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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第九十話 王家秘蔵図書庫

 ライオット国王の許可により、ビルセイヤたちは王家秘蔵の資料を閲覧することになった。


 本来なら、王族とごく一部の重臣しか立ち入ることを許されない場所。

 アルティア王国が建国されて以来、千年以上にわたり守られ続けてきた知識の宝庫――王家秘蔵図書庫である。


「こちらです」


 案内役を務めるのは、ウィル王太子だった。


 謁見を終えたビルセイヤたちは、彼に導かれながら王城の地下深くへと足を進めていた。


 通路を進むごとに、空気が少しずつ冷たくなっていく。


 途中には何重もの扉があり、そのたびに近衛騎士が身分を確認し、厳重な錠を解いていく。

 警備の厳しさだけで、この場所が王家にとってどれほど重要な意味を持つかが伝わってきた。


「まるで宝物庫ですね」


 エミリアが思わず感嘆の声を漏らす。


 するとウィルが、小さく笑みを浮かべた。


「実際、王家にとっては宝物庫以上に重要な場所だ」


「金銀財宝は、失っても取り戻せる」


「だが、歴史と知識は違う。一度失われれば、二度と元には戻らない」


 静かな声だった。


 だが、その言葉には確かな重みがあった。


 ビルセイヤは小さく頷く。


 王太子としての責任感。

 いや、それだけではない。


 国を背負う者として、何を守るべきかを理解している者の言葉だった。


 やがて一行は、ひときわ大きな鉄扉の前へ辿り着いた。


 扉には複雑な紋様が刻まれ、中央にはアルティア王家の紋章が据えられている。

 近衛騎士が恭しく一礼し、腰の鍵束から一本の古い鍵を取り出した。


 重い錠が外される。


 ギィィィ……と鈍い音を立て、鉄扉がゆっくりと開いていく。


 その先に広がっていた光景に、セシリアが思わず息を呑んだ。


「……すごい」


 無数の本棚。


 天井まで届く巨大な書架。


 そこには古びた書物、革張りの記録帳、封印の施された巻物まで、数え切れないほどの資料が並べられていた。


 薄暗い空間の中、魔道灯の柔らかな光が書架を照らし出している。

 まるで、知識そのものが形になって積み上げられているようだった。


「これ、全部……本ですか?」


 エミリアが目を丸くする。


「一部だ」


 ウィルが苦笑する。


「王城全体で管理している資料のうち、ここにあるのは三割ほどに過ぎない」


「三割!?」


 今度はツバサが素っ頓狂な声を上げた。


 その量は、もはや図書館の域を超えている。

 一つの学術機関どころか、王国そのものの記憶を保管するための巨大な生き物のようにすら感じられた。


「こっちだ」


 ウィルは振り返り、さらに奥へと進んでいく。


 本棚の間を縫うように歩き、やがて一つの小部屋の前で足を止めた。


 他の区画よりもさらに重厚な扉。

 そこには古い文字で、こう刻まれていた。


 ――建国記録保管室。


「ここにある」


 ウィルが静かに言う。


「アークレイドに関する記録が」


 ビルセイヤたちは、思わず息を呑んだ。


 ついに辿り着いたのだ。


 千年前の英雄、その足跡へ。


 部屋の中は、外の広大な図書庫とは違い、静謐な空気に満ちていた。

 余計な装飾はなく、中央に一つの大きな机が置かれているだけ。


 そして、その机の上に――一冊の分厚い本が鎮座していた。


 革張りの装丁。

 縁には金の細工。

 背表紙には古い文字で題名が刻まれている。


 長い年月を経てもなお失われない威厳が、その一冊にはあった。


「これは?」


 ビルセイヤが問いかける。


 ウィルは本へ視線を落とし、静かに答えた。


「――建国記」


「初代国王アルト・アルティアが遺した記録を、後の王家が書き写し、守り続けてきた写本だ」


 全員が息を呑む。


 王国建国者本人の記録。

 その歴史的価値は、もはや金貨で換算できるようなものではない。


 ウィルは慎重な手つきで本を開いた。


 紙は黄ばんでいるが、保存状態は驚くほど良い。

 そこには古い文字で、びっしりと文章が綴られていた。


 しばらくページをめくり、やがてウィルの手が一つの箇所で止まる。


「ここだ」


 示された頁の上部には、明確に一人の人物の名が記されていた。


 ――我が友アークレイド。


 その文字を見た瞬間、ビルセイヤの胸が強く打った。


 友。


 建国王は、英雄アークレイドをそう呼んでいたのだ。


 戦友でも、臣下でもない。


 友。


 その二文字だけで、二人がどれほど深い絆で結ばれていたのかが伝わってくる。


 ウィルが静かに読み上げる。


『彼は異界より現れし剣士』


『人でありながら、人を超えた強さを持つ』


『幾度となく我らを救い』


『民を守り続けた』


 室内に、ウィルの声だけが響く。


 ビルセイヤたちは、誰も口を挟まず耳を傾けていた。


 千年前の王が見た英雄。

 その姿が、少しずつ言葉として浮かび上がってくる。


 だが――次の一文を見た瞬間、空気が変わった。


 ウィルの声が、わずかに止まる。


「……これは……」


 そして、改めて読み上げた。


『彼は常々、こう語っていた』


『いずれ再び異界の災厄が現れるだろう』


『その時、後を継ぐ者が必要になる』


 沈黙。


 誰も、すぐには言葉を発せなかった。


 まるで千年前の英雄が、未来を予見していたかのような一文だったからだ。


「後を継ぐ者……」


 セシリアが呟く。


 自然と、その場にいた全員の視線がビルセイヤへ集まった。


 アークレイド。

 異界の魔神。

 そして、ビルセイヤへ託された力。


 ここまで重なれば、もはや偶然とは思えない。


 ビルセイヤ自身も、右手を見下ろしていた。


 あの時、確かに英雄は自分に力を託した。

 剣技だけではない。

 意志も、願いも、覚悟も。


 だが、建国記に記されていたのは、それだけではなかった。


 ウィルが次の頁へ手を伸ばす。


 そこには、さらに細かな記述が続いていた。


 アークレイドが初代国王アルトへ遺した言葉。

 魔神を封じるために必要だった代償。

 そして、王家にのみ伝えられてきた“ある警告”。


 ウィルの表情が、目に見えて険しくなる。


「……まさか」


 その一言に、ビルセイヤたちは息を呑んだ。


「何が書いてあるんですか?」


 エミリアが恐る恐る尋ねる。


 ウィルはすぐには答えなかった。


 まるで、そこに書かれている内容を口にすること自体を躊躇うように、じっと文字列を見つめている。


 やがて、低い声で呟いた。


「アークレイドは……ただ魔神を封じたわけじゃない」


 その場の空気が凍り付く。


 ウィルはゆっくりと顔を上げ、ビルセイヤたちを見渡した。


「この記録には、魔神の正体と――」


 一拍置く。


「アークレイドが命を懸けて隠そうとした、“世界最大の秘密”が記されている」


 誰も、呼吸すら忘れたように固まった。


 王家が千年守り続けてきた記録。

 建国王と英雄だけが知っていた真実。

 そして、アークレイドが最後まで口にしなかった理由。


 その全てが、今まさに明かされようとしている。


 ビルセイヤは、無意識に拳を握り締めた。


 アークレイドの言葉が脳裏をよぎる。


『この世界は広い』


『そして、お前が思う以上に深い』


 その意味に、ようやく手が届こうとしていた。


第二章 第九十話


王家秘蔵図書庫


――続く。

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