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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第九十二話 王女の決意

 王家秘蔵図書庫での調査を終えたビルセイヤたちは、王城内の応接室へ案内されていた。


 窓の外には、夕暮れに染まる王都の空が広がっている。


 テーブルの上には香り高い紅茶と焼き菓子が用意されていた。


 だが、誰も手を付けようとはしない。


 建国記に記されていた内容が、あまりにも衝撃的だったからだ。


 異界の魔神は、ただの先触れ。

 世界の外側に存在する真なる災厄。

 そして、世界樹ユグドラシル。


「正直、頭が追いつかないわ」


 セシリアが苦笑する。


「私もです……」


 エミリアも静かに頷いた。


 ツバサは腕を組んだまま、真剣な表情で呟く。


「だが、アークレイドが意味もなくあんな記録を残すとは思えない」


 その言葉に、誰もが頷いた。


 実際に会ったからこそ分かる。


 あの英雄は、最後まで世界を守ろうとしていた。


 その時だった。


 コンコン。


 扉がノックされる。


「どうぞ」


 ビルセイヤが返事をすると、勢いよく扉が開いた。


「失礼します!」


 元気な声と共に現れたのは、アイリス王女だった。


「アイリス王女?」


 セシリアが首を傾げる。


 だが、いつものアイリスとは少し違っていた。


 明るい笑顔ではない。


 その表情には、何か大きな決断をした者の覚悟が宿っていた。


「皆さんに、お話があります」


 部屋の空気が変わる。


 アイリスは真っ直ぐにビルセイヤたちを見つめた。


 そして――。


「私、冒険者になります!」


 沈黙。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


「……は?」


 ツバサが、間の抜けた声を漏らした。


「冒険者?」


 セシリアも目を丸くする。


「はい!」


 アイリスは力強く頷いた。


「私はずっと憧れていたんです! 皆さんのような冒険者に!」


 その瞳は本気だった。


 だが、あまりにも突拍子もない。


「いや、待て待て待て」


 ツバサが慌てて手を振る。


「王女だろ?」


「王女です!」


「なら無理だろ!」


 当然の反応だった。


 アイリスはアルティア王国第二王女。

 王族中の王族である。


 普通に考えれば、冒険者になれる立場ではない。


 しかし。


「許可は取ってあります!」


 アイリスは胸を張った。


 全員が固まる。


「え?」


「お父様にお願いしました! お母様にも! お兄様にも!」


 嫌な予感がした。


 その瞬間、再び扉が開く。


「はぁ……」


 深いため息と共に現れたのは、ウィル王太子だった。


「止めたんだ」


 彼は疲れ切った顔で言う。


「全力で止めた。だが、聞かなかった」


 完全に苦労人の顔だった。


 さらにその後ろには、ライオット国王まで立っている。


 国王もまた、疲労の色を隠せていなかった。


「陛下まで……」


 ビルセイヤが呟く。


「反対した」


 ライオット国王は即答した。


「当然、反対した」


 そして頭を抱える。


「だがな……三日三晩、説得された」


 その場にいた全員の視線が、アイリスへ集まる。


 アイリスはなぜか誇らしげだった。


「頑張りました!」


「褒めるところじゃない!」


 ウィルが即座に突っ込む。


 部屋に小さな笑いが広がった。


 だが、アイリスの表情はすぐに真剣なものへ戻る。


「私は本気です」


 静かな声だった。


「世界を見たいんです」


「自分の足で歩きたいんです」


「そして――」


 一瞬だけ、アイリスの視線がビルセイヤへ向く。


 だがすぐに逸らした。


「皆さんと一緒に、冒険したいんです」


 再び、沈黙が落ちる。


 セシリアは柔らかく微笑み。

 エミリアは驚いたまま目を瞬かせ。

 ツバサは困ったように苦笑していた。


 そして、ビルセイヤはアイリスの瞳を見つめていた。


 そこにあったのは、ただの憧れではない。


 王女として守られるだけではなく、自分の意志で歩こうとする少女の決意だった。


 ライオット国王が静かに口を開く。


「ビルセイヤ殿」


「はい」


「無理に引き受ける必要はない」


 父親としての声だった。


「だが、もしこの子が本当に冒険者として歩むなら……君たちのような者の側で学ばせたい」


 ウィルも頷く。


「アイリスは頑固だ。一度決めたら簡単には曲げない」


「お兄様、それ褒めていますか?」


「褒めてはいない」


 即答だった。


 また少しだけ空気が和らぐ。


 ビルセイヤは小さく息を吐いた。


 そして、アイリスへ向き直る。


「冒険者は楽しいことばかりじゃありません」


「危険もあります」


「怖い思いもします」


「それでも、本当に来る覚悟がありますか?」


 アイリスは迷わなかった。


「あります」


 真っ直ぐな返事だった。


「私は、自分の目で世界を見たいです」


「そして、誰かに守られるだけじゃなく、私も誰かを守れる人になりたいです」


 その言葉に、ビルセイヤは静かに頷いた。


「分かりました」


 アイリスの顔がぱっと明るくなる。


「では――」


「ただし」


 ビルセイヤは真剣な表情で続けた。


「俺たちと一緒に来るなら、王女としてではなく、一人の仲間として扱います」


「甘やかしません」


「危険だと判断したら、必ず従ってもらいます」


 アイリスは一瞬だけ驚いた後、嬉しそうに笑った。


「はい!」


「よろしくお願いします、ビルセイヤさん!」


 その笑顔は、王女のものではなかった。


 新しい一歩を踏み出そうとする、一人の少女の笑顔だった。


 そして――。


 誰も気付いていなかった。


 アイリスの胸元で揺れる小さなペンダントが、一瞬だけ淡い緑色の光を放ったことに。


 まるで、世界樹ユグドラシルの名に応えるかのように。


第二章 第九十二話


王女の決意


――続く。

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