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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第八十話 英雄の遺志

 静寂が広がっていた。


 先ほどまで激しい戦いが繰り広げられていたとは思えないほどの静けさだった。


 異界の魔神は消滅した。

 神殿を満たしていた黒い魔力も、もう残っていない。


 千年前から続いていた災厄は、ついに終わったのだ。


 ――それなのに。


 誰一人として、歓声を上げることはできなかった。


 視線の先に立っているのは、一人の英雄。


 アークレイド。


 千年前に世界を救い、そして今また、再び世界を救った男。


 その身体は、白い粒子となって崩れ始めていた。


「アークレイド……」


 ビルセイヤが一歩、近付く。


 英雄は穏やかに微笑んだ。


「そんな顔をするな」


 静かな声だった。


「私は満足している」


 その表情には、後悔がなかった。

 むしろ、長い使命を終えた安堵すら滲んでいる。


「でも……」


 セシリアが唇を噛んだ。


「消えるなんて……」


 アークレイドは小さく首を振る。


「元々、私は死んだ人間だ」

「千年前にな」


 その言葉に、全員が息を呑んだ。


 アークレイドは続ける。


「封印の中で眠っていたのは肉体ではない」

「魂だ」


 英雄は、すでに千年前に命を終えていた。


 ただ使命だけが、彼をこの世界へ繋ぎ止めていたのだ。


「魔神を完全に消滅させた今――」

「私に残された役目は、もうない」


 静かな言葉だった。


 だからこそ重い。


 千年もの間、世界を守るためだけに存在し続けた魂。

 その役目が、ようやく終わったのだ。


「ありがとう……」


 エミリアが涙を浮かべる。


「世界を守ってくれて……」


 アークレイドは優しく微笑んだ。


「礼を言うのはこちらだ」

「最後の戦いを共にしてくれた」


 そして、英雄の視線がビルセイヤへ向けられる。


「ビルセイヤ」


「……はい」


「手を出せ」


 言われるまま、ビルセイヤは右手を差し出した。


 すると、アークレイドがその手にそっと触れる。


 瞬間――温かな光が二人を包んだ。


「これは……?」


 ビルセイヤが目を見開く。


 頭の奥へ、何かが流れ込んでくる。


 剣技。

 戦闘経験。

 魔力操作。

 死線の中で積み上げられた、膨大な技術の断片。


 千年を戦い抜いた英雄の記憶、その一部だった。


「なっ……!?」


 ツバサが目を見張る。


 アークレイドは静かに頷いた。


「私の剣の一部だ」

「本来なら弟子に伝えるべきものだった」


 そして、穏やかに微笑む。


「だが、お前なら使いこなせる」


 ビルセイヤは戸惑いを隠せなかった。


「俺なんかに……」


「お前だからだ」


 即答だった。


「強さだけではない」

「仲間を想う心」

「守るために戦う覚悟」


「それこそが、英雄に必要なものだ」


 胸の奥が熱くなる。


 英雄に認められた。


 その事実の重みが、ずしりと心に響いた。


 アークレイドの身体は、さらに薄くなっていく。


 残された時間は、もう多くない。


「最後に一つ、教えてやろう」


 英雄は天井を見上げた。


「魔神は滅んだ」

「だが、世界の脅威は終わらない」


 意味深な言葉に、ビルセイヤは眉をひそめる。


「この世界は広い」

「そして、お前が思う以上に深い」


 ビルセイヤは真剣な表情で、その言葉を受け止めた。


「いつか分かる」

「その時、お前はさらに強くなるだろう」


 そう言って。


 アークレイドは最後に笑った。


 とても穏やかで、どこか誇らしげな笑みだった。


「後は頼んだ」


 その言葉を残し――


 英雄の身体は光へと変わっていく。


 白い粒子がふわりと舞い上がり、神殿の空へ溶けるように消えていった。


 そして。


 アークレイドは、完全に消えた。


 神殿に、再び静寂が訪れる。


 誰もすぐには言葉を発せなかった。


 ただ、ビルセイヤだけが静かに空を見上げていた。


 右手には、英雄から託された力が残っている。


 千年前の英雄――アークレイド。


 その遺志は、確かに受け継がれた。


 そしてビルセイヤは、まだ知らない。


 この出会いが。

 この継承が。


 やがて世界の運命を大きく変える、最初の一歩になることを。


第二章 第八十話


英雄の遺志


――続く。

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