉を継いだ。


「アイリスが生まれた時のことです」


 その一言で、部屋の空気が少しだけ変わる。


「この子がまだ赤子だった頃、王家の宝物庫に保管してあった翡翠が、突然光を放ったのです」


「光を……?」


 エミリアが目を丸くする。


「ええ」


 今度は第一王妃ミリアも頷いた。


「それまで何百年もの間、ただの秘宝として保管されていたものが、アイリスが生まれたその日だけ反応したのです」


 ビルセイヤは思わず身を乗り出す。


「まさか……継承者として?」


「そこまでは分からぬ」


 ライオット国王が低く答える。


「だが、王家の古い記録にはこう残されている。

 ――『世界樹の欠片は、時に持ち主を選ぶ』とな」


 その言葉に、会議室の空気が一段と張り詰めた。


 持ち主を選ぶ。


 それはつまり、アイリスが偶然これを身に着けていたわけではないということだ。


「では……」


 ビルセイヤは慎重に言葉を選ぶ。


「アイリスが、世界樹ユグドラシルの継承者である可能性がある、と?」


 ライオット国王はすぐには答えなかった。


 代わりに口を開いたのは、ウィルだった。


「可能性は高い」


 王太子は真剣な眼差しで妹を見る。


「少なくとも、今日のように明確に反応した例は、王家の記録にもほとんど残っていない」


 アイリスは自分の両手を見つめた。


 訓練場で、確かに身体がふわりと浮いた。


 あれは風魔法でも、身体強化でもない。

 自分の意志で起こした現象ですらなかった。


「私が……継承者……」


 その声は、かすかに震えていた。


 王女として育ってきた少女が、突然“世界を救う鍵かもしれない”と告げられたのだ。

 動揺しないはずがない。


 そんな妹を見て、シリスがそっと微笑む。


「大丈夫よ、アイリス」


 その声音は、姉としての優しさに満ちていた。


「いきなり全部を背負えと言われているわけではないもの」


「お姉様……」


「そうだ」


 ライオット国王も頷く。


「我らが知りたいのは、あくまで真実だ。お前を追い詰めるために話しているわけではない」


 だが――と、国王は続けた。


「もし本当にアイリスが継承者であるならば、これはアルティア王国だけの問題では済まない」


 重い言葉だった。


 アークレイドが残した建国記。

 異界の災厄。

 世界樹ユグドラシル。


 それらが一本の線で繋がり始めた今、もはやこれは一王国の家宝の話ではない。


「一つ、王家に伝わる古い伝承がある」


 ライオット国王はそう言って、テーブルの上の翡翠へ視線を落とした。


「建国王アルト・アルティアは、英雄アークレイドと共に一つの約束を交わした」


「約束……?」


 ビルセイヤが呟く。


「『いずれ世界に再び災厄が訪れる時、翡翠は継承者のもとで目覚める』――とな」


 その言葉に、誰もが息を呑んだ。


 あまりにも出来すぎている。


 アークレイドが建国記に残した警告。

 そして王家に伝わる伝承。


 まるで、千年前からこの瞬間が定められていたかのようだった。


「つまり」


 ツバサが腕を組む。


「アイリスのペンダントが光ったってことは、災厄が近い可能性があるってことか」


「その解釈になる」


 ウィルが低く答える。


 セシリアが不安そうにアイリスを見る。

 エミリアもまた、言葉を失っていた。


 アイリス本人はまだ呆然としている。


 だが、ビルセイヤの中では、別の感覚が生まれていた。


 胸の奥で、ばらばらだったものが少しずつ繋がっていく。


 アークレイドは言っていた。


 世界樹を探せ。

 世界樹の継承者は災厄に対抗する鍵となる。


 そして今、その欠片がアイリスに反応した。


 ここまで来て、偶然で済ませるには無理がある。


「陛下」


 ビルセイヤは真っ直ぐライオット国王を見た。


「他に記録はありませんか? 世界樹の継承者について、何か」


「ある」


 国王は短く答えた。


「だが、それは王家の中でもごく一部しか知らぬ記録だ」


 そう言って、部屋の隅で控えていた老執事へ視線を向ける。


「持ってきてくれ」


「かしこまりました」


 老執事は一礼すると、部屋の奥にある棚から、細長い木箱を丁重に取り出してきた。


 古びた箱だった。


 だが、ただ古いだけではない。

 表面には複雑な紋様が刻まれ、その中央には世界樹を思わせる意匠が浮かんでいる。


「これは……」


 ビルセイヤが目を細める。


「王家に伝わる、もう一つの秘宝だ」


 ライオット国王は静かに告げた。


「世界樹の継承者が現れた時にのみ開かれる、と伝えられている」


 その場の全員の視線が、木箱へ集まった。


 ライオット国王は一度アイリスを見る。


「アイリス。お前がこれに触れてみなさい」


「わ、私がですか!?」


「そうだ」


 アイリスは緊張した面持ちで立ち上がると、ゆっくりと木箱へ手を伸ばした。


 指先が箱に触れる。


 その瞬間――


 カァァァァァ……!


 翡翠色の光が、木箱から溢れ出した。


「なっ……!?」


 部屋の全員が目を見開く。


 箱の紋様が次々と発光し、まるで生きているかのように脈打ち始める。


 そして――


 カチリ。


 小さな音を立てて、固く閉ざされていた蓋がひとりでに開いた。


「開いた……」


 セシリアが息を呑む。


 木箱の中に納められていたのは、一粒の種だった。


 淡い緑色の光を宿した、神秘的な種。


 ただの植物の種には見えない。

 小さなそれ一つに、森の息吹そのものを閉じ込めたような、不思議な存在感があった。


「これが……」


 アイリスが震える声で呟く。


 ライオット国王は、厳かな声で告げた。


「――世界樹ユグドラシルの種子だ」


 世界樹の欠片に続き、今度は種子まで現れた。


 それはつまり――


 アイリスが、ただの王女ではないことを決定的に示していた。


 会議室に沈黙が落ちる。


 誰もが言葉を失っていた。


 世界樹ユグドラシル。


 アークレイドが遺した記録にあった、世界を救う鍵。


 その欠片がアイリスのもとで目覚め、さらに王家の秘宝である種子まで反応した。


 もはや疑いようがない。


 アイリスは“何か”に選ばれたのだ。


 ビルセイヤは、無意識に拳を握り締めていた。


 英雄アークレイドが遺した言葉。

 建国王が残した記録。

 そして、目の前で明かされた王家の秘話。


 すべてが、これから始まる何かへ繋がっている。


 世界樹の継承者。


 その意味が何を指すのか、まだ誰にも分からない。


 だが、一つだけ確かなことがある。


 アイリスの運命は、もう後戻りできないところまで動き始めてしまったのだ――。


第二章 第九十七話


王家の秘話


――続く。


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