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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
鍛冶革命編

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第七十三話 千年前の英雄

 神殿最深部――。


 異様な静寂が広がっていた。


◇◇◇


 誰も動かない。


◇◇◇


 いや、動けない。


◇◇◇


 封印から解放された男――アークレイド。


◇◇◇


 その存在感が、空間そのものを支配していた。


◇◇◇


 ただ立っているだけ。


◇◇◇


 それだけで周囲の空気が重くなる。


◇◇◇


 まるで目の前にいるのは人間ではなく、巨大な竜か、あるいは天災そのものだった。


◇◇◇


 ビルセイヤは無意識に剣を握り直す。


◇◇◇


 本能が警鐘を鳴らしていた。


◇◇◇


 危険だ。


◇◇◇


 今まで戦ったどんな敵よりも。


◇◇◇


 ブラックウルフキング。


◇◇◇


 ブラックベアロード。


◇◇◇


 超巨大ゴーレム。


◇◇◇


 それらとは比較にならない。


◇◇◇


 もし敵になれば勝てる保証などどこにもなかった。


◇◇◇


「お前たち」


◇◇◇


 アークレイドが口を開く。


◇◇◇


 落ち着いた声。


◇◇◇


 だが、その一言だけで全員の神経が張り詰めた。


◇◇◇


「今は何年だ?」


◇◇◇


 意外な問いだった。


◇◇◇


 ビルセイヤは警戒を解かぬまま答える。


◇◇◇


「神歴一〇三二年だ」


◇◇◇


 アークレイドは静かに目を閉じた。


◇◇◇


「なるほど……」


◇◇◇


「本当に千年経ったのか」


◇◇◇


 その表情には懐かしさが浮かんでいた。


◇◇◇


 まるで長い夢から目覚めた者のように。


◇◇◇


 だが、油断はできない。


◇◇◇


 足元では黒ローブの男が苦しんでいる。


◇◇◇


 自分を復活させた相手を平然と叩き潰した男だ。


◇◇◇


「聞きたいことがある」


◇◇◇


 ビルセイヤが一歩前へ出た。


◇◇◇


「お前は本当に英雄なのか?」


◇◇◇


 アークレイドは小さく笑う。


◇◇◇


「英雄か……」


◇◇◇


「懐かしい呼び名だ」


◇◇◇


 そう呟き、遥か上の天井を見上げた。


◇◇◇


「確かに昔はそう呼ばれていた」


◇◇◇


 神殿に静かな声が響く。


◇◇◇


「千年前――」


◇◇◇


「異界の門が開いた」


◇◇◇


 その言葉に全員が耳を傾ける。


◇◇◇


「そこから現れたのは異界の魔神」


◇◇◇


「そして無数の異界魔物たちだった」


◇◇◇


 先ほど見た映像。


◇◇◇


 古代文明を滅ぼした災厄。


◇◇◇


 それが現実だったのだ。


◇◇◇


「私は戦った」


◇◇◇


「仲間たちと共にな」


◇◇◇


 一瞬だけ。


◇◇◇


 その瞳に深い悲しみが宿る。


◇◇◇


「多くの者が死んだ」


◇◇◇


「多くの国が滅びた」


◇◇◇


「文明さえ消え去った」


◇◇◇


 重い言葉だった。


◇◇◇


 実際にその地獄を見た者だけが語れる重みがある。


◇◇◇


「そして最後に」


◇◇◇


「私は異界の魔神を封印した」


◇◇◇


 セシリアたちが息を呑む。


◇◇◇


 本物だ。


◇◇◇


 目の前の男は間違いなく世界を救った英雄だった。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 ツバサが疑問を口にする。


◇◇◇


「なら何で封印されてたんだ?」


◇◇◇


「普通なら英雄として祀られるだろ」


◇◇◇


 その問いに、アークレイドは沈黙した。


◇◇◇


 数秒。


◇◇◇


 静寂が流れる。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


「封印したのは私自身だ」


◇◇◇


「……は?」


◇◇◇


 セシリアが目を丸くする。


◇◇◇


 アークレイドは続けた。


◇◇◇


「異界の魔神は倒せなかった」


◇◇◇


「封印しただけだ」


◇◇◇


 全員の表情が変わる。


◇◇◇


「まさか……」


◇◇◇


 エミリアが震える声を漏らした。


◇◇◇


「まだ生きているんですか?」


◇◇◇


「生きている」


◇◇◇


 即答だった。


◇◇◇


 神殿の空気がさらに重くなる。


◇◇◇


「封印は永遠ではない」


◇◇◇


「いずれ必ず弱まる」


◇◇◇


「だから私は眠った」


◇◇◇


「次の戦いに備えてな」


◇◇◇


 理屈は分かる。


◇◇◇


 世界を守るため、自ら封印の中で眠った。


◇◇◇


 確かに英雄らしい選択だ。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 ビルセイヤには一つだけ引っ掛かることがあった。


◇◇◇


「なら、なぜ怒った?」


◇◇◇


 視線を黒ローブの男へ向ける。


◇◇◇


 蛇の牙の首領。


◇◇◇


 彼は世界を救うためにアークレイドを復活させたはずだ。


◇◇◇


 アークレイドは静かに答えた。


◇◇◇


「まだ早い」


◇◇◇


「封印は破られていない」


◇◇◇


「今の世界には、まだ戦う時間が残されていた」


◇◇◇


 その時だった。


◇◇◇


 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


◇◇◇


 神殿全体が揺れ始める。


◇◇◇


「何だ!?」


◇◇◇


 ツバサが即座に周囲を警戒する。


◇◇◇


 すると。


◇◇◇


 神殿中央に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


◇◇◇


 黒い光。


◇◇◇


 禍々しい魔力。


◇◇◇


 見るだけで本能が拒絶するような気配。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 初めてだった。


◇◇◇


 アークレイドの表情から余裕が消える。


◇◇◇


「馬鹿な……」


◇◇◇


 英雄が呟く。


◇◇◇


「封印が……ここまで弱まっているのか?」


◇◇◇


 次の瞬間。


◇◇◇


 ピシッ――。


◇◇◇


 魔法陣の中心に亀裂が走った。


◇◇◇


 空間そのものが割れる。


◇◇◇


 あり得ない現象。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 闇の裂け目の奥から、巨大な赤い瞳が現れた。


◇◇◇


 見た瞬間。


◇◇◇


 全員の背筋が凍り付く。


◇◇◇


 理屈ではない。


◇◇◇


 本能が理解した。


◇◇◇


 あれは見てはいけない存在だと。


◇◇◇


 アークレイドが剣へ手を掛ける。


◇◇◇


 その表情は英雄ではない。


◇◇◇


 千年前の戦士だった。


◇◇◇


「来るぞ……」


◇◇◇


 低い声が神殿に響く。


◇◇◇


 異界の魔神。


◇◇◇


 千年前に世界を滅亡寸前まで追い込んだ災厄。


◇◇◇


 その復活の時が、ついに迫っていた。


第二章 第七十三話


「千年前の英雄」


――続く。

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