第七十六話 英雄の剣
ドォォォォォォン!!
異界の魔神が振り下ろした巨大な腕が、神殿最深部を激しく揺るがした。
◇◇◇
石床が砕け散る。
◇◇◇
太い石柱が根元からへし折れる。
◇◇◇
天井から大量の瓦礫が降り注いだ。
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まるで大地震そのものだった。
◇◇◇
だが。
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アークレイドはそこにいない。
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一筋の銀光となって回避していた。
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速い。
◇◇◇
あまりにも速い。
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ビルセイヤですら目で追うのが限界だった。
◇◇◇
「これが……英雄……」
◇◇◇
セシリアが呆然と呟く。
◇◇◇
Bランク冒険者として数々の強敵と戦ってきた彼女ですら、その動きは別次元に見えていた。
◇◇◇
そして。
◇◇◇
アークレイドが魔神の懐へ飛び込む。
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白銀の長剣を振り上げた。
◇◇◇
「はあああああっ!!」
◇◇◇
神速の斬撃。
◇◇◇
ズバァァァァァッ!!
◇◇◇
鋭い銀光が魔神の胸部を切り裂く。
◇◇◇
黒い鱗が砕け散った。
◇◇◇
黒紫色の血が噴き出す。
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『ぐぅっ……!』
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初めて魔神が苦痛の声を漏らした。
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効いている。
◇◇◇
確実に。
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「やった!」
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エミリアが思わず声を上げる。
◇◇◇
だが。
◇◇◇
アークレイドの表情は険しいままだった。
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「浅い……」
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低く呟く。
◇◇◇
魔神の巨体はあまりにも大きい。
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今の一撃でも致命傷には程遠かった。
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『やはり厄介だな』
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魔神が低く唸る。
◇◇◇
『千年前と同じく』
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その瞬間だった。
◇◇◇
魔神の身体から黒い霧が溢れ出す。
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それは瞬く間に形を変えた。
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狼型の魔物。
◇◇◇
巨大蜘蛛。
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翼を持つ異形。
◇◇◇
数十体。
◇◇◇
いや、数百体。
◇◇◇
神殿内部が魔物で埋め尽くされていく。
◇◇◇
「なっ!?」
◇◇◇
ツバサが目を見開く。
◇◇◇
「増援どころの数じゃねぇぞ!」
◇◇◇
魔物たちは一斉に襲い掛かってきた。
◇◇◇
ビルセイヤは即座に剣を抜く。
◇◇◇
「セシリア!」
◇◇◇
「分かってる!」
◇◇◇
二人が前へ出る。
◇◇◇
ツバサも日本刀を構えた。
◇◇◇
「英雄任せじゃ格好つかないからな」
◇◇◇
不敵に笑う。
◇◇◇
エミリアも杖を掲げた。
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「風の精霊たちよ!」
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「力を貸してください!」
◇◇◇
風が渦巻く。
◇◇◇
魔法陣が展開される。
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その間にも魔物は迫る。
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ビルセイヤが地面を蹴った。
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剣道で培った鋭い踏み込み。
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ズバッ!!
◇◇◇
一体目を斬り伏せる。
◇◇◇
二体目。
◇◇◇
三体目。
◇◇◇
次々と敵を倒していく。
◇◇◇
セシリアも負けてはいない。
◇◇◇
「はあああっ!」
◇◇◇
鋭い連撃。
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流れるような剣筋で魔物を切り裂く。
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一方。
◇◇◇
ツバサは静かに日本刀を鞘へ納めた。
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腰を落とす。
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呼吸を整える。
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居合の構え。
◇◇◇
「居合――」
◇◇◇
一瞬の静寂。
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そして。
◇◇◇
「抜刀!」
◇◇◇
キィィィィィン!!
◇◇◇
銀色の閃光が神殿を走った。
◇◇◇
次の瞬間。
◇◇◇
十数体の魔物が同時に両断される。
◇◇◇
「相変わらず無茶苦茶だな……」
◇◇◇
ビルセイヤが苦笑した。
◇◇◇
ツバサの居合は常識外れだった。
◇◇◇
しかし。
◇◇◇
戦況は決して楽ではない。
◇◇◇
倒しても倒しても魔物が現れる。
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まるで終わりが見えない。
◇◇◇
魔神の魔力が続く限り、無限に近い数を生み出せるのだろう。
◇◇◇
その時だった。
◇◇◇
「ビルセイヤ!」
◇◇◇
アークレイドの声が響く。
◇◇◇
英雄は魔神と斬り結びながら叫んだ。
◇◇◇
「奴の胸だ!」
◇◇◇
「胸?」
◇◇◇
「魔神核がある!」
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ビルセイヤは目を凝らした。
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確かに見える。
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黒い鱗の隙間。
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胸の奥で赤黒く脈動する巨大な結晶。
◇◇◇
まるで古代ゴーレムの魔力核だった。
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「なるほど……」
◇◇◇
弱点か。
◇◇◇
だが問題がある。
◇◇◇
あそこまでどうやって辿り着く?
◇◇◇
魔神は巨大だ。
◇◇◇
アークレイドですら苦戦している。
◇◇◇
その時。
◇◇◇
英雄が笑った。
◇◇◇
「だからお前が必要なんだ」
◇◇◇
ビルセイヤは目を見開く。
◇◇◇
アークレイドは魔神を睨みながら続ける。
◇◇◇
「私が道を作る」
◇◇◇
「お前が核を破壊しろ」
◇◇◇
神殿が再び揺れる。
◇◇◇
魔神の咆哮が響く。
◇◇◇
世界を震わせるほどの怒号だった。
◇◇◇
ビルセイヤは剣を握り締める。
◇◇◇
英雄から託された役目。
◇◇◇
世界の命運を左右する一撃。
◇◇◇
成功すれば勝てる。
◇◇◇
失敗すれば全てが終わる。
◇◇◇
それでも。
◇◇◇
ビルセイヤの瞳に迷いはなかった。
◇◇◇
「分かった」
◇◇◇
「やってみせる」
◇◇◇
その言葉を聞き、アークレイドは力強く頷く。
◇◇◇
そして英雄は再び魔神へ向かって駆け出した。
◇◇◇
決戦の時は近い。
第二章 第七十六話
「英雄の剣」
――続く。




