第七十八話 最後の咆哮
ゴォォォォォォォォォォッ!!
魔神核から溢れ出した黒い魔力が、神殿最深部を埋め尽くした。
◇◇◇
空気が震える。
◇◇◇
床が砕ける。
◇◇◇
壁が軋む。
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神殿そのものが悲鳴を上げているようだった。
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崩壊は目前。
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もはやこの場所が戦場であり続けられる時間は残されていない。
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ビルセイヤは魔神核へ剣を突き立てたまま歯を食いしばる。
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「まだだ……!」
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魔神核には確かに亀裂が入っている。
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だが砕けていない。
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あと一歩。
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あと少し届かない。
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『見事だ』
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異界の魔神が低く笑った。
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巨大な赤い瞳がビルセイヤを見下ろしている。
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『まさか人の子がここまで辿り着くとはな』
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その声には怒りだけではなく、僅かな賞賛すら含まれていた。
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『だが終わりだ』
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魔神核の輝きが増す。
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黒い魔力が激しく渦を巻いた。
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そして。
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ドォォォォォォン!!
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爆発的な衝撃波。
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ビルセイヤの身体が吹き飛ばされた。
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「ぐあっ!」
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宙を舞う。
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そのまま石床へ叩き付けられた。
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全身に激痛が走る。
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肺から空気が抜けた。
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「ビルセイヤ!」
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セシリアが叫ぶ。
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駆け寄ろうとする。
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しかし。
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大量の魔物が立ちはだかった。
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「邪魔ぁぁぁぁっ!!」
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剣が閃く。
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一体。
◇◇◇
二体。
◇◇◇
三体。
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次々と斬り伏せる。
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だが数が多すぎた。
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突破できない。
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一方。
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アークレイドも魔神との激戦を続けていた。
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白銀の剣が閃く。
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魔神の腕を斬る。
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翼を斬る。
◇◇◇
鱗を砕く。
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だが。
◇◇◇
傷が再生していく。
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切り裂いた側から黒い肉が蠢き、元に戻っていくのだ。
◇◇◇
「再生速度が上がったか……!」
◇◇◇
英雄の表情が険しくなる。
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魔神核の暴走。
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それによって魔神本体も強化されていた。
◇◇◇
『終わりだ、アークレイド』
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魔神が笑う。
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『千年前の続きを始めよう』
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巨大な腕が振り下ろされる。
◇◇◇
ドォォォォォォン!!
◇◇◇
アークレイドが吹き飛ばされた。
◇◇◇
初めてだった。
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千年前の英雄が、明確に押されている。
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「そんな……」
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エミリアが顔を青くする。
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勝てないのか。
◇◇◇
英雄ですら。
◇◇◇
その時だった。
◇◇◇
地面に倒れていたビルセイヤがゆっくりと立ち上がる。
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全身が痛む。
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腕は痺れている。
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呼吸も苦しい。
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それでも。
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剣を手放さない。
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諦めるわけにはいかなかった。
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セシリアがいる。
◇◇◇
ツバサがいる。
◇◇◇
エミリアがいる。
◇◇◇
館ではリリアとミリアが待っている。
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帰る場所がある。
◇◇◇
守りたい人たちがいる。
◇◇◇
そして。
◇◇◇
守るべき世界がある。
◇◇◇
「まだ……終わってない」
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小さな声だった。
◇◇◇
だが確かな意思が込められていた。
◇◇◇
アークレイドが振り返る。
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英雄の瞳が細められた。
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「立つか」
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そして微かに笑う。
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初めて見せる穏やかな笑みだった。
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「やはりな」
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アークレイドが剣を構える。
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その身体から白銀の光が溢れ始めた。
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眩しいほどの輝き。
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だがビルセイヤには分かった。
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これはただの魔力ではない。
◇◇◇
命そのものだ。
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「ビルセイヤ」
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「最後だ」
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空気が変わる。
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英雄の生命力が燃え上がっている。
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「私が奴を止める」
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「その間に核を砕け」
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ビルセイヤは目を見開いた。
◇◇◇
「まさか……」
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理解してしまった。
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この技は代償を伴う。
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命を削る切り札だ。
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アークレイドは静かに笑った。
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「千年前も同じだった」
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「英雄とはそういうものだ」
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次の瞬間。
◇◇◇
ドォォォォォォォォォン!!
◇◇◇
白銀の光が爆発した。
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神殿全体を覆うほどの輝き。
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魔神が初めて驚愕の表情を浮かべる。
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『貴様っ!?』
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アークレイドが駆けた。
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今までの何倍もの速度。
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誰にも見えない。
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ただ白銀の軌跡だけが残る。
◇◇◇
そして。
◇◇◇
ズバァァァァァァァッ!!
◇◇◇
魔神の両腕が切断された。
◇◇◇
続いて翼。
◇◇◇
脚。
◇◇◇
全身へ無数の傷が刻まれていく。
◇◇◇
『ぐああああああああっ!!』
◇◇◇
魔神が絶叫する。
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千年ぶりに味わう痛み。
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その隙だった。
◇◇◇
アークレイドが叫ぶ。
◇◇◇
「今だぁぁぁぁぁっ!!」
◇◇◇
ビルセイヤは地面を蹴った。
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最後の力を振り絞る。
◇◇◇
仲間たちの想い。
◇◇◇
英雄から託された希望。
◇◇◇
全てを背負い。
◇◇◇
魔神核へ向かって飛び上がる。
◇◇◇
決着の時は、すぐそこまで迫っていた。
第二章 第七十八話
「最後の咆哮」
――続く。




