第七十九話 決着の剣
「今だぁぁぁぁぁっ!!」
アークレイドの叫びが、神殿最深部に響き渡った。
白銀の光に包まれた英雄が、命を削りながら異界の魔神を押さえ込んでいる。
魔神の両腕は斬り落とされていた。
翼も失われている。
それでもなお、異界の魔神は圧倒的だった。
黒い魔力が噴き出し続け、空間そのものを歪ませている。
だが――今しかない。
この瞬間を逃せば、二度と勝機は訪れない。
「うおおおおおおおっ!!」
ビルセイヤは地面を蹴った。
全身が悲鳴を上げている。
傷だらけだった。
魔力も体力も限界に近い。
それでも足は止まらない。
セシリア。
ツバサ。
エミリア。
リリア。
ミリア。
守りたい者たちの顔が、脳裏をよぎる。
だから、負けるわけにはいかなかった。
『人の子がぁぁぁっ!!』
魔神が咆哮する。
残された力を振り絞り、黒い魔力弾を生み出した。
十。
二十。
五十。
いや、百に迫る数。
それら全てが、ビルセイヤへ向かって放たれる。
「させない!」
セシリアが飛び出した。
剣を振るい、迫る魔力弾を弾き飛ばす。
だが、全ては防げない。
「任せろ!」
次に動いたのはツバサだった。
日本刀を鞘へ納める。
深く息を吸い、腰を落とす。
居合の構え。
「居合――絶影!!」
キィィィィィン!!
銀色の閃光が神殿を駆け抜けた。
無数の魔力弾が真っ二つに斬り裂かれる。
道が開いた。
「行けぇぇぇぇっ!!」
ツバサの叫びが背中を押す。
さらに――
「風の精霊たち!」
エミリアが杖を掲げる。
「お願いします!」
風が渦を巻いた。
追い風。
風の加護。
ビルセイヤの身体が、さらに加速する。
仲間たちの力が背中を押してくれる。
魔神核が目の前に迫った。
赤黒く脈動する巨大な結晶。
すでに無数の亀裂が走っている。
あと一撃。
本当に、あと一撃だ。
『やめろォォォォォォッ!!』
魔神が絶叫した。
初めてだった。
世界を滅ぼしかけた災厄が、恐怖を見せたのは。
ビルセイヤは剣を握り締める。
前世で学んだ剣道。
この世界で積み重ねた冒険。
仲間たちと越えてきた死線。
その全てが、今この一撃へ繋がっている。
そして胸の奥に、アークレイドの言葉が蘇った。
『お前には可能性がある』
その言葉を信じる。
仲間を信じる。
自分の剣を信じる。
「終わりだぁぁぁぁぁっ!!」
渾身の一撃。
全身全霊。
魂すら込めた斬撃。
ビルセイヤの剣が、魔神核へ叩き込まれた。
そして――
パリンッ。
小さな音が響いた。
だが次の瞬間。
バキバキバキバキッ!!
魔神核が崩壊を始める。
無数の亀裂が走り、赤黒い光が暴れ狂う。
『ああああああああああっ!!』
魔神の絶叫が世界を震わせた。
黒い魔力が暴走する。
巨大な身体が崩れ始める。
腕が消える。
翼が砕ける。
鱗が剥がれ落ちる。
異界の魔神が、光となって崩壊していく。
『アークレイド……!』
魔神が英雄を睨む。
『次こそ……必ず……』
言葉は最後まで続かなかった。
その身体は黒い光の粒となり、闇の中へ溶けるように消えていく。
やがて。
全てが消滅した。
静寂。
神殿を満たしていた禍々しい魔力も、もうない。
終わった。
千年前から続いていた戦いが。
「勝った……のか?」
ツバサが呟く。
誰もすぐには答えられなかった。
ただ、呆然と立ち尽くしていた。
その時。
アークレイドが静かに剣を下ろした。
だが――。
彼の身体は、白い粒子となって崩れ始めていた。
「アークレイド……?」
ビルセイヤが目を見開く。
英雄は穏やかに微笑んだ。
「終わったな」
その笑顔は、どこか満足そうだった。
第二章 第七十九話
決着の剣
――続く。




