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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
鍛冶革命編

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第七十五話 英雄と魔神

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。


 神殿最深部が激しく揺れていた。


 中央に刻まれた巨大な魔法陣。

 その上で裂けた空間の向こう側から、黒い魔力が溢れ出している。


 ただ近くにいるだけで吐き気を催すほどの禍々しさ。

 空気は重く濁り、肺に入れるだけで身体が拒絶反応を起こしそうだった。


 ビルセイヤたちは武器を構えたまま、その光景を見上げる。


 裂け目の奥から、再び低い声が響いた。


『また会えたことを嬉しく思うぞ』


 異界の魔神。


 千年前、世界を滅亡寸前まで追い込んだ災厄。

 その存在が、今まさにこの世界へ姿を現そうとしている。


「嬉しくなどない」


 アークレイドが白銀の剣を構えた。


 刀身が淡く光を帯びる。

 千年前の英雄と呼ばれた男の横顔に、迷いはなかった。


「貴様との戦いは、あの時で終わったはずだ」


 裂け目の向こうで、魔神が嗤う。


『終わった?』 『本当にそう思うか?』


 次の瞬間――。


 ゴォォォォォォォッ!!


 空間の裂け目がさらに押し広げられた。


 黒い闇を押しのけるように現れたのは、巨大な角。

 漆黒の鱗。

 燃え盛るような赤い瞳。

 そして、人間など丸ごと呑み込めそうなほど巨大な口。


 魔神の頭部だけが、裂け目から姿を現した。


「でかすぎるだろ……」


 ツバサが呆然と呟く。


 その大きさは、神殿の広間を埋め尽くしかねないほどだった。

 まだ全身ですらない。

 それなのに、この圧迫感。


 セシリアは唇を噛み締める。


 戦う前から、心が削られていく。

 格上――などという言葉で片付けられる差ではない。


 存在そのものが違う。


「下がっていろ」


 アークレイドが短く言った。


「ここから先は私の戦いだ」


 そう言うと、英雄は一歩踏み込んだ。


 ドォォォォン!!


 石床が砕け、アークレイドの身体が弾丸のように射出される。


 速い。


 ビルセイヤですら、目で追うのがやっとだった。


「はあああああっ!!」


 白銀の剣が閃く。


 ズバァァァァァッ!!


 魔神の巨大な角が、根元から切断された。


『ほう』


 低く、愉快そうな声が響く。


『腕は鈍っておらぬか』


「当然だ」


 アークレイドは空中で身を翻し、そのまま追撃に入る。


 一閃。


 さらに一閃。


 そして、連続する斬撃。


 無数の銀光が魔神の顔面と首元へ叩き込まれた。

 その一撃一撃は、ビルセイヤが全力で放つ斬撃よりも遥かに鋭く、重い。


 だが――。


『甘い』


 魔神の赤い瞳が妖しく光った。


 直後、黒い魔力がその全身から爆発する。


 ドォォォォォォン!!


 凄まじい衝撃波が広間を薙ぎ払った。


「っ!?」


 アークレイドの身体が弾き飛ばされる。


 セシリアが思わず声を上げた。


「アークレイド!」


 英雄が押された。


 その事実に、誰もが息を呑む。


 だが、アークレイドは空中で体勢を立て直し、軽やかに着地した。

 床を数歩滑っただけで、傷一つ負っていない。


「なるほど……」


 アークレイドが低く呟く。


「封印が弱まっているだけではないな」


『当然だ』


 魔神が愉快そうに嗤った。


『千年もの間、私は眠っていたわけではない』 『封印の内側で力を蓄え続けていたのだ』


 その声だけで、神殿全体が震える。


『次こそ世界を喰らうためにな』


 ゾッとするほどの悪意だった。


 魔神の周囲から溢れ出る黒い魔力が、神殿の壁や床を侵食するように揺らめいている。

 空気そのものが悲鳴を上げているようだった。


 その時。


 アークレイドが、ふいに振り返った。


 視線は、まっすぐビルセイヤへ向けられている。


「ビルセイヤ」


「……何だ」


 反射的に答える。


 アークレイドの眼差しは真剣そのものだった。


「お前に頼みがある」


 その言葉に、場の空気がさらに張り詰める。


「もし私が敗れたら――」


 全員が凍り付いた。


 英雄が、負ける?


 そんな言葉、聞きたくもなかった。

 考えたくもなかった。


 だが、アークレイドは静かに続ける。


「この世界を頼む」


 ビルセイヤは目を見開いた。


 何を言っている。


 自分はまだBランク冒険者だ。

 ブラックベアロードや超巨大ゴーレムと戦ってきたとはいえ、目の前で繰り広げられている戦いとは次元が違う。


 千年前の英雄のような力などない。

 世界の命運を背負えるような存在でもない。


 だが――。


 アークレイドの目は、本気だった。


「お前には可能性がある」


 静かな声だった。


「千年前には存在しなかった可能性がな」


「……どういう意味だ」


 問い返そうとした、その瞬間。


『余所見とは、随分と余裕だな』


 魔神の声が割って入る。


 巨大な腕が、再び振り下ろされた。


 それは神殿ごと叩き潰すような一撃だった。


 アークレイドは即座に前へ駆け出す。


 白銀の剣を構え、再び魔神へ向かっていく。


 千年前の英雄。


 世界を救った男。


 そして――異界の魔神。


 世界を滅ぼしかけた災厄。


 神殿最深部で、二つの伝説が激突する。


 その戦いを、ビルセイヤたちはただ見ていることしかできなかった。


 だが、アークレイドが残した言葉だけは、確かに胸へ刻まれていた。


 ――千年前には存在しなかった可能性。


 それが何を意味するのか。


 答えを聞く暇もなく、世界の命運を賭けた戦いは、本当の意味で幕を開けようとしていた。



---


第二章 第七十五話


英雄と魔神


――続く。


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