第八十七話 王都アルティアへの帰還
王家の馬車による旅は驚くほど順調だった。
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アルティア王家直属騎士団の護衛が付いていることもあり、盗賊が近付くことはない。
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魔物も騎士団の気配を察しているのか、遠くから姿を見せるだけだった。
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こうして五日間の旅は大きな問題もなく進み――。
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五日目の昼過ぎ。
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「見えてまいりました」
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騎士の声が馬車の外から聞こえてきた。
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ビルセイヤたちは窓の外を覗く。
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そして。
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「おお……」
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エミリアが思わず声を漏らした。
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地平線の彼方に巨大な城壁がそびえ立っている。
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アルティア王都。
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アルティア王国最大の都市であり、政治・経済・文化の中心地。
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王国の心臓部とも呼ばれる場所だった。
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「何度見ても大きいな」
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ツバサも感心したように呟く。
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高くそびえる白亜の城壁。
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巨大な城門。
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その周囲を行き交う無数の人々。
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地方都市とは比べものにならない規模である。
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やがて馬車は城門へ到着した。
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側面に刻まれたアルティア王家の紋章を確認した門兵たちは、即座に道を開ける。
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王家専用馬車。
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それだけで最優先通行が認められるのだ。
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馬車は王都の大通りを進んでいく。
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石畳の道路。
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整然と並ぶ商店。
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美しい噴水広場。
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露店から漂う香ばしい匂い。
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多くの人々で賑わう活気ある街並み。
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「相変わらず賑やかね」
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セシリアが微笑む。
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だが馬車は街の中心部を抜け、そのまま王城区画へと向かう。
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そして。
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巨大な白亜の城が姿を現した。
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アルティア王城。
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王国の象徴。
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建国以来、歴代国王が統治を行ってきた場所である。
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やがて馬車が停止する。
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王城正門前。
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そこには王国騎士たちが整列していた。
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「到着いたしました」
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騎士が扉を開く。
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ビルセイヤたちは馬車から降り立った。
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その瞬間だった。
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「ビルセイヤさん!」
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聞き覚えのある明るい声が響く。
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次の瞬間。
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一人の少女が駆け寄ってきた。
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陽光を受けて輝く金髪。
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透き通るような青い瞳。
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白と青を基調とした気品あるドレス。
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アルティア王国第二王女。
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アイリス王女だった。
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「お久しぶりです!」
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満面の笑顔だった。
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まるで友人との再会を喜ぶ少女そのもの。
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王族らしい威厳などどこにもない。
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「アイリス王女」
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ビルセイヤが軽く頭を下げる。
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「お久しぶりです」
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「聞きましたよ!」
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アイリスは興奮を隠せない様子だった。
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「古代神殿の冒険!」
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「英雄アークレイド様!」
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「本当に会ったんですよね!?」
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矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
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相変わらずだった。
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王女でありながら冒険譚が大好きな性格は全く変わっていない。
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「アイリス」
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落ち着いた声が響いた。
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少女の後ろから一人の青年が歩いてくる。
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金髪碧眼。
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整った顔立ち。
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白を基調とした王族の礼装。
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アルティア王国第一王子。
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王太子ウィルだった。
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「久しぶりだな、ビルセイヤ」
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穏やかな笑みを浮かべる。
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第三十七話で出会った時と変わらぬ好青年だった。
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「お久しぶりです、ウィル王子」
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ビルセイヤが礼をする。
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するとウィルは苦笑した。
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「そんなに堅苦しくしなくていい」
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「以前も言っただろう?」
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「そうでしたね」
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ビルセイヤも思わず笑う。
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王族でありながら気さくな人物。
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それがウィル王子だった。
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そして。
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ウィルの口元が楽しそうに緩む。
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「ところで」
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「約束は覚えているか?」
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やはりその話だった。
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ビルセイヤは苦笑する。
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「剣の試合ですね」
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「もちろんだ」
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ウィルは即答した。
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「次に会った時は剣を交える約束だったからな」
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「忘れるはずがない」
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剣士同士の約束。
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それは互いにとって大切なものだった。
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「公務が落ち着いたら訓練場を借りよう」
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「その時は王太子ではなく、一人の剣士として相手をしてもらう」
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「望むところです」
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ビルセイヤが答える。
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二人は笑い合った。
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その様子を見ていたアイリスが頬を膨らませる。
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「お兄様ばっかりずるいです!」
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「私も冒険のお話を聞きたいんですよ!」
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その言葉にセシリアたちも思わず笑った。
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懐かしい再会だった。
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しかし。
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和やかな時間は長く続かなかった。
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ウィルの表情が少しだけ引き締まる。
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「父上がお待ちだ」
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ビルセイヤたちも自然と表情を改めた。
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「国王陛下が?」
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「そうだ」
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ウィルは静かに頷く。
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「古代神殿の件について直接話を聞きたいそうだ」
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ついに来た。
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アルティア王国国王との謁見。
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そして――。
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英雄アークレイド。
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異界の魔神。
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王家に伝わる建国神話。
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それらに関する何かが、この王城には眠っているかもしれない。
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ビルセイヤは白亜の王城を見上げた。
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英雄の遺志に導かれるように。
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新たな運命の扉が、静かに開こうとしていた。
第二章 第八十七話
「王都アルティアへの帰還」
――続く。




